女子学生の新たな進路「高等専門学校」 沖縄高専「3K農業をDX化」&北九州工業高専「ロボコンチームを会社化」

高専の知られざる魅力 #4 注目すべき高専6選「沖縄高等専門学校」「北九州工業高等専門学校」

1988年から毎年開催される「アイディア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト」(高専ロボコン)。学生が一丸となって、ものづくりに挑む楽しさを伝えています。  写真提供:北九州工業高等専門学校

未来のエンジニアを育てる、5年制の高等教育機関「高専」連載全5回。3~5回目は、特徴あるカリキュラムで注目される高専6選をピックアップしてご紹介。

4回目は、産業のDX化を手がけ、話題を呼んでいる高専2校です。「沖縄高等専門学校」では、生物資源工学科の知念紅葉(ちねん・このは)さんと情報通信システム工学科の上原彩來(うえはら・さら)さんに、「北九州工業高等専門学校」では、生産デザイン工学科の久池井茂(くちい・しげる)先生に、それぞれ取材をし、具体的な取り組みについてお話を伺いました。

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高専女子が農業支援プロジェクトに挑戦

沖縄県名護市にある「沖縄高等専門学校」の学生数は825名(2023年5月1日現在)。本科は「機械システム工学科」、「情報通信システム工学科」、「メディア情報工学科」、「生物資源工学科」の4学科があります。

「生物資源工学科」は、生物化学、環境学、微生物学、食品化学に興味があり、バイオテクノロジー関連の技術者や研究者として活躍したい人のための学科、「情報通信システム工学科」は、コンピュータ、ネットワーク、通信、ソフトウェア、半導体集積回路の技術を身につけ、情報通信分野の仕事に就きたい人のための学科です。

生物資源工学科3年の知念紅葉さん、情報通信システム工学科5年の上原彩來さんをはじめとした、5人の現役沖縄高専女子学生のチーム「パイナッポー」は、パイナップルの収穫の目安になる蕾(つぼみ)の生育状況をドローンで撮影。画像認識AIを使って自動検出・蓄積し、収穫量や収穫日を予測できるシステムを開発。

このAIとドローンを活用し、パイナップル農場のDX化への取り組みは、2023年1月に開かれた第1回「高専GIRLS SDG’s×Technology Contest(高専GCON)」で大賞である、文部科学大臣賞を受賞しました。

「高専ガールズSDGs×テクノロジーコンテスト」授賞式の様子。コンテストは、全国公私立の高専女子チーム(2~6名)が対象で、SDGsの観点から、社会課題に対してどう貢献できるかを研究・提案します。  写真提供:沖縄高等専門学校

3Kといわれる農業をDX化によって変えたい

──知念さんたちは、なぜパイナップル農場のDX化に挑戦しようと思ったのでしょうか。

知念紅葉さん(以下、知念さん):私の母が、名護市にある農業研究センターでパイナップルの栽培をしているのですが、以前から農作業の大変さを聞いていました。強い日差しのもとでの長時間労働、収穫の際には重い果実をたくさん運ばなければならないし、パイナップルには棘があるので、安全面にも問題があります。

私が専攻する「生物資源工学科」では、沖縄の亜熱帯性の植物や果物を活用した加工・商品化や産業化の研究をしています。高専で学ぶことによって、「きつい、汚い、危険」の3Kと言われる農業を、DXによって変え、女性が活躍できる農業を実現したいという気持ちが高まりました。

上原彩來さん(以下、上原さん):具体的には、農家の多くはパイナップルの成長を見るときに、葉っぱや蕾を一つ一つ手作業で確認しなければいけません。この点に情報工学系のサポートが必要だと感じました。週に2回、各2時間かかるこの作業を、AIとドローンを使うことで5分に短縮できるようになりました。

気候変動や人手不足の問題に向き合い、地球環境に配慮しながら農業をDX化。高専の学びは社会のさまざまな課題解決につながっています。  資料提供:沖縄高等専門学校

──すごい! それは大変な効率化ですね。苦労した点があれば教えてください。

上原さん:AIに学習させるためのデータ集めでしょうか。パイナップルは品種や気候条件によっても出蕾日(しゅつらいび=つぼみが出る日) が変わるので、誤差を減らすために大量の写真データが必要なんです。

雨の日はドローンを飛ばせませんし、授業時間外でしか活動ができません。ご協力いただいている農業研究センターから連絡をもらい、放課後みんなで駆けつけて写真を撮るという日々でした。

知念さん:このシステムは、完成したらパイナップル以外のほかの作物にも応用できます。気候変動の問題に対応しながら食糧不足や飢饉に陥らないように生産量の維持や、増やすことにも役立ちます。

チーム「パイナッポー」のメンバー。情報通信システム工学科5年の上原彩來さん(写真右)、生物資源工学科3年の知念紅葉さん(写真中央)。  写真提供:沖縄高等専門学校

特別科目で学生のクリエイティビティを育てる

沖縄高専には、この高専の特徴でもある「創造研究」という科目があります。

「創造研究」は、学生一人ひとりが問題意識を持ち、研究したい課題を決め、教師と相談しながら論文や作品を作り上げる学習プログラム。学生の創造性を育もうと、沖縄高専が先駆けて授業に取り入れ、他の高専でも次々と導入しています。

──「創造研究」の授業内容や感想を聞かせてください。

上原さん:「創造研究」では、自分がやりたいことを学校側が全力でサポートしてくれます。だからこそ、自分たちからもアイディアが思いつくし、ブラッシュアップができる。あと、沖縄高専生は全国規模のビジネスコンテスト(※新しいアイディアやビジネスプランを競い合うイベント)にも積極的に参加しています。

私はもともと航空技術者プログラムを学びたいと思い、沖縄高専に入学しました。高専では、自分が何をやりたいかを考える機会が多く、将来の夢が持ちやすい。私は2024年3月に卒業し、4月から航空会社の整備職に就くことが決まりました。

知念さん:私は植物や野菜の品種改良をしたいという夢があり、それで高専を選びました。ほかの高校と違って1年生から専門的な知識が学べるうえ、最先端の機械を使った実習でたくさんの経験が経験を積めるので、とても満足しています。卒業後、企業に入ったら即戦力になれるように、まだまだがんばりたいです。

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