3歳児にもわかるユーモア! クスッと笑えるアルファベット絵本
本作のアイデア誕生のエピソードや、試行錯誤した制作過程、絵本に込めた想いまで、よねづさんにたっぷりとお話をうかがいました。
ひらめきは木琴のイラストから
「最初にアイデアを思いついたのは、2〜3年前になりますね。あるとき、何気なく木琴の絵を描いていたら、音板の上にバッテンの形で置いたマレット(ばち)が、ふとアルファベットの「X」の文字に見えたんです。木琴は英語でXYLOPHONEなので、ちょうど「X」という文字を表現できるなと思って。Xで始まる単語は少ないと知っていたので、Xでできたのなら、他の文字でもできるんじゃないかなと考えたのがきっかけです」
「まずは、アルファベット26字それぞれの単語を調べました。AならAで始まる単語。名詞であることが条件に、さらに子どもでも分かりやすい簡単な単語をバーッとぜんぶ書き出して、そこから消去法でしぼっていくという、けっこう地道な作業からですね。今、見返してみると、たとえばAやBはたくさんあったけれど、Eはちょっと少なかったとか、文字によって、候補となる単語の数にかなり差がありました」
制作過程で生まれた幻のモチーフたち
「いちばん意識したのは、単語や絵も含めて、子どもが見たときに分かりやすいかどうか。子どもが知っていそうな単語を、実際にひとつずつ絵にしながら選んでいきました。最初の頃に作ったダミー絵本では、最終的に決まったモチーフとは違うものもあるんですよ。
たとえば、CはCROCODILE(わに)になっていますが、最初はCHAMELEON(カメレオン)でしたし。GはGORILLA(ゴリラ)だけじゃなくて、GIRAFFE(きりん)でもできるなぁとか。Iのモチーフは最初からICE CREAM(アイスクリーム)でしたが、当初はコーンタイプじゃなくて、カップ入りの3段アイスの絵でしたね」
「アルファベットとイラストの形を合わせるのが大変だった、BのBANANA(バナナ)ですね。BはBOOKやBREAD、BEAR、BALLなど、簡単な単語自体はたくさんあるんですが、いざBの形に合わせるとなると、けっこう難しくて。Bの字のカーブの部分を、バナナの皮をむいた状態で表現するというアイデアを思いついたときは、自分でも、おぉ!って感動しました(笑)」
ラフなタッチの線で楽しい雰囲気に
「実は、最初はもっと線がキッチリしていたんです。もちろん手描きで、自分でも気に入っていたので、ほぼ決まりかけていたんですが、後々、よく見ると、ちょっとかたすぎるかなぁと。より小さい子が楽しめるように、と考えると、もう少しラフなタッチのほうが楽しい雰囲気が出るんじゃないかなと思って、いつもとは違うスタイルになりました」
「インクを使って線を描いたり、水彩で色づけしたり、いろいろ試してはみたんですけど、いちばんラフに描けるという点で、ふだん使っているシンプルなペンを使って、コピー用紙に描きました。最終的には、これにパソコン上で色づけをしています」
画用紙っぽい質感の紙に、シックな色合い
「もともとのデータ自体は発色の良い色なんですが、今回のような画用紙っぽい紙に印刷したら、トーンが落ちるということは分かっていたので。ちょうどいい仕上がりになるんじゃないかなと、なんとなくイメージはできていました。
全体を通して読んだときの、色のバランスにも気をつけましたね。同じ色が続くことなく、赤、青、黄色、といろんな色がバランスよく流れていくように。LEAFなら葉っぱの緑、ORANGEならオレンジと、色が決まってしまっているモチーフもあるので、NECKTIE(ネクタイ)やRIBBON(リボン)など、色を自由に決められるモチーフでうまく調整するようにしました」
「長いこと、ボードブックの絵本を作っていたので、今回は紙をいろいろ選べたのがすごく嬉しかったです。もともと、画用紙っぽい質感のあるものでやりたいなぁと思っていて。発色的にはちょっと沈んじゃうんですけど、それがちょうど絵の雰囲気にも合っていて良かったです」
「アルファベットもすべて手書きです。最初のラフのときは、文字も、白い背景に黒で描いていたんですよ。でも、やっぱり『見て楽しい』というところを追求すると、もうちょっと色があったほうがいいなぁと思って。イラスト側の背景に色をつけるか、文字のほうに色をつけるか、いろいろ試した結果、文字の背景に色をつけて文字を白抜き、に落ち着きました」
