【西新宿小学校】校長が通知表・単元テスト・宿題を廃止した理由 子どもを序列化する「見えない線」をなくしたい

学校の「当たり前」を考える 西新宿小学校の改革 #1 評価・強制の弊害

新宿区立西新宿小学校校長:長井 満敏

通知表と単元テストを廃止 子どもの主体的な学びに

先生の業務という視点で見ると、通知表の作成や単元テストの採点のために、膨大な時間を割いているのが実情です。これをなくすことで負担軽減にもつながり、先生の実務が変わっていくのではないかとの期待もありました。

「通知表を廃止するためには、同時に単元テストもやめる必要がある。この2つはセットなのです。単元テストを継続していれば、結局、点数で序列がついてしまいます。それに、『学びの転換』という意味でも、単元テストが鍵を握っています」(長井先生)

実は長井先生は、クラス担任をしていたころから、単元テストにジレンマを感じていました。理科が専門だった長井先生は、子どもたちが興味を持てるようにと、実験などを取り入れて授業内容を工夫。

しかし、そこで学んだことと単元テストで測る「学力」は、必ずしも一致しません。子どもたちの成績(テストの点数)を上げるためには、「先生が教える授業」にならざるを得ない面があったといいます。

「通知表と単元テストの廃止は、子ども自らが学ぶ授業に変えていくためでもあります。

子どもたちは、『おもしろい』『知りたい』と思えば自然と主体的になります。そうした学びの楽しさを感じられるようになるには、大人からの評価や強制をやめる必要があるのです」(長井先生)

教員が一律に課す宿題を廃止したのも、同じ理由からです。

「宿題を強制することで、学習は『やりたくないもの』だと子どもたちに思わせてしまっているようなもの。繰り返しになりますが、本来子どもは興味があれば自分から学びますから、そうした学習意欲が戻る環境に変えることが重要だと考えました」(長井先生)

長井先生は、日々の宿題に加え、夏休みなど長期休暇中の宿題も廃止。子どもが自らその内容を決めて取り組む、「自主学習」に切り替えました。

「自主学習」 実際どうなの? 子どもたちの本音

「宿題がなければ学習習慣がつかない」「自主学習では誰もやらないのでは?」といった声も聞こえてきそうです。強制的な宿題から自主学習へとシフトして約2年。実際はどのような状況なのでしょうか。

取材中、子どもたち数人に話を聞くことができました。

「自主学習でどんなことをしているの?」と尋ねると、「社会で勉強した都道府県地図を書いている」「(自主学習用に用意してある)計算や漢字のプリントをやる」「『魚』が入っている漢字を調べてノートにまとめた(学校のポスターをヒントにした)」などの答えが返ってきました。

校舎内に掲示されている「自主学習メニュー紹介」には、最近よく見かける「働くロボット」について興味を持ち、自ら調べてまとめたものなどもありました。子どもが身近な生活から学びのテーマを見つけ、主体的に取り組んでいることがわかります。

廊下に張り出されている「自主学習メニュー紹介」。  写真:川崎ちづる
すべての画像を見る(全6枚)

とはいえ、自主学習がすべて子どもたちの意思かといえば、「そこは微妙」だと話す長井先生。「学校として大きな方針は共有しているが、詳細は先生に任せている」といい、内容をアドバイスする先生、あまり口出ししない先生など、担任によって違いがあります。

自主学習で取り組めるプリントが入っている棚。廊下に設置されている。  写真:川崎ちづる

「できるだけ子どもたち自身が選択できるように、と考えていますが、これまで『教える』『学習させる』が中心だった先生たちは、切り替えが難しい部分もあると思います」(長井先生)

長井先生は「まずは枠組みを変えること」を優先し、2023年度からの改革に踏み切りました。その後の運用で、先生や保護者の意見を聞きながら微修正を行ってきましたが、まだ十分ではないとも感じています。

「通知表や単元テスト、宿題を廃止したのはあくまで授業や学びを変えるためであり、まだまだ課題は山積みです。今も継続して先生や保護者と向き合い、改善を続けている最中です」(長井先生)

第2回は、評価についての子どもたちや保護者の反応、変化などについてうかがいます。

─◆─◆─◆─◆─◆─◆

【長井満敏(ながいみつとし) プロフィール】
東京都公立学校教員、指導主事などを経て新宿区立西新宿小学校校長に就任。専門は学校経営、理科教育。子どもたちの「学びたい」を育む教育を目指している。


取材・文 川崎ちづる

【学校の「当たり前」を考える 西新宿小学校の改革】の連載は、全4回。
第2回を読む。
第3回を読む。
第4回を読む。
※公開日までリンク無効

この記事の画像をもっと見る(全6枚)

前へ

3/3

次へ

26 件
ながい みつとし

長井 満敏

Nagai Mitsutoshi
新宿区立西新宿小学校校長

東京都公立学校教員、指導主事などを経て新宿区立西新宿小学校校長に就任。子どもたちの可能性を最大限に引き出すことに情熱を注ぎ、2023年度からは通知表、単元テスト、宿題を廃止するなど、大胆な学校改革を推進。専門は学校経営、理科教育。子どもたちの「学びたい」を育む教育を目指している。

東京都公立学校教員、指導主事などを経て新宿区立西新宿小学校校長に就任。子どもたちの可能性を最大限に引き出すことに情熱を注ぎ、2023年度からは通知表、単元テスト、宿題を廃止するなど、大胆な学校改革を推進。専門は学校経営、理科教育。子どもたちの「学びたい」を育む教育を目指している。

かわさき ちづる

川崎 ちづる

Chizuru Kawasaki
ライター

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。