教育系YouTuber葉一 「イジメ」に苦しんだ中学時代を救った母親の“普通すぎる“態度

シリーズ「不登校のキミとその親へ」#4‐2 教育系YouTuber・葉一さん~学校に行かない時期の子どもと親はどうあるべきか~

教育系YouTuber:葉一

イジメがつらく学校に行けなかった日、何も聞かず休ませてくれた母親に救われたという葉一さん。  写真:日下部真紀
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登録者数199万人の人気YouTuber・葉一さんは、中学時代にイジメられた経験があります。

どうにもつらくて「学校を休みたい」と伝えた日、葉一さんは母親の“普通すぎる”接し方にとても救われ、安らげたと言います。

学校に行かない子どもは家でどう過ごせばいいのか、「学校に行きたくない」と言われた親はどう受けとめるべきかを伺いました。

第2回/4回(#1を読む

●葉一(はいち)プロフィール 
登録者数 199万人(2024年2月現在)の教育系YouTuber。1985年、福岡県生まれ。東京学芸大学卒業後、教材販売の営業、学習塾講師を経験。2012年からYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」を開設。小学3年生から高校生に向けた授業動画を配信し大人気に。公式サイト「19ch.tv(塾チャンネル)」ではプリントを無料配布。2児のパパ。

イジメられているとは親に言えなかった

中学1年生の終わりごろから、イジメを受けるようになりました。当時はぽっちゃりしていたんですが、女子グループから、面と向かって「デブ」「キモイ」と言われたり陰口を言われたりしました。男子に階段で蹴とばされて転げ落ちたこともあります。教師まで、私の容姿をいじって笑いを取っていました。

まわりは見て見ぬフリです。小学校から仲が良かった友だちも、イジメてくる集団と裏でつながっているんじゃないかと思うと信じられなくなり、相談できませんでした。完全に人間不信でしたね。

親にも、イジメのことは言えなかった。生まれつき障害のある妹の世話が大変なのは分かっていたので、余計な心配をかけたくなかったんです。

学校に行くのは苦しかったけど、こんなヤツらのために自分が学校を休むのは嫌だと思って意地で通い続けました。負けず嫌いな面が出ていたんだと思いますね。今思うと、学校に行かない選択をしたときに、そのことを自分の中でプラスに持っていける自信がなかったのかもしれない。

私が中学生だったころは、今以上に「学校は行くもんだ」という風潮が根強くありましたし、少なくとも私は中学生ながらそう感じていました。

不登校に関する情報は何もないし、周囲からの見られ方もぜんぜん違う。そんな中で休んでいたら、もっとメンタルが悪化していたでしょうね。もし今だったら、学校に行かない選択をしたかもしれません。

親の対応にも救われました。ウチの親はすごく放任主義で、なんでも「あなたの好きにしなさい」っていうタイプなんです。たまに「もう無理」となる日があって、母親に「休みたい」と言うと、何も聞かずに「わかった」と休ませてくれました。

母もパートが休みだったら、「じゃあ、ご飯食べに行こうか」と言ってくれたりして。学校が普通じゃなかったから、家は普通だったことが私にはとっても幸せでした。

YouTubeを通じて親に当時の感謝を伝えた

親に直接「あのころ、僕がイジメられていたことに気づいていた?」と確かめたことはありません。わざわざ聞くのも野暮かなと思って。

ただ、何年か前にYouTubeの「とある男が授業をしてみた」の中でやっている「はいちのだらだラジオ」で、イジメられていた自分の経験を話したんです。

そしたら、それを聞いた母からLINEが来て、「ごめんね」と謝られたんですよね。こっちも「俺こそ変な形で伝えちゃってごめん」と返しました。

母がそこで初めて知ったのか、じつはわかっていたけど、いいきっかけだと思ってそう送ってきたのかはわかりませんが、今でもあのころの母にいくら感謝してもしきれませんね。

自分のことはさておき、子どもが「学校を休みたい」と言ったら、理由も聞かないで「みんな行ってるんだから行きなさい」という親もいます。

やっとの思いでSOSを出しているのに、頭ごなしに“みんな教”を押しつけられたら、子どもは絶望的な気持ちになるしかありません。

まずはSOSを受け止めてあげてください。学校が苦しい場所になっているのに、家まで苦しい場所になったら逃げ場がなくなります。

高校に入ってからは、人間関係もリセットされて楽しい学校生活を送りました。つらい毎日を送っている子どもたちも、今がずっと続くわけじゃないことは忘れないでほしい。

高校では「恩師」と呼べる先生に出会い、その先生のアドバイスもあって、教師になるために東京学芸大学に進みました。思うところあってストレートに教師になる道は選びませんでしたが、回り道した末に、今こうして「子どもたちに教える」という活動をしています。

動画配信では息抜きのコツや受験前のバランスの取り方など、子どものメンタルに寄り添うメッセージも配信。2020年はドキュメンタリー番組『情熱大陸』(毎日放送)にも密着された。  写真:日下部真紀
動画作成時のカメラ。葉一さんの授業動画はなんとカット編集なし! リアルなライブ感を伝えるためミスすると一から撮り直すこだわりだ。  写真:日下部真紀

学校に行かない日々をどう過ごせばいいか

学校に行かない選択をした場合、大切になってくるのは勉強以外のことでどう時間を使うかです。

勉強に関しては、私のチャンネルに限らず教育系の動画がたくさんあるので、それらを活用すれば、十分にカバーできるでしょう。それよりも、学校に行かないことで余った分の時間とエネルギーをどう使うかを考えたほうがいい。

休み始めたときは、学校というプレッシャーがなくなって解放された気持ちになっても、やがて「まわりができていることができない自分」に苦しみ始める人も多い。そしてどんどん自己肯定感が崩れていくんですよね。

だからこそ「自分は学校に行く代わりに、これをするために時間とエネルギーを使っているんだ」と言えることを探してほしいと思っています。

外とのつながりも大事です。ずっと家にいると、どうしても考え方が狭くなるし、悲観的なほうに偏ってしまう。ちょっと先輩の世代でも、いっそのことおじいちゃんおばあちゃん世代でもいいんですけど、同年代以外の人と接点を持てるコミュニティに参加するのがいいですね。英会話教室とかボランティアの集まりとか、探せばけっこうあるはずです。

親御さんとも、コミュニケーションをちゃんと取りましょう。気まずいから話をしないというのは、やめたほうがいい。

学校に行っている自分も行っていない自分も、家族であることには変わりありません。負い目を感じる必要はない。ご飯を一緒に食べて、他愛のない雑談をして、一緒にテレビを見たりゲームをしたりして、普通に接すればいいんです。

親御さんの側も、腫れ物を扱うような接し方をする必要はありません。親が一歩引いてしまうと、子どももどう振る舞っていいかわからなくなる。お互いが気を使うような雰囲気になると、家が居心地の悪い場所になってしまいます。

親側も接し方に悩むと思いますが、そこはまず大人側が「普通に接する」という姿勢を見せてあげてください。

「自分の居場所」があれば、子どもは大丈夫です。不登校の子どもに対して、親が最優先ですべきなのは𠮟咤激励でも悩む姿を見せることでもありません。

家の中を安心して過ごせる「普通の場所」にすることです。そうすれば、子どものエネルギーが徐々に充電され、自分の意思と力で行動できるようになっていきます。

取材・文/石原壮一郎

葉一さんの「不登校のキミとその親へ」は全4回。
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教育系YouTuber

登録者数199万人(2024年2月現在)の教育系YouTuber。1985年、福岡県生まれ。東京学芸大学卒業後、教材販売の営業、学習塾講師を経験。2012年から自宅でも勉強がわかることをめざしYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」を開設。小学3年生から高校生に向けた授業動画を配信。ていねいな板書とわかりやすい解説に加えて、親しみやすい兄貴的なキャラクターで大人気に。公式サイト「19ch.tv(塾チャンネル)」ではプリントを無料配布。2児のパパ。 ●関連サイト ・YouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」 ・公式サイト「19ch.tv(塾チャンネル)」 ・X(旧Twitter) @haichi_toaru

登録者数199万人(2024年2月現在)の教育系YouTuber。1985年、福岡県生まれ。東京学芸大学卒業後、教材販売の営業、学習塾講師を経験。2012年から自宅でも勉強がわかることをめざしYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」を開設。小学3年生から高校生に向けた授業動画を配信。ていねいな板書とわかりやすい解説に加えて、親しみやすい兄貴的なキャラクターで大人気に。公式サイト「19ch.tv(塾チャンネル)」ではプリントを無料配布。2児のパパ。 ●関連サイト ・YouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」 ・公式サイト「19ch.tv(塾チャンネル)」 ・X(旧Twitter) @haichi_toaru

いしはら そういちろう

石原 壮一郎

コラムニスト

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか