0歳児は絵本を「かじって」もいい!? 自治体が「すべて」の赤ちゃんに絵本をプレゼントする深いワケ

NPOブックスタート事務局長が読み聞かせ時の赤ちゃんを解説

編集者・ライター:山口 真央

絵本の読み聞かせが子どもの情操にいいと聞くけど、いまいち効果がわからず、面倒だと感じてはいませんか。実際に「コクリコ」の調査によると、約9割の親御さんが読み聞かせを「つらい」と感じる結果がでています。

しかし、NPOブックスタート事務局長・小林浩子さんは、じつは親御さんが予期しない形で、お子さんは十分にリアクションしていると語ります。はたして、どんなリアクションが「正解」だと言えるのでしょうか。

この記事では小林さんに、自治体が赤ちゃんに絵本を無料配付するブックスタート事業が日本で開始したきっかけや、低年齢から読み聞かせをすることの意味と、お子さんの具体的な反応について教えていただきました。


赤ちゃんへの読み聞かせと絵本を考えるシリーズ全3回の第1回。

「絵本を知らない子ども」が活動開始のきっかけに

ブックスタートは、充実した読み聞かせを体験してもらえるよう、1対1での対応を心がけている。 写真提供:NPOブックスタート
「ブックスタート」をご存じですか? 0歳児健診などの機会に、「絵本」と「読みきかせの体験」をセットでプレゼントする自治体の事業です。赤ちゃんの幸せを願い、行政と市民が協働して全国の約6割の自治体が行っています。

このアイデアを生み出したのは、イギリスで絵本コンサルタントをしていたウェンディ・クーリングさん。絵本の存在を知らない、5歳の男の子との出会いをきっかけに、すべての子どもたちに絵本を読んでもらう幸せなひとときを経験してほしいと考えるようになりました。

絵本をただあげるだけではなく、読み聞かせの体験と一緒にプレゼントしたい。誰かに絵本で語りかけてもらう大切さや、早期教育が目的ではないことが、親にも伝えられるから。そう考えたクーリングさんは、保健師のアドバイスを受け、すべての赤ちゃんが対象となる自治体の乳幼児健診で絵本をプレゼントすることに。こうして1992年、イギリスのバーミンガム市で、はじめてブックスタートが開始されました。

日本では2000年の子ども読書年の際にこの活動が紹介され、翌2001年に全国12自治体で開始されました。イギリスと同様、乳幼児健診会場や図書館などで、赤ちゃんに絵本と読み聞かせ体験をセットでプレゼントしています。

乳幼児健診は親子の参加率が非常に高く、本に関心の薄いご家庭や外国人居住者も参加するため、すべての赤ちゃんに出会える最適な機会なのです。読みきかせにはボランティアさんが関わる場合も多く、地域づくりにもひと役買っています。2023年現在では、全国約6割強の自治体が行うようになりました。私たちは日本でのブックスタート事業を全国規模で推進し、サポートする非営利活動組織です。
ブックスタート・パックの一例。おなかに本を置いて読むラッコのマークが目印。 写真提供:NPOブックスタート

絵本のおつきさまと本物の「おつきさま」をつなげた瞬間

ご家庭では、0歳の赤ちゃんに絵本の読み聞かせをしても手応えがなく、意味がないと感じてしまう親御さんも少なくないかもしれません。しかし、読み聞かせの時間を大切にすることにより、お子さんの思いがけない成長を実感できたという体験談があります。

2001年に、ブックスタートで『おつきさまこんばんは』(作 林明子/福音館書店)を受けとったSさんご家族。お母さんの姿が見えなくなると泣いてしまう息子さんに、お父さんであるSさんはよくこの絵本を読んであげていたといいいます。

ある日のお風呂上がり、息子さんを抱いて外に出たSさんは、夜空に昇ったまんまるの月に向かって、ふと「こんばんは」と言ったそうです。それを聞いた息子さんは、大はしゃぎ。手足をバタバタさせながら、ぺこりと頭を下げたそうです。

言葉は話せなくても、我が子が絵本と現実の世界を結びつけている。それを目の当たりにしたSさんは、驚きと喜びで胸がいっぱいになりました。Sさんは子育てを振り返り、絵本の読み聞かせは、親が子どもの成長を感じるための機会だったと話しています。Sさんの息子さんは成人した今でも、この絵本を大切にとってあるそうです。
Sさん家族の思い出の一冊となった絵本『おつきさまこんばんは』(作 林明子/福音館書店)。

赤ちゃんは絵本を「五感」で楽しんでいる

©Kanayo  Sugiyama(無断転載禁止)
出典:アドバイスブックレット『あかちゃんと いっしょに はじめまして えほん』(構成・絵 スギヤマカナヨ、企画・発行 NPOブックスタート)
では、多くの親御さんが低年齢のお子さんの読み聞かせ時に感じている、手応えのなさについて、もう少し紐解いてみましょう。具体的な反応として、赤ちゃんのリアクションがうすい、絵本をかじってしまう、すぐ次のページをめくってしまうなどの悩みを聞いたことがあります。

しかし、その赤ちゃんの反応は、別の捉え方をすることもできます。例えば表情でのリアクションがうすいのは、絵本にじっと見入っているからかもしれませんし、足先で反応していることもあります。目をそらしていたとしても、耳から楽しんでいる可能性もあります。

また、何でもすぐ口に入れて確かめたい月齢の赤ちゃんなら、絵本をかじってしまうのは、親しみを込めた握手のようなもの。絵本に興味を持っている証拠です。すぐページをめくるのは、パラパラめくる感触や、絵が変わる変化を楽しんでいるのかもしれません。

赤ちゃんは、親御さんが考えている以上に、絵本を五感で楽しみます。目や耳からだけでなく、ときには手触りや食感などで、絵本を「体験」するのです。気楽な気持ちで絵本を読んであげましょう。

それでももし、絵本を読むのがつらいと感じてしまったら、まずは親御さん自身が好きな絵本を選んでみてはいかがでしょうか。親御さんが楽しんでいる気持ちは、その声や姿を通して、必ずお子さんに伝わります。ほら、人が楽しそうにしていると、なになに?ってことありますよね。絵本や保育を学ぶ大学生に、子どもの頃の絵本の思い出を尋ねると、内容以上に、誰が読んでくれたかという体験を語る様子が多く見られるそうです。

子どもにとって絵本は、大好きな誰かと一緒に過ごすための手軽なアイテム。絵本を読んでもらうそのひとときは、親子のかけがえのない時間になるはずです。
小林 浩子
特定非営利活動法人ブックスタート事務局長。出版社勤務を経て、2017年からNPOブックスタートに勤務。
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赤ちゃんへの読み聞かせと絵本を考えるシリーズ第1回は、多くの読み聞かせに立ち会ってきたNPOブックスタートの小林さんから、読み聞かせと赤ちゃんの反応についてお話を伺いました。第2回は、読み聞かせにおすすめの絵本について、教えていただきます。
やまぐち まお

山口 真央

編集者・ライター

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。