小・中学校の不登校児が約30万人と急増… 鴻上尚史「不登校はたいした問題じゃない 大事なのは自分を守ること」

シリーズ「不登校のキミとその親へ」#8‐1 作家・演出家の鴻上尚史さん~子どもたちへ~

作家・演出家:鴻上 尚史

「いちばん大事なこと」は何かを考えよう

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今、世の中では「不登校の増加」が大きな問題になっています。でも、僕は何が問題なのかよくわからない。行きたくないなら、行かなくていいんじゃないかな。

朝起きるのが面倒だとか友だちとケンカして顔を合わせづらいとかで、一時的に「学校に行きたくないな」と思うこともあります。そうじゃなくて、学校という場所に対して心が悲鳴を上げているなら、自分に無理をさせ続ける必要はありません。

キミにとっていちばん大事なのは、自分を守ることです。それ以上に大事なことなんてない。

まずは勇気を振り絞って、親に「学校に行きたくない」という気持ちを伝えてみましょう。親はあわてるだろうし、たぶんすぐには納得してくれません。でも、親もいつか必ず気が付きます。「この子にとって大事なのは、無理に学校に行かせることじゃない」って。

「行きたくない」と思う理由は、イジメだったり先生と相性が合わなかったり、学校という場の空気に耐えられなかったり、人それぞれいろいろあるでしょう。

すでに「行かない」という選択をしているキミは、とても立派です。自分にとって何が大事かを考えて、自分のために大きな一歩を踏み出せたんだから。自信を持ちましょう。

「学校に行かなかったら将来どうなるんだろう」と不安に思うかもしれない。親もそこが心配だったりする。でも、勉強は学校に行かなくても、どこでだってできます。学校に通い続けることで心のエネルギーが空っぽになったら、それこそ取り返しがつきません。

学校の存在意義って何だろうって考えると、結局は人間関係を学ぶことなんだよね。人間関係って言ってもすごくピンキリがあって、生涯の友人と言えるようなヤツに出会えるとか、とても幸福なグループを作れるっていう場合もあれば、ひどいイジメを受けて人間不信になるとか、人と話すのが怖くてたまらなくなるなんてことある。

もしキミが今、ひどいイジメを受けているなら、迷わず逃げてください。「逃げずに戦え」なんて無責任なことを言う大人もいるけど、イジメと戦っても余計に深刻なダメージを受けるだけです。

本当はイジメる側を学校から追い出したいところだけど、それは現状では難しいから、まずは早く逃げることで自分を守ってほしい。

学校が息苦しくて耐えられない場合もあるでしょう。周囲に合わせてばかりの毎日で、クラスメイトや先生の顔色ばっかりうかがっている自分が嫌でしょうがないとかね。

難しい言葉で「同調圧力」って言うんだけど、日本はとくにそれが強いと言われています。強い違和感を覚える人は、むしろ「正常な感覚」の持ち主なんじゃないかな。

学校に行ってもつらいだけでマイナスの人間関係しか学べないなら、行く意味はありません。今のキミにとって、学校に行くか行かないかは「重要な問題」だと思う。だけど、大人になって振り返ってみたら、ぜんぜんたいした問題じゃない。

学生生活を送るにせよ社会で働くにせよ、休まずに学校に行っていた人との違いなんてまったくありません。

人間は誰しも幸せになるために生きています。学校に行きたくないと悩んでいるキミや、学校に行けない自分を責めているキミに、あらためて言います。

今の自分にとって「いちばん大事なこと」は何かを考えてください。自分を守る道を選んでください。選ぶことができた自分をホメてあげてください。ゆっくり休んで、自分の道を歩き始めましょう。


取材・文/石原壮一郎

現代を生きる中・高校生の「君」に向けて鴻上さんが「本当に役に立つアドバイス」を詰め込んだ『君はどう生きるか』(講談社)。大人もハッとさせられる一冊。

※鴻上尚史さんの「不登校」記事を読む(公開までリンク無効)
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こうかみ しょうじ

鴻上 尚史

Shoji Kokami
作家・演出家

1958年愛媛県生まれ。早稲田大学法学部卒業。1981年に劇団「第三舞台」を旗揚げする。以降、数多くの作・演出を手がける。紀伊國屋演劇賞団体賞、岸田國士戯曲賞、読売文学賞戯曲・シナリオ賞など受賞。 舞台公演のほか、エッセイスト、小説家、テレビ番組司会、ラジオ・パーソナリティ、俳優、映画監督など幅広く活動。また、俳優育成のためのワークショップや講義も精力的に行うほか、表現、演技、演出などに関する書籍を多数発表している。 『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる』(岩波ジュニア新書)、『親の期待に応えなくていい』(小学館Youth Books)、『君はどう生きるか』(講談社)など、子どもと若者へのメッセージが詰まった著書も多数。 ●サードステージ公式HP

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1958年愛媛県生まれ。早稲田大学法学部卒業。1981年に劇団「第三舞台」を旗揚げする。以降、数多くの作・演出を手がける。紀伊國屋演劇賞団体賞、岸田國士戯曲賞、読売文学賞戯曲・シナリオ賞など受賞。 舞台公演のほか、エッセイスト、小説家、テレビ番組司会、ラジオ・パーソナリティ、俳優、映画監督など幅広く活動。また、俳優育成のためのワークショップや講義も精力的に行うほか、表現、演技、演出などに関する書籍を多数発表している。 『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる』(岩波ジュニア新書)、『親の期待に応えなくていい』(小学館Youth Books)、『君はどう生きるか』(講談社)など、子どもと若者へのメッセージが詰まった著書も多数。 ●サードステージ公式HP

いしはら そういちろう

石原 壮一郎

コラムニスト

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか