会社員と絵本作家を両立!? 続ける秘訣は環境と「家族」という読者

未来の絵本作家へ、講談社絵本新人賞受賞作家からのエール。はっとりひろきさんインタビュー・後編

第39回(2017年)講談社絵本新人賞(以下、絵本新人賞とも)受賞作家のはっとりひろきさん。2018年に受賞作『いっぺん やって みたかってん』でデビューして、今年絵本作家歴6年目を迎えます。

デビュー以来、はっとりさんはコンスタントに作品を世に生み出してきました。発売したばかりの新刊絵本『おにゃんこタクシー』は講談社で5作目となります。新人賞をとってデビューすること、その後作品を作り続けていくこと、また絵本作家として生活をしていくこととはどのような感じなのでしょうか。

後編となるこちらの記事では、絵本作家と別のお仕事とを両立しているはっとりさんの私生活についてや、「最初の読者」であるご家族についてなど、詳しくおうかがいしていきます。
絵本作家のはっとりひろきさん。
写真提供/はっとりひろき

息子の通う小学校で、自分の絵本を読み聞かせ

──2人の男の子のお父さんでもあるはっとりさんですが、初めてできあがった絵本『いっぺん やって みたかってん』をお子さんに見せたとき、どういう反応でしたか?
『いっぺん やって みたかってん』(2018年刊/講談社)
作:はっとりひろき
はっとりひろきさん(以下、はっとりさん):今でもそうなんですけど、僕の妻も子どもも「僕の絵本が一番面白い」って言ってくれるんです。『いっぺん やって みたかってん』のときもそうでした。それがあるから僕は絵本作家をやれているようなものなので。

絵本作家を目指して作品作りを続けていたころ、子どもが小学生だったので、彼らが小学校を卒業するまでにデビューしたいと思っていたんです。夢が叶って、息子の学校に、自分の絵本の読み聞かせをしに行くことができたのはとても嬉しかったです。

──自分の受賞作をみんなの前で読み聞かせしたんですね!

はっとりさん:そのときはちょうど(絵本作家として)お話をしてほしいと頼まれていて、生徒のみなさんに向かってお話をしたり、いっしょに絵本を読んだりしました。

大変なのはデビューしてから。絵本を描ける環境を作ることが大切

──絵本新人賞に応募する方は、まずは受賞をめざして走っていらっしゃると思うんですけど、デビュー後のことについて教えてください。そこからたくさんの絵本を生み出すある種の「本番」が始まりますよね。

はっとりさん:デビューしてからが大事だというのは、絵本新人賞の授賞式のあとの2次会で、選考委員の村上康成先生に「デビューは誰でもできる。10作出して初めて絵本作家だぞ」と言っていただいて初めて意識しました。そのおかげで調子に乗らずにすんだというか。

僕みたいにたまたま1作ポンと浮かび上がって、たまたまデビューしてしまった場合に、そのあと本当に大変だなと思うことが、やっぱりあるんじゃないかと思います。僕は村上先生にそう言っていただいたあとも絵本塾に通える時間があったので、どんどんストックを作ることができました。

それからデビュー後も編集者さんにサポートしていただける体制が本当にありがたいなって思って。そういう体制もあってなんですけど、デビューしてからいかに続けられるのかっていうのが、大事かなと思います。

──デビュー後も別のお仕事(タンクローリーの整備士)と併行しながら、ご家族と過ごす時間もある中で、どうやって絵本制作を続けていきましたか?

はっとりさん:まず大事なのが、絵本(制作)の時間を作るということですよね。僕はデビューして一度仕事を辞めたのですが、そのあとは「絵本作家としてこういう活動をしています」「休みをこういうふうにいただきます」ということを理解して雇っていただける職場を見つけました。たまたまその会社の方が僕のことを新聞で知ってくださっていたこともあって、スムーズでした。

そういった支援があって、長くない勤務時間を定時で上がらせていただき、あとは家からも近い職場なので、絵本の時間が作れています。かっこつけすぎかもしれませんが、絵本をやりたいんだったら、周りの環境は整えなきゃいけないなと思って。

それは会社だけではなく、家族の理解も同じです。みんなに反対されながらやるっていうのは大変な労力なので、できるだけ家族には応援してもらえるよう心がけています。

逆にそこがしっかりしていれば絵本制作の時間は作れるので、みなさんがイメージされているよりはたぶん、大変とは思っていないですね。

──最新作の『おにゃんこタクシー』でいうと、基本的にはお仕事が終わって帰ってこられて晩ご飯を食べてから、夜に描くという感じだったんですか?

はっとりさん:はい、だいたい夜に描いていました。

──編集からの修正依頼などに対して、すばやく対応してくださったと聞いているのですが……。

はっとりさん:スイッチが入れば早いだけなんですよ。スイッチが入らなければ何もしないので。担当編集さんには時間をわざと切ってもらうというか、期限を言っていただくようにこちらからお願いしていました。仕事として、追い込んでいただきたくて(笑)。

──土日にも絵本を制作されますか?

はっとりさん:土日もずっと描いているのは、原画の段階に入ってからだけですよ。原画を描いている2ヵ月くらいは本当に忙しいですけど、そこまでは比較的のんびりしていて、期日前だけ、やばいやばいって言っています。

イベント満載だった2023年。絵本作家にSNSは必要ない?

──絵本制作だけにとどまらず、イベントも精力的にされているイメージがあります。

はっとりさん:去年は本当に忙しかったです。でも僕はある程度、自分がやりやすいようにいくつかのイベントメニューを作っているので、みなさんが思うほど大変ではないかもしれません。今までやってきたイベントを改良しながら、何か依頼をいただいたときに「これでお願いします」と提案できるようにしています。

──絵本にまつわるイベントやワークショップは、はっとりさんのほうから持ちかけることもあるんですか?

はっとりさん:今は自分からはほぼありませんが、初めのうちはそうでした。新人のころは子どもが小学生だったこともあって、生徒に向けてお話や読み聞かせをしたり、SNSづてで学校に呼んでいただいたりしていましたね。

──SNSのお話が出ましたが、絵本作家として活動していくうえで、SNSで自分のアカウントを持って発信し続けることは、大切だと思いますか?

はっとりさん:発信することは本当はそんなに得意ではないんです。イベントももちろん楽しいですけど、作品作りにだけ専念することができたらベストだなって思うこともあります。

ただ、今、絵本がたくさん出ている中で、自分の絵本を知ってもらうことは大事ですよね。作品を自分の子どもだと思って、少しでも多くの方に知ってもらえる活動は続けていきたいです。

──イベントなどで読者の子どもたちに会う機会も多く、読者の方を大切にされている印象が強いはっとりさんですが、その想いのようなものがあったら教えてください。

はっとりさん:そうですね、とにかく楽しんでもらえたらうれしいです。くみ取ってもらえたらうれしいなって思うことも作品に入れ込んでいますが、子どもたちには見たまま、感じたままに楽しんでもらえたらいいかなって思います。それだけですね。

絵の具を混色しないのが、はっとりさん流!?

──はっとりさんは普段デジタルではなく手描きで制作されていますが、画材のこだわりはありますか?

はっとりさん:僕はアクリル絵の具を使っています。「セラムコート」っていう、木や布に描く「トールペイント」用の絵の具だと思うんですけど、すごくいろいろな色があるんです。

絵本って何ページも同じ色を使わないとダメな場合が多くて、みなさん色を混ぜて作っていたりするじゃないですか。僕は何度も同じ色を作るのではなく、セラムコートにある色をそのまま使う場合が多いです。例えば、この色は「ぽっかりライトせんせい」の机の色だよとか、蓋に書いておけばすぐわかるので便利です。

あとはアクリル絵の具のあとから修正がきくところも僕は気に入っていて、たまたま近くの画材屋さんで見つけたものですが、これをずっと使っています。
はっとりさん私物のセラムコート。蓋に「ぽ(っかりらいとせんせい)かべ」「おにゃ(んこタクシー)ドアノブ」など記載あり。
写真提供/はっとりひろき
──絵の具を混ぜて色を作ると、同じ色を維持するのは難しいですもんね。

はっとりさん:でも、今回の『おにゃんこタクシー』については、おにゃんこタクシーのオレンジ色をオリジナルで作ったので、別のビンにまだ保存してあります。次回作がもしあったら、それを使いますね(笑)

最初の読者は、いつだって子どもたち!

──お子さんが小さいときによく読んでいた、思い出の絵本はなんですか?

はっとりさん:『まよなかのだいどころ』『よるくま』……。『しょうぼうじどうしゃ じぷた』は僕が好きでした。

あと、僕が描いた絵本のラフは、いつも一番最初に息子たちに読んでもらっていました。
──それはお子さんが大きくなってからも同じですか?

はっとりさん:はい、今もです。今日(インタビュー当時)、下の子が高校合格したんですが……。

──おめでとうございます!

はっとりさん:ありがとうございます。そんな息子たちもいまだに「お父さんの絵本が一番面白い」って言ってくれるんですよね。それを信じて、毎回ラフを見てもらっています。面白いしか言わないですけど(笑)、僕にはそれで十分です。

賞をとるのに必要なのは、基礎と独自性

──はっとりさんは、これからどんな絵本を作っていきたいですか?

はっとりさん:僕はメリーゴーランドの絵本塾の出身なので、そこで学んだことっていうのがすごく大きいんです。もちろんそこで学んだことを応用したり、崩したものは作りたいのですが、「絵本とはこういうものなんだよ」っていう基礎はしっかり続けていきたいです。

それから機械関係だったり、自分の今までの経験を活かして、僕自身が面白いなって思えるものをできるだけみなさんに、絵本という形で楽しんでいただけるとうれしいです。

──プロの絵本作家として、お客さんにきちんとしたクオリティと「楽しい」をお届けしたい、というところでしょうか。

はっとりさん:そうですね。こだわりを持ってやりたいです。こだわらなきゃいけないところもあるけども、人の意見を受け入れるところと、バランスを取りながらですね。

──絵本新人賞を1次通過された方の中には、絵本塾に通っている方も一定数いらっしゃるようですが、通ったほうがいいのでしょうか。

はっとりさん:どうでしょうか。ただそれもなくデビューできる方たちのような、なんていうんですかね、天才というか、天然でできてしまう方というか。塾とかは必要なくて、本当に「はまる」方もいるので、行く人もいれば……っていう感じですよね。何が正解かは、ちょっとわからないです。

講談社絵本新人賞は、すごく意味のあるコンテストだと思います。歴史もそうですけれど、受賞後も担当編集者さんがついてくださって、ありがたいなと僕は感じました。

──それでは最後になりますが、講談社絵本新人賞受賞をめざす方に、アドバイスやメッセージをいただけますか?

はっとりさん:まず、絵本作りの基本は押さえたほうがいいなと思います。けれど、自分の思うままに勢いで出すっていうのが、一番ではないでしょうか。ありきたりな作品では選ばれないと思います。自分の中の「これが僕だ!」「私だ!」っていうのがあると、すごくいいかもしれませんよね。

最終選考に残るまでは、ある程度のレベルにいかないことにはダメかなと思うんですけど、そこから先は気持ちの問題が大きいと思っています。

ただまずは最終選考に残るということが大切です。そしてデビューしてから、本当に作品のストックが大事です!

──なるほど。本日はありがとうございました!

伸びる、登る、潜る!? 猫型タクシーの絵本が登場!

お客さんの要望にこたえ、どんな場所へも送り届ける「おにゃんこタクシー」。

今日は運転手のねこすけさんの息子・ねこたろうの誕生日ですが、おにゃんこタクシーは大人気のひっぱりだこで……。

はっとりさんのこだわりが詰め込まれた、ページのすみずみまで楽しい絵本です。
『おにゃんこタクシー』(2024年刊/講談社)
作:はっとりひろき

はっとり ひろき

写真提供/はっとりひろき
1978年岐阜県海津市生まれ。小さいころから絵を描くことと、F1が好きだった。高校卒業後、建設機械及びフォークリフトの整備士として勤める傍ら、絵本作家を目指す。2016年よりメリーゴーランドの絵本塾に通う。2017年、『いっぺん やって みたかってん』で第39回講談社絵本新人賞受賞。三重県在住。2児の父。

はっとり ひろき

絵本作家

1978年岐阜県海津市生まれ。小さいころから絵を描くことと、F1が好きだった。高校卒業後、建設機械及びフォークリフトの整備士として勤める傍ら、絵本作家を目指す。2016年よりメリーゴーランドの絵本塾に通う。 2017年、『いっぺん やって みたかってん』で第39回講談社絵本新人賞受賞。三重県在住。2児の父。

1978年岐阜県海津市生まれ。小さいころから絵を描くことと、F1が好きだった。高校卒業後、建設機械及びフォークリフトの整備士として勤める傍ら、絵本作家を目指す。2016年よりメリーゴーランドの絵本塾に通う。 2017年、『いっぺん やって みたかってん』で第39回講談社絵本新人賞受賞。三重県在住。2児の父。