「教育がないと貧困は再生される」外国人1割超の新宿で学習支援が必要なワケ
吉川英治文化賞受賞・小林普子さんに聞く「外国にルーツを持つ子どもたちの教育支援」第1回
2023.06.08
ライター:太田 美由紀
2023年4月、こども家庭庁が発足し、こども基本法が施行されました。
こども家庭庁のホームページには「こどもがまんなか」の社会を実現するために、「こどもの権利」を守るためのこども政策に取り組むと書かれています。
「こどもがまんなか」とはどんな社会なのでしょうか。
「こどもの権利」とはどんなことなのでしょうか。
NPO法人「みんなのおうち」代表理事の小林普子(こばやし・ひろこ)さんは、新宿区で20年以上に渡り、外国にルーツのある子どもたちの教育支援を続け、第57回(令和5年度)吉川英治文化賞(※1)を受賞しました。
その活動の裏に、小林さんのどんな思いがあったのか。外国にルーツのある子どもたちの日常はどんなものであったのか。
全3回にわたってお届けし、私たちが目指すべき本当の「こどもがまんなか」とは何か、「子どもの権利」とは何かに迫ります。
第1回は、現在の「こどもクラブ新宿」の様子と、3人の子育てに奔走し、50歳を過ぎて活動を始めるまでの小林さんの背景をご紹介します。
※全3回の1回目
小林普子PROFILE
こばやし・ひろこ 1948年、愛知県生まれ。NPO法人「みんなのおうち」代表。2000年ごろから日本語・教育支援のボランティアを始め、2005年、NPO法人「みんなのおうち」設立。2007年に外国にルーツを持つ子どもを対象の日本語・学習支援教室「こどもクラブ新宿」を立ち上げ、2017年から居場所「みんなのおうち」を開設、現在に至る。
支援をはじめて20年以上 500人の子どもたちと共に
「こんにちはー! 今日は弟くんも一緒ね。隣に座ってあげる?」
「あら、髪切ったのね。ここに座って。今日は何の勉強したいですか?」
夕方の6時前、学習支援教室「こどもクラブ新宿」に次々とやってくる子どもたちに小林さんが笑顔で話しかけます。
初めて来た男の子は少し緊張して様子をうかがっていましたが、小林さんがゆっくりわかりやすい日本語で話しかけるうちに、緊張もほぐれ、笑顔が見えるようになりました。
東京都新宿区の大久保地域で活動している「こどもクラブ新宿」。日本語をはじめ、国語・算数・英語などを、外国にルーツを持つ小学4年生から中学3年生までの子どもたちに無料で教えています。
週2日(中学1・2・3年生は週3日)の開催ですが、それ以外の平日は、主に中学生が活用できる居場所「みんなのおうち」を運営しています。
大久保周辺は韓国の店が立ち並ぶ観光スポットとしても人気の地域。新宿にも近いため、世界各国から来た人たちが多く暮らしています。
新宿区は住民の10人に1人が外国籍。その割合は東京都23区内でも飛び抜けて高く、小中学校にも多くの外国にルーツを持つ子どもたちが通っています。
「こどもクラブ新宿」や「みんなのおうち」を利用しているのは、中国、フィリピン、タイ、コロンビア、カンボジア、ミャンマー、ネパール、ベトナムなどさまざまな国にルーツを持つ子どもたちです。
「ここに来ている子どもたちは、外国籍、日本国籍にかかわらず、両親あるいは一方の親の母語が日本語ではありません。
母親の母語が日本語ではない場合がほとんどで、学校とのやりとりもスムーズではない家庭が多い。みんなインターナショナルスクールや私立ではなく、公立の小中学校に通っています。
中には日本で生まれ、日本国籍を持ち、日本の名前で、日本語を問題なく話せる子もいます。一見支援は必要ないと思われがちですが、家庭で日本語が使われる機会が少ないため、学年が上がるにつれて語彙(ごい)が足りず、授業についていけなくなることがあるんです。受験などの情報の入手が難しい家庭もあります。
そのようなこともすべて本人の努力不足とされてしまうことがある。貧困の再生産に陥らないためにも、子どもたちの教育や家庭への情報提供はとても重要です。これは、日本人の子どもの貧困問題にも言えることです」(小林さん)
教室ではボランティア1人に対して子どもは1~2人。通い慣れた子どもたちは友達とのおしゃべりも楽しみの一つですが、学習の時間は集中して取り組むようにていねいに声をかけます。
親には話せない学校での悩みや進路の相談も、小林さんをはじめボランティアの皆さんが真摯に受け止め、最後まで一緒に考え、必要があれば課題を解決してくれる人や組織につなぎます。
小林さんが日本語・教育支援を始めてから20年以上が経ちました。これまでにここで学び、進学した子どもたちはおよそ500人。今では、卒業生の子どもも通いはじめています。