書きたいという欲求に応える方法

手の準備ができても、すぐに文字を書くわけではありません。
さらに前段階の教具がいろいろありますので、紹介しましょう。

「砂文字板」
すべすべの板に、ざらざらしたサンドペーパーで切り抜かれた文字が貼ってあるものです。美しい文字を見るだけではなく、なぞって触れることで、字形を認識し、文字の再生が簡単になります。ひらがなの正しい書き順も覚えられます。

砂文字板 
左が空いているのは、子どもに正しい向きを伝えるため

砂文字板をなぞる 4歳8ヵ月

最初の段階で、書き順をきちんと伝えることが重要です。また1つの文字に1つの音があることもわかります。黙ってなぞるのではなく、なぞった直後にその音を発音するからです。

「移動五十音」
清音だけでなく濁音や促音など、すべての文字が複数枚ずつ、入っている箱です。まだ文字が書けなくてもさまざまな単語を構成することができます。単語だけではなく、文をつづることもできます。

モンテッソーリの教具「移動五十音」と構成された単語

「メタルインセッツ(鉄製はめこみ)」
鉄の板に円や楕円などの図形がくりぬかれています。色鉛筆を使い、子どもでも枠に沿って簡単に美しい図形を描くことができます。さらにその中に線を引いたり、塗りつぶしたりすることで、自然と運筆練習になるものです。

モンテッソーリで使うメタルインセッツ(鉄製はめこみ)が、言語の教具だと知らない人もいる

この3つは、実際には文字を書きませんが、次の段階で、筆記具をもって書くときに、とても役立ちます。
こうした教具がなくとも、書くための手を準備しておくこと、筆記具を持つ前の段階があること、視覚だけでなく触覚や聴覚といった複数の感覚器官の助けを借りることなどを知っておくと、書きたいというお子さんの欲求に応える方法が工夫できます。

私が監修した『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』(監修:田中昌子 講談社)には、手を使うさまざまな工夫が載っていますし、鉛筆の持ち方や練習のしかたについても記載がありますので、こちらもぜひ参照して下さい。

「早く計算して正解にたどり着くこと」というイメージ

次に数についてですが、子どもが「い~ち、に~」と数詞を唱えたり、数字を指さして読んだり、身の回りにあるものを数えたりといった姿は、特別な訓練をしなくとも、3~4歳頃にはよく見られるようになります。
もちろん個人差はありますが、そうした姿から数への興味、つまり数の敏感期が小学校に入ってからではなく、幼児期にあるということはみなさんも納得されるでしょう。

それに対応する方法として、一般的には、お風呂で100まで唱えさせたり、数字のカードを与えたり、プリントで計算をさせたりすることが多いかと思います。またご質問にもあるように、九九や簡単な暗算を教え込むこともあるでしょう。

大人はどうしても、数といえば「早く計算して正解にたどり着くこと」というイメージがあります。また私もそうですが、数学が苦手という親御さんが多いので、自分のような苦労をさせないように、という思いがあるようです。
もちろん、早いうちから計算を身につけさせれば、それはひとつの優れた能力となりますし、それをきっかけにして算数や数学が好きになるということもあるでしょう。

子どもには生まれながらの数学的精神がある

ただ、モンテッソーリ教育では、全く異なるアプローチをします。なぜならモンテッソーリは、子どもには生まれながらの数学的精神があると考えていて、幼児期には数の世界の素晴らしさを紹介し、計算よりも概念を伝えることを重視しているからです。
たとえ100まで唱えられたとしても、それで100までの数がわかっているとは言い切れません。モンテッソーリ教育では、数量(具体量)、数詞、数字、の3つが一致したとき、その数がわかると捉えています。もっとも重要なのは具体物である数量から入ることです。

子どもが幼いうちは、具体物、つまり、縦横高さがあり、触って感じることができる物に触れることが大切です。そのことは、大人も理解しやすいでしょう。ところが、知的教育になったとたん、大人は文字や数字といった完全抽象の世界に慣れているため、それをそのまま子どもに伝えようとします。

しかし、子どもは具体から半抽象を経て、ようやく完全抽象へと進んでいくのが、自然でわかりやすい学び方です。そのため、モンテッソーリの数教具には、さまざまな形態の数量が準備され、繰り返し、数詞や数字との一致ができるような仕組みになっています。

数量・数詞・数字を一致させるモンテッソーリの教具の一例

一般的には、幼児期には10まで、せいぜい100までの世界で十分という考えられているようです。モンテッソーリ自身も最初は同じ考えをもっていたため、4桁の数を扱う教具を小学生向けに作りました。
ところが、実際に金色に輝くビーズの教具に熱心に取り組んだのは4歳児だったと、モンテッソーリはその驚きを記載しています。4歳児は十進法に熱狂し、6歳までに4桁の加減乗除を単なる計算だけではなく、概念として身につけていったのです。

モンテッソーリの教具。
ビーズとカードで4桁の演算ができる

敏感期の子どもだけが持っている素晴らしい力

数の敏感期にある子どもたちが、それを満足させてくれるものに出会ったときの熱意と根気、集中力は途方もないものです。私もその様子を何度も見聞きしたことがあります。前回、おやつよりも紐を結ぶことに熱心だった子どもについて書きましたが、数への興味はそれをはるかに超えるものです。下の写真をご覧下さい。

1万まで書いた数字の巻物
これはモンテッソーリの教具ではありません。教具に十分に触れ、数字を書きたいという子どもの欲求に応える自由な教材です。

これは、さまざまな教具を経て、数字を書くようになった子どもが自主的に選んで取り組む「数字の巻物」というものです。
4桁のマス目がブランクになっている紙がたくさん準備されています。10個数字を書くと、いっぱいになり、次の紙を自分で糊付けして続きを書いていきます。好きなだけ書いていいし、どこで止めることも自由です。もちろん一日で終わるものではなく、興味の赴くままに来る日も来る日も子どもは書き続けます。
子どもによってどこで終わりになるかはさまざまですが、私の勉強会の卒業生から送っていただいた写真がこちらです。

重さ600グラムの数字の巻物は、敏感期の証

年少から小1になるまで書き、なんと1万まで続けました。その太さは15センチの箱いっぱいになるほどで、いったんほどくと、全部巻きなおすには1時間もかかるとのことです。これは大人が強制してできることでもなく、また大人ができることでもありません。敏感期の子どもだけが持っている素晴らしい力であり、正しく援助することでその力が発揮されるという証でしょう。
また、家事の中にも数の要素はたくさんあります。そらまめや枝豆を剥いて中に入っている実の数を数える、カップ2杯や小さじ3杯などを実際にやってみるなど、意識して取り組んでみるといいでしょう。

生活の中にある数量 
砂糖を量る 
4歳9ヵ月

今すぐ役に立つ実例を年齢別に豊富に掲載。カラー口絵つき。

33 件

著者紹介

田中 昌子 たなかまさこ

モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長。上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。