絵本づくりの舞台裏! 世界で愛される絵本作家の新作から没ネタまで大公開

アルファベットから「子どもと英語のいい関係」をはぐくむ絵本

ライター:石塚 圭子

3歳児にもわかるユーモア! クスッと笑えるアルファベット絵本

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『のりものつみき』や『たべもの だーれ?』など、カラフルでかわいいボードブックタイプのしかけ絵本で大人気の絵本作家、よねづゆうすけさん。これまでにも、日本語のひらがな、カタカナの絵本『あいうえお』『アイウエオ』を刊行してきたよねづさんが、このたび、アルファベットをテーマにした最新作『おんなじかたち! ABC』を出版しました。
よねづゆうすけ『おんなじかたち! ABC』(講談社)
子どもの手におさまるミニサイズの絵本で、見開きごとに、左ページは大きなアルファベット文字、右ページには対応するイラストと、その英単語と日本語訳を紹介。今回はイラスト自体に“しかけ”が隠されていて、どのページも「おなじみのアイテムが、アルファベットと同じ形になっている!」という驚きと楽しさに満ちているのがポイントです。

本作のアイデア誕生のエピソードや、試行錯誤した制作過程、絵本に込めた想いまで、よねづさんにたっぷりとお話をうかがいました。

ひらめきは木琴のイラストから

――『おんなじかたち! ABC』の企画は、いつ頃から温めていたのでしょうか。

「最初にアイデアを思いついたのは、2〜3年前になりますね。あるとき、何気なく木琴の絵を描いていたら、音板の上にバッテンの形で置いたマレット(ばち)が、ふとアルファベットの「X」の文字に見えたんです。木琴は英語でXYLOPHONEなので、ちょうど「X」という文字を表現できるなと思って。Xで始まる単語は少ないと知っていたので、Xでできたのなら、他の文字でもできるんじゃないかなと考えたのがきっかけです」
木琴の上に、自然に「X」が出現!
――制作にあたって、どのように作業を進めていったのですか?

「まずは、アルファベット26字それぞれの単語を調べました。AならAで始まる単語。名詞であることが条件に、さらに子どもでも分かりやすい簡単な単語をバーッとぜんぶ書き出して、そこから消去法でしぼっていくという、けっこう地道な作業からですね。今、見返してみると、たとえばAやBはたくさんあったけれど、Eはちょっと少なかったとか、文字によって、候補となる単語の数にかなり差がありました」
よねづさんによる、アルファベットごとの単語メモ。

制作過程で生まれた幻のモチーフたち

――各アルファベットに対応するモチーフの決め手となったものは?

「いちばん意識したのは、単語や絵も含めて、子どもが見たときに分かりやすいかどうか。子どもが知っていそうな単語を、実際にひとつずつ絵にしながら選んでいきました。最初の頃に作ったダミー絵本では、最終的に決まったモチーフとは違うものもあるんですよ。

たとえば、CはCROCODILE(わに)になっていますが、最初はCHAMELEON(カメレオン)でしたし。GはGORILLA(ゴリラ)だけじゃなくて、GIRAFFE(きりん)でもできるなぁとか。Iのモチーフは最初からICE CREAM(アイスクリーム)でしたが、当初はコーンタイプじゃなくて、カップ入りの3段アイスの絵でしたね」
よねづさんの人気絵本『にじいろカメレオン』を彷彿とさせます。
「いろいろ調べていくうちに、初めて分かったこともありました。そうだと思い込んでいたものの、現代の英語圏では違う意味を持つ単語などがあって。たとえば、Mは最初、MUFFLER(マフラー)でいけるかなぁと考えていたんですけど、首に巻くマフラーは、SCARF(スカーフ)なんですね。それで、MEDAL(メダル)に変更しました」
――よねづさんご自身が、特に気に入っているモチーフは何ですか?

「アルファベットとイラストの形を合わせるのが大変だった、BのBANANA(バナナ)ですね。BはBOOKやBREAD、BEAR、BALLなど、簡単な単語自体はたくさんあるんですが、いざBの形に合わせるとなると、けっこう難しくて。Bの字のカーブの部分を、バナナの皮をむいた状態で表現するというアイデアを思いついたときは、自分でも、おぉ!って感動しました(笑)」
バナナの皮が、クルン‼︎
「Zも悩みましたね。最初の頃は、ZOO(どうぶつえん)にして、動物たちがいる檻の形がZのように見えるというパターンを考えていて。うまいことできたなぁと思ったんですけど、改めて見ると、小さい子には少し分かりにくいかもしれないなと。ZEBRA(しまうま)の顔と身体でZを表現しようかとも考えましたが、ちょっと強引な気もしたので、最終的にZIPPER(ジッパー)になりました」
動物園の柵で「Z」の形を表現してみたバージョン。

ラフなタッチの線で楽しい雰囲気に

――モチーフのイラストは、どれもシンプルな線でラフに描かれていて、肩の力が抜けたような洒落っ気があります。よねづさんは作品によって、さまざまな画風で絵を描いていらっしゃいますが、今回のスタイルはどのように決めたのでしょうか。

「実は、最初はもっと線がキッチリしていたんです。もちろん手描きで、自分でも気に入っていたので、ほぼ決まりかけていたんですが、後々、よく見ると、ちょっとかたすぎるかなぁと。より小さい子が楽しめるように、と考えると、もう少しラフなタッチのほうが楽しい雰囲気が出るんじゃないかなと思って、いつもとは違うスタイルになりました」
最終版よりも、それぞれの絵のラインが均一に、くっきり描かれている。
「大きなサイズで描いたり、本番として描いたりすると、線がかしこまってしまうので、あえて小さめに、落書きっぽい感じで、同じモチーフをたくさん描いていって。その中からいちばん良い線のものを選びました。とはいえ、この絵本でもっとも大事なのは、“隣同士のアルファベットとイラストが同じ形に見えること”なので、そこはあまりズレが出ない程度に、くずして描くことを心がけましたね」
たくさんの、たくさんの試し書きのなかから、ベストの1点をセレクト!
――『あいうえお』シリーズはクレヨン画でしたが、今回の画材は?

「インクを使って線を描いたり、水彩で色づけしたり、いろいろ試してはみたんですけど、いちばんラフに描けるという点で、ふだん使っているシンプルなペンを使って、コピー用紙に描きました。最終的には、これにパソコン上で色づけをしています」

画用紙っぽい質感の紙に、シックな色合い

――イエロー、ブルー、グリーン、ピンク……とカラフルながら、どこか落ち着きのある、優しい色合いが素敵です。

「もともとのデータ自体は発色の良い色なんですが、今回のような画用紙っぽい紙に印刷したら、トーンが落ちるということは分かっていたので。ちょうどいい仕上がりになるんじゃないかなと、なんとなくイメージはできていました。

全体を通して読んだときの、色のバランスにも気をつけましたね。同じ色が続くことなく、赤、青、黄色、といろんな色がバランスよく流れていくように。LEAFなら葉っぱの緑、ORANGEならオレンジと、色が決まってしまっているモチーフもあるので、NECKTIE(ネクタイ)やRIBBON(リボン)など、色を自由に決められるモチーフでうまく調整するようにしました」
巻末のアルファベット表を見れば、色のバリエーション豊かに、バランスよく配されているのが一目瞭然。
――今回の絵本は、サイズは既刊のシリーズと同じですが、ボードブック(厚みのある紙を貼り合わせたもの)タイプではなく、通常の上製本になりますね。

「長いこと、ボードブックの絵本を作っていたので、今回は紙をいろいろ選べたのがすごく嬉しかったです。もともと、画用紙っぽい質感のあるものでやりたいなぁと思っていて。発色的にはちょっと沈んじゃうんですけど、それがちょうど絵の雰囲気にも合っていて良かったです」
――モチーフと同じ色あいのページに、白抜きされたアルファベットの文字も味がありますね。

「アルファベットもすべて手書きです。最初のラフのときは、文字も、白い背景に黒で描いていたんですよ。でも、やっぱり『見て楽しい』というところを追求すると、もうちょっと色があったほうがいいなぁと思って。イラスト側の背景に色をつけるか、文字のほうに色をつけるか、いろいろ試した結果、文字の背景に色をつけて文字を白抜き、に落ち着きました」
歯ブラシと歯ブラシで……見事に「T」に!!

アルファベットも英語に興味を持つきっかけのひとつ

――よねづさんはイタリアのボローニャ国際絵本原画展入選後、海外でデビュー。以降、ヨーロッパ各国をはじめ、アメリカ、ロシア、アジアの国々……世界中で絵本が出版されているグローバルな絵本作家さんです。日頃、英語の大切さはどのように感じていらっしゃいますか?

「僕は海外と仕事をしているんですけど、今でも通訳の方に入っていただいてミーティングをしているんです。なので、常に英語の大切さを痛感しています。僕はもう半分あきらめかけているんですが(笑)、英語でコミュニケーションがとれたらいいなぁと、すごく思います」
――今は小学校でも、英語や英会話の授業がありますよね。子どもたちにとって、アルファベットも、ひらがなと同じように、どんどん身近な存在になっています。よねづさんのお子さんたちも、英語に興味を持っていますか?

「そうですね。うちの子どもたちは、今春から長男が小学4年生、次男が小学校入学、一番下の長女が保育園の年少さんで。保育園の頃から、外国の先生が来園して、最初は歌あそびみたいな感じから、英語のレッスンが始まっていました。特に今は、真ん中の子がアルファベットを見て『なんて読むの?』と聞いてきたりします」
――『おんなじかたち! ABC』を読んだお子さんたちの感想はいかがでしたか?

「やはり、アルファベットとモチーフの形を見て『おなじだ~!』っていう反応が強かったですね。そういえば、印刷に入る前の最後の最後の段階で、3歳の娘に見せていたとき、ZのページのZIPPER(ジッパー)が、何の絵なのか、ちょっと伝わりにくかったんです。それで、ジッパーのつまみの部分を少し分かりやすく描き直しました。ギリギリだったんですけど。あのときの娘の反応に感謝ですね(笑)」
よねづさんにとって、いちばんめの読者ちゃん!
――パパのしかけ絵本を、お子さんたちはどんなふうに楽しんでいらっしゃいますか?

「自分で本棚から取り出しては、『これ、読んで』と、僕のところに持ってきたりして。子どもたちがすごく小さいときは、僕が作ったと分からずに、他のたくさんの絵本の中から、選んだり、読んだりしてくれていたので……うん、嬉しいっていう気持ちはありますね(笑)。本当にボロボロになるまで楽しんでくれています。

特に人気があったのは『もぐ もぐ もぐ』ですかね。みんな、食べることが好きなので(笑)。あとは、動物がくっついて、いろんな形になる『ぴたっ!』も好きですね。僕の絵本は、内容も出てくる言葉もシンプルなので、すぐに覚えて、自分で読んでいました。3歳くらいからは、ページをめくりながら、自分でお話を作ったりすることもありました(笑)」
『もぐもぐもぐ』『ぴたっ!』どちらも穴あきしかけの大人気絵本。

アートディレクターのようにテーマにいちばん合った画風を考える

――よねづさんの絵本には、いつも遊びやユーモアがちりばめられていて、大人も子どもも読んでいて楽しく、一緒に盛り上がることができるのが魅力です。

「ユーモアは自分の特徴といいますか、得意な部分だと思っていて……むしろ、そこしかできないくらいの感じなので(笑)。自分の良さを最大限に生かせるように、いつも心がけています。そのためには、いかにいいアイデアが出せるかが勝負で。おもしろいしかけや、アイデアに合ったイラストはどんなものがいいかなど、一生懸命考えています」
――確かに絵の表現の幅がとても広いことも、よねづさんならではの個性ですね。

「本当に小さな子ども向けの絵本だったら、絵のアウトラインを太めにして、目で認識しやすいようにしようとか。それこそ、アートディレクターみたいに、この絵本のイラストは誰に依頼しようかな? という感じで、自分でタッチを描き分けています(笑)」
――最後に、『おんなじかたち!ABC』を手にとる読者の方にメッセージをお願いします。

「子どもに英語を覚えさせようとか、勉強として読むのではなくて、まずはアルファベットに触れるところから。親子で楽しみながら英語に触れることで、自然と子どもたちに興味を持ってもらえる絵本になったらいいなと思っています」
インタビューにも気さくに答えて、たくさんの創作の秘密も見せてくれたよねづさん。この笑顔から生まれる絵本に、これからも目が離せません!
子どもたちにとって親しみやすい、さまざまな日常アイテムや生き物たちが、ふとアルファベットの形に見えるという新鮮な発見。想像力豊かな小さい頃に、こんなユニークな絵本で英語とはじめて出会ったら、きっと英語を“友達”みたいに感じるはず。アルファベットに興味を持ち始めたお子さんの知的好奇心を刺激する、楽しさいっぱいのABC絵本です。​
『おんなじかたち!ABC』
よねづゆうすけ 講談社

AはANTのあり、BはBANANAのバナナ……。AからZまでのアルファベット文字の形が、動物や食べ物など子どもに身近なものの絵と、見事に一体化したABCブックです。最後にはアルファベット表もついていて、絵を楽しみながら自然にアルファベットに親しめるようになる絵本。英語に触れるファーストブックとして最適な一冊は、入園などのプレゼントにもぴったり。
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よねづ ゆうすけ

絵本作家

1982年東京生まれ。東海大学教養学部芸術学科デザイン学課程卒業。2005年イタリア・ボローニャ国際絵本原画展に入選。以来、多くの絵本を生み出し、そのユニークなしかけ絵本は世界中の子どもたちに愛されている。 【主な著書】 『のりものつみき』講談社、『にじいろカメレオン』講談社、『たべもの だーれ?』講談社、『もぐもぐもぐ』講談社、『ぴたっ!』講談社など Website nakaniwa instagram @yusuke_yonezu Twitter @YusukeYonezu

1982年東京生まれ。東海大学教養学部芸術学科デザイン学課程卒業。2005年イタリア・ボローニャ国際絵本原画展に入選。以来、多くの絵本を生み出し、そのユニークなしかけ絵本は世界中の子どもたちに愛されている。 【主な著書】 『のりものつみき』講談社、『にじいろカメレオン』講談社、『たべもの だーれ?』講談社、『もぐもぐもぐ』講談社、『ぴたっ!』講談社など Website nakaniwa instagram @yusuke_yonezu Twitter @YusukeYonezu