熊本発・大人の「待つ姿勢」が子どもを育てる 自由進度学習の広がりがもたらすもの
【小学校教育2.0】熊本市立弓削(ゆげ)小学校・松永先生の挑戦#4 「自由進度学習・学校への広がり」
2022.12.09
さらに、弓削小学校では、プロジェクト型の探究学習に興味を持つ先生も出てきており、今後は研究授業として、松永先生の探究学習の授業を公開していく予定です。
「夏休みから、郷先生と岡本先生と対話を重ねてきて、話せば話すほどお互いを理解し、尊重できるようになっていると感じます。
お二人とも、教員として尊敬できる方なのはもちろん、キャリア的にも僕よりも経験豊富で、学ばせていただくことのほうがはるかに多いです。
にも関わらず、『(自由進度学習について)学ばせてほしい』と僕のことも尊重してくださる。
そういう関係性で対話を重ねて、一緒に試行錯誤している僕たち教師の姿から、何らか伝わるものがあるのではないか、とも思っています。
お互いに尊重し合う大人が近くにいることで、子どもたちにその素晴らしさが少しでも伝わるとうれしいです。
学校内で、少しずつこうした関係を広げていけたらと思っています」(松永先生)
松永先生の提案授業から1年を経て、再び、弓削小学校での「学びの個別化・協同化・プロジェクト化」の実践が広がり始めました。
「学び方を学ぶ」は人生の武器になる
松永先生は、学生時代から苫野一徳先生のゼミなどを通して、国内外を問わず、先進的な教育を行う学校への視察経験がありました。
こうした経験に自身の実践も加わり、改めて「学びの個別化・協同化・プロジェクト化」の意義を強く感じているといいます。
「プロジェクト型の探究学習も自由進度学習も、これから社会で子どもたちが、自分と他者をともに尊重し、『自由』に生きていくために必要な力を育むものです。
その柱となるのは、探究学習で行う『自分なりの問いを立て、自分なりのやり方で、自分なりの答えにたどり着く』ことだと思いますが、充実した探究学習に取り組むためには、自由進度学習で身につく『自ら学習計画を立て、自分の学びを振り返り、改善しながら成長していく力』も必要になります。
つまり、相互に関連し合っているということです。
そして、どちらの実践を行う上でも、僕が大切にしているのは、『学び方を学ぶ』ことなんです」(松永先生)
松永先生のクラスには、岩瀬直樹さんの言葉である、『学びのコントローラーを持ちましょう』というキーワードが教室に掲示されています。その下に、学びのコントローラーを持つために大切なことが列記されています。例えば、わからないをそのままにしない、わかるとできるは大違い、時間を大切に!(時間の管理も学びの一つ)、などです。
「こういう学び方ができたらいいよね」というポイントを共有することによって、子どもたちに自分なりの学びの方法を身につけてもらいたい、と考えているからです。
「学び方さえわかっていれば、この先の人生で、社会的・個人的、どちらの課題に直面したときでも、それに正面から取り組んでいけると思うんです。
小学校時代に自分自身の興味や関心を大切にしながら、学びをコントロールして成長できた経験が“原体験”となって、その後の学びや人生を進んでいく上での力となってくれたら……。そんなふうに考えて、日々試行錯誤しながらも、実践を続けています」(松永先生)
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社会的にも急激な変革期にある現在。学校、そして先生方も、未来を見据えた変化が求められています。
そして、それは私たち親も同じかもしれません。
「子どもの将来のため」と勉強を一方的に押し付けるのではなく、子どもが自分の興味や好奇心に基づき自分自身のペースで学び、成長していく姿を見守る。そして、子どもに寄り添い、一緒に学んでいく。
先生や親、社会全体に、こうした姿勢が求められていると実感しました。
取材・文 川崎ちづる
#1 熊本発・子どもの「学びたい」があふれ出す プロジェクト型探究学習の中身とは?
#2 熊本発・探究学習で成績もアップ! 子どもたちに「生きた知識」が身についた理由
#3 熊本発・自由進度学習成功のカギ 子ども同士のコミュニケーションを育てるには?
川崎 ちづる
ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。
ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。