熊本発・大人の「待つ姿勢」が子どもを育てる 自由進度学習の広がりがもたらすもの

【小学校教育2.0】熊本市立弓削(ゆげ)小学校・松永先生の挑戦#4 「自由進度学習・学校への広がり」

ライター:川崎 ちづる

自由進度学習が続かなかったある理由

松永先生の公開授業後、自由進度学習に挑戦した先生はいました。しかし、継続までは至らず、一時的な取り組みで終わってしまいました。その後ほとんどの先生が、一般的な一斉授業に戻ってしまったといいます。

その理由を、松永先生はこう語ります。

「一斉授業をベースとした指導は、早いしわかりやすいんです。答えが間違っている子がいたら、教師が声をかけて『こうだよね』と指導すれば、間違いはすぐに正されます。

子どもに任せると、教えていないことへの不安が募る。教師が教えてしまった方が確実です。そうすればテストの点数も上がるので、短期間でも成果は保証されやすい。

一方で、自由進度学習の効果が出てくるには、ある程度時間がかかります。

自由進度学習は、単元の内容を勉強して、テストをしたら終わり、というわけではありません。テスト後は、自分の学び方を振り返り、どんなことができたか、反対に何が足りなかったのかを考えます。

それらを踏まえて、次の単元ではどういう学び方をしたらいいのか、内省を繰り返して模索していくんですよね。自分の学びの傾向を知りながら、自分に合った学び方を自分自身で考える。

自由進度学習は、友達と助け合いながらも、自分自身の学びと向き合うことが大切です。  写真提供 松永賢斗氏

とても時間がかかりますが、子どもたちは確実に成長していくんです。もちろん、長期的には成績も上がります。

でも、長い期間をかけて、子どもたちの成長を“待つ”必要がある。ここは、教師にとってすごく難しい部分だと思います」

「どこまで待てばいいのか」「いつ、どのタイミングで子どもに声をかけるのか」は、松永先生にとっても難しく、日々迷いながら、試行錯誤の連続だといいます。

「以前、間違っている方法で問題を解いている子に、声をかけようか迷ったことがありました。ぐっとこらえて少し待っていたら、その子が自分で別の方法を試して、正解にたどり着いたんです。それを経験したときに、『待っていてよかった』と心底思いました。

子どもたちを信じ、任せ、待って支える。これが一番大切だと肝に銘じて、日々授業に臨んでいます」(松永先生)

先生のなかにも葛藤があり、子どもにきちんと学んでほしいという想いがあるからこそ、「待つ」が難しい。これは、多くの親にとっても同様の“課題”かもしれません。

学年内で広がった! 自由進度学習

松永先生が始めた自由進度学習は、学校全体には広まらなかったものの、授業の一部でチャレンジを続ける先生がいるなど、その火が完全に消えてしまうことはありませんでした。

2022年度、教員の校内研修の担当になった松永先生は、教師自身が子どもの立場になって学びを経験するためのワークショップ型研修を開始しました。

また、教員同士の紹介、海外で実践されているオルタナティブ教育などを紹介する「ニューズレター」を発行して、地道に少しずつ、新しい学びへの理解を広げるための活動を行っています。

松永先生が不定期で発行している「ニューズレター」。  写真提供 松永賢斗氏

そして、その活動が少しずつ実り始め、夏休みには大きな変化がありました。

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