「不登校」は子どもの積極的な選択肢 教育系YouTuber葉一が勉強・メンタルサポートの次に取り組む「先生のイメージ向上」

シリーズ「不登校のキミとその親へ」#4‐4 教育系YouTuber・葉一さん~子どもが生きやすい社会~

教育系YouTuber:葉一

葉一さんの授業動画では、わかりやすく書かれたホワイトボードも人気。どこか親しみやすい文字は葉一さんが板書用に研究したオリジナルフォントだと言う。  写真:日下部真紀

年々、不登校児が増加する一方で、オンライン塾やYouTubeなど、学校へ行かない子どもたちをサポートする選択肢も増えてきました。

教育系YouTubeの先駆者・葉一さんの登録者数は今や199万人(2024年2月現在)。2012年の開設当初から不登校の子どもを意識してきたと言います。

勉強だけでなく、子どものメンタルのサポートにも励む葉一さん。子どもたちがより生きやすくなるために、今めざしていることを聞きました。

第4回/全4回(#1#2#3を読む)

●葉一(はいち)プロフィール 
登録者数 199万人(2024年2月現在)の教育系YouTuber。1985年、福岡県生まれ。東京学芸大学卒業後、教材販売の営業、学習塾講師を経験。2012年からYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」を開設。小学3年生から高校生に向けた授業動画を配信し大人気に。公式サイト「19ch.tv(塾チャンネル)」ではプリントを無料配布。2児のパパ。

当初から不登校の子に届けたいと思っていた

具体的な割合はわかりませんが、私がやっているYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」は、不登校の子どもたちにかなり見てもらっている実感はあります。

12年前(2012年)にスタートしたときから、学校に行けない子に届けたいという思いはありました。授業の中でつまずきやすい箇所だけじゃなくて、網羅的に作っているのはそのためです。

うまくいく自信なんてまったくありませんでしたが、「学校が嫌なんだったら、無理して行かなくても、こういう学び方があるんだよ」という道を作ってあげたかったんです。親御さんにも、勉強が心配という理由で、苦しんでいる子どもを無理に学校に行かせなくても大丈夫ですよ、休ませてあげてくださいと伝えたかった。

勉強に関して別の選択肢があることは、ある程度は示せたかなと感じています。休むことへの不安を減らすだけでなく、長く休んでいた子どもが私の動画で勉強して高校に合格しましたとか、自信を取り戻してまた学校に行き始めましたとか、そういうメッセージをもらうことも多いですね。親御さんからのお礼の言葉も届きます。

私だけじゃなくて、今は「教育系YouTuber」と言われる人たちがたくさん活躍していて、「YouTubeを使って勉強してもいいんだ」という認識が当たり前になりました。

でも、最初の1~2年はずいぶん叩かれましたね。「神聖な教育にYouTubeなんてものを使うとはケシカラン」とかね。YouTubeは当時「いかがわしい世界」と思われていましたから。

コメントの書き出しが「教育に携わる者ですが」だと、だいたい強い口調での批判なんです。自分たちの「聖域」を汚されたみたいな言葉も多かったですし、「お前のやっていることは偽善でしかない」という言葉もよく言われました。

世の中全般に、スキあらば誰かを叩こうとしたり「出る杭を打つ」みたいな空気があったりすることと、学校や学校生活がつらくて不登校になる子どもが増えていることとは、どこかつながっているようにも感じます。

苦しむ子どもが助け舟を求める選択肢を増やしたい

授業動画と並行して力を入れてきたのは、子どもたちのメンタルサポートです。もともと教師を目指した大きな理由として、悩んでいる子どもたちの力になりたいというのがありました。YouTubeを通じてでもできるんじゃないか、チャレンジしてみたいと思ったんです。

「とある男が授業をしてみた」の中で毎週月曜に投稿している動画の最後では、スマホの向こう側の悩んでいる子どもや苦しい思いをしている子どもに向けて、自分の思いを語りかけています。

悩みや苦しみはどの子も抱えているし、なくなることはありません。ある程度サポートできているかもしれないという実感が、ここまで長くYouTubeを続けている最大のモチベーションになっています。

子どもたちの相談に答えたりアドバイスしたりするのは、難しいですね。多感な時期だし、とくに受験生はメンタルが不安定になっている。どういう子なのかもわからない。複雑なパズルを解いているみたいな感じです。

ただ、難しいからこそ取り組む甲斐があるし、支えになれたと感じたときの喜びも大きい。やっていてすごく楽しいですね。

「子どもを支える方法は対面だけじゃない」ということも、証明できたらいいなと思っています。悩みを抱えている子どもが相談する相手は、学校の先生でもいいし、親でも友だちでもいい。LINE等で悩み相談に答えてくれるところもあります。さらにプラスして、自分はこういうヤツですと示している人間に、ネットを通して相談できる場所を作りたいなと。

子どもたちがしんどくなって、もう生きるの無理ってなったときに、助け舟を求める選択肢は多いほうがいい。自分がイジメられて苦しかった中学生のころは、頼る相手がいませんでした。

子どもたちには、苦しいときは愚痴でも何でも誰かに話してほしいし、助けてもらえる場所を見つけてほしい。自分の中で消化するのは、大人だってなかなかできませんから。

高校時代に恩師と出会い、最初は教員をめざした葉一さん。教材の営業マン、塾講師をした経験は今の授業動画にも役立っているという。  写真:日下部真紀
デスクの横に掲げられている「目標」。葉一さんの熱い気持ちや子どもたちへの愛が凝縮されている。  写真:日下部真紀

学校の先生の「イメージ向上」に協力したい

これから力を入れて取り組んでいきたいのは、学校の先生の「イメージ向上」ですね。世の中には、がんばっている先生や力のある先生がいっぱいいるのに、ニュースで話題になるのは困った先生のことばっかりだし、聞こえてくるのは批判の声が多い。熱い想いを持っていても、それを発揮したり発信したりできない状況もあります。

先生自身が「自分たちはこんなに頑張っています」と言っても伝わらないし、先生同士でホメ合うものを作ってもおそらく正しく届かない。でも、外の人間が混じることで、世間や子どもたちとつながる道筋ができるかもしれない。ここは自分の出番かなという気がしています。

たとえば対談をして先生の思いを語ってもらうことで、「そんなふうに考えてくれているのか」と知れば、子どもたちが先生を見る目も変わってくる。堅苦しい話だけじゃなくて、先生といっしょにゲーム実況をしてもいい。文化祭でバンド組んで歌ってくれただけで、先生がいきなり身近な存在になるとかってあるじゃないですか。

先生は「子どもたちの力になりたい」と願っているのに、いろんな壁に阻まれて、子どもにとって謎の存在だったり敵みたいに見えていたりしたら、それはお互いにとってすごくもったいないことですよね。もちろん、いろんな先生がいるのは大前提なんですけど。

それと、ずっと抱いているのが、東京ドームに子どもたちを集めてイベントをするという夢です。何万人とかが集まって、みんなで机を並べて自習をしたいんですよね。子どもたちは、お母さんに「ちょっと東京ドームに行って勉強してくる」と言って出かける。大人になって振り返ったときに、絶対に笑い話になるじゃないですか。

勉強に関して、子どもたちにポジティブな思い出を作ってあげたい。いつか必ず実現したいですね。

取材・文/石原壮一郎

葉一さんの「不登校のキミとその親へ」は全4回。
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登録者数199万人(2024年2月現在)の教育系YouTuber。1985年、福岡県生まれ。東京学芸大学卒業後、教材販売の営業、学習塾...

いしはら そういちろう

石原 壮一郎

コラムニスト

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアで...