熊本発・大人の「待つ姿勢」が子どもを育てる 自由進度学習の広がりがもたらすもの

【小学校教育2.0】熊本市立弓削(ゆげ)小学校・松永先生の挑戦#4 「自由進度学習・学校への広がり」

松永先生は今年度、6年1組の担任をしていますが、学年主任でもある6年2組の担任の郷美紀先生、そして、算数の少人数制指導(高学年専科)※を担当している岡本健裕先生から、相談を受けます。

少人数制指導
弓削小学校では、高学年の算数の授業を少人数制で行っており、クラスを半分に分け、担任と少人数制指導の先生がそれぞれのグループを指導する方法を取っている。

それは、6年生全体で、2学期から算数の授業を、自由進度学習で実践してみたい、という内容でした。

左から郷美紀先生(6年2組担任/学年主任)、岡本健裕先生(高学年専科担当)。
すべての画像を見る(全11枚)

岡本先生は、2021年度、5年生のクラスで松永先生が自由進度学習を実践してる様子を見て、当時から興味を持っていたそうです。

そして新年度になり、昨年度は松永先生のクラスで学んでいた子どもたちを、(少人数指導で)岡本先生が担当することになりました。自由進度学習をしていない状況でも、みんなしっかりと自分の学びをコントロールして、学習を進めている姿に驚いたといいます。

そのなかには、5年生の前半まで支援が必要だと思われていた子もいました。彼(彼女)たちも、自分の学びを着実に進めながら、グループ学習では友達と教え合って積極的に学んでいます。大きく成長した姿を見て、岡本先生は改めて、自由進度学習の効果を実感しました。

岡本先生は次第に、「6年生全体で自由進度学習を実践したら、子どもたちがどう変化するのか。きっと子どもたちにプラスになるのではないか」と思うようになりました。

そして、こうした内容をレポートとしてまとめ、学校内の研修で発表。それを聞いた6年2組の担任で学年主任でもある郷先生も、元々自由進度学習を学んで実践したいという気持ちがあったため、松永先生への相談に至りました。

「夏休み中、とにかく3人でたくさん対話をしました。

自由進度学習という、学びの個別化・協同化の方法論だけではなく、どんな学びが子どもたちにとって良い学びなのか、教育ってそもそも何のためにあるのかなど、教師として根本の部分まで話すことができ、僕にとっても多くの学びがありました」(松永先生)

教師が尊重し合う姿から子どもに伝わるもの

2学期から、6年2組の算数でも自由進度学習を開始しました。昨年度、松永先生のクラスで自由進度学習を経験している子もいるので、すでにいきいきと学習を進める子どもたちの姿が出てきています。

自由進度学習で、ともに学び合う子どもたち。  写真提供 松永賢斗氏

ただ、やはり難しい部分に直面することもあります。

「先生方は、子どもたち全体に声をかけてポイントを確認しておきたい、と思う瞬間がある反面、そうすると、せっかく自分のペースで学びを進めている子の邪魔になるのではないか、などと葛藤することもあるようです。

でも、それ自体がとても素晴らしいことだと思うんです。教える側の都合でなく、常に子どもの立場で考えられていて、子どもにとって最も良い方法を模索している。

実践をしていれば、うまくいくこともいかないこともありますが、それを先生同士が共有して、子どもたちの次の学びに生かしていくことが大切だと思っています。

それをできる仲間が増えたことを、とてもうれしく思っています」(松永先生)

次のページへ 対話がもたらした大きな変化とは?
40 件