アルファベットも英語に興味を持つきっかけのひとつ
「僕は海外と仕事をしているんですけど、今でも通訳の方に入っていただいてミーティングをしているんです。なので、常に英語の大切さを痛感しています。僕はもう半分あきらめかけているんですが(笑)、英語でコミュニケーションがとれたらいいなぁと、すごく思います」
「そうですね。うちの子どもたちは、今春から長男が小学4年生、次男が小学校入学、一番下の長女が保育園の年少さんで。保育園の頃から、外国の先生が来園して、最初は歌あそびみたいな感じから、英語のレッスンが始まっていました。特に今は、真ん中の子がアルファベットを見て『なんて読むの?』と聞いてきたりします」
「やはり、アルファベットとモチーフの形を見て『おなじだ~!』っていう反応が強かったですね。そういえば、印刷に入る前の最後の最後の段階で、3歳の娘に見せていたとき、ZのページのZIPPER(ジッパー)が、何の絵なのか、ちょっと伝わりにくかったんです。それで、ジッパーのつまみの部分を少し分かりやすく描き直しました。ギリギリだったんですけど。あのときの娘の反応に感謝ですね(笑)」
「自分で本棚から取り出しては、『これ、読んで』と、僕のところに持ってきたりして。子どもたちがすごく小さいときは、僕が作ったと分からずに、他のたくさんの絵本の中から、選んだり、読んだりしてくれていたので……うん、嬉しいっていう気持ちはありますね(笑)。本当にボロボロになるまで楽しんでくれています。
特に人気があったのは『もぐ もぐ もぐ』ですかね。みんな、食べることが好きなので(笑)。あとは、動物がくっついて、いろんな形になる『ぴたっ!』も好きですね。僕の絵本は、内容も出てくる言葉もシンプルなので、すぐに覚えて、自分で読んでいました。3歳くらいからは、ページをめくりながら、自分でお話を作ったりすることもありました(笑)」
アートディレクターのようにテーマにいちばん合った画風を考える
「ユーモアは自分の特徴といいますか、得意な部分だと思っていて……むしろ、そこしかできないくらいの感じなので(笑)。自分の良さを最大限に生かせるように、いつも心がけています。そのためには、いかにいいアイデアが出せるかが勝負で。おもしろいしかけや、アイデアに合ったイラストはどんなものがいいかなど、一生懸命考えています」
「本当に小さな子ども向けの絵本だったら、絵のアウトラインを太めにして、目で認識しやすいようにしようとか。それこそ、アートディレクターみたいに、この絵本のイラストは誰に依頼しようかな? という感じで、自分でタッチを描き分けています(笑)」
「子どもに英語を覚えさせようとか、勉強として読むのではなくて、まずはアルファベットに触れるところから。親子で楽しみながら英語に触れることで、自然と子どもたちに興味を持ってもらえる絵本になったらいいなと思っています」
よねづ ゆうすけ
1982年東京生まれ。東海大学教養学部芸術学科デザイン学課程卒業。2005年イタリア・ボローニャ国際絵本原画展に入選。以来、多くの絵本を生み出し、そのユニークなしかけ絵本は世界中の子どもたちに愛されている。 【主な著書】 『のりものつみき』講談社、『にじいろカメレオン』講談社、『たべもの だーれ?』講談社、『もぐもぐもぐ』講談社、『ぴたっ!』講談社など Website nakaniwa instagram @yusuke_yonezu Twitter @YusukeYonezu
1982年東京生まれ。東海大学教養学部芸術学科デザイン学課程卒業。2005年イタリア・ボローニャ国際絵本原画展に入選。以来、多くの絵本を生み出し、そのユニークなしかけ絵本は世界中の子どもたちに愛されている。 【主な著書】 『のりものつみき』講談社、『にじいろカメレオン』講談社、『たべもの だーれ?』講談社、『もぐもぐもぐ』講談社、『ぴたっ!』講談社など Website nakaniwa instagram @yusuke_yonezu Twitter @YusukeYonezu