2021.03.25

巣ごもり生活は新しい発見のチャンス! 角野栄子さん86歳 充実した生活のヒント

〈コクリコ〉オリジナルインタビュー 童話作家・角野栄子さん/巣ごもり生活のヒント

著者:角野 栄子

あるミノムシとの出会い

新しいWEBメディア「コクリコ」のオリジナルインタビュー、最初のゲストとしてご登場いただくのは、「魔女の宅急便」シリーズ(福音館書店)でおなじみの角野栄子さん(86歳)。2018年には児童文学のノーベル賞とも呼ばれる「国際アンデルセン賞」作家賞を受賞し、世界的な注目を集めました。斬新なアイデアを紡ぎ、次々とユニークな作品を生み出す角野さんは、幼少期をどのように過ごし、作品を書くようになっていったのでしょう。子育て中の親御さんへ、育児のヒントにもなる全3回のインタビューです。

――角野さんの一日のスケジュールは決まっているんですか?

ルーティンが決まっています。ある日突然創作の神さまが降りてくる、なんて人もいるけど、私は毎日書くコツコツ派。コロナ前は仕事を終えてから買い物に行ったり、コーヒーを飲みに行ったりしたけれど、それはできなくなりました。

散歩はしています。同じ道を歩いていると、新しい家が建ったり、よそのお庭の様子が変わったりして、だんだんおもしろくなってくるのよ。

――新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって、 在宅勤務になったり、 保育園や幼稚園が休園になったりと、子どもと家で一緒に過ごす時間が増えた方も多いと思います。ライフスタイルの変化にはどう向き合っていますか?

私の仕事は幸いなことに、家のなかでひとりでするもの。だから、巣ごもりっていうのはあんまり苦痛じゃないんです。

もちろん、だれかと一緒にご飯を食べたい、映画やお芝居を観たい、買い物に行きたいという気持ちはあります。だけどやっぱり外に出られないのであれば、いま「自分はどうしたいのか」ということを考えますね。

コーヒーを飲みに行きたいって思っても行かれないときなら、自分でコーヒー入れて、ベランダにでも持って行きます。そしてじっとしていると、あら、ずいぶん庭の草が育ってきたなってわかったりね。

そういえば、ある日ミノムシが1匹、うちの外壁にぶら下がっていたことがあったの。異性と出会うこともなく壁に一人ぼっちでいるって、孤独じゃない? オスだかメスだかわからないけど。気の毒に思いながら見守っていたら、まとってる蓑がだんだん家の壁に同化してきてね。ちょっとピンクがかったミルク紅茶色になりました。

――擬態ですね。それはけっこう長い期間かかったのでは? 

1か月くらい見ていたかしら。今日はどうしてるかな? って。ミノムシも孤独の中で工夫して、イノベーションしてるんだと思いました。でも、雨が降って強い風が吹いたある日から、いなくなってしまって、寂しかったですね。

自粛生活じゃなかったら、そんな小さなミノムシに気をとめることもなかったかもしれないわね。

「作家をしていなかったら、絵描きになったかもしれない」と角野栄子さんは言います。

「『魔女の宅急便』が生まれた魔法の暮らし 角野栄子の毎日 いろいろ」(KADOKAWA)より
撮影:馬場わかな

お母さんにとっての「いいこと」が、子どもにとっても「いいこと」

――外に出られないことで、いままで気にしなかったことが見えてきたわけですね。

それは、自粛生活の中、我慢の毎日の中での、ささやかな贈り物だな、と思っているの。

テレビやゲーム、いまはなんでもボタンひとつで切り替わっていく時代でしょう。一日のスケジュールもびっしりで、生活にすき間がないですよね。それが、コロナの我慢の暮らしの中で、立ち止まることができたという面もあると思います。

もちろん、お子さんやご主人がずっと家にいたら、お母さんたちの負担が大きい部分もありますけど……。でも自粛生活そのものは、気持ちの持ちようで悪いものだけではないかもしれないですね。このコロナの時期は自由は制限されるけど、想像力はかえって自由に育っていくかもしれない。生きる知恵が生まれるかもしれない。

ちいさなミノムシでも自分らしい世界を作ってる。仲間発見ですよね。こちらもそこからお話を作る、絵を描くなど、空想の世界を広げて、自分の気持ちを形にしてみるのもいいですよね。

――お母さん自身が楽しむことが大事なんですね。

子どもがかわいいっていうのはみんな同じだと思うけど、お母さんもひとりひとり違うので、こうあるべきだっていうことはまったくありません。

私の場合は物語を書くことでしたけど、どんな形でも、お母さんがイキイキしていることが一番いいと思います。お母さんがワクワクして自分自身を輝かせていられたら、それが子どもにとっても、いいんじゃないかしら。子どものためにとギリギリ考えてなにかするんじゃなくて、まず本人がいいからするというスタンスでね。

――角野さんの物語の中では、同じ地球にすむ生き物、虫や花、見えるものも、見えないものも遊んでいますね。

想像することは、目の前の景色に彩りを与えてくれます。楽しいと思う気持ちも、つまらないと思う気持ちも、ほんの小さな発見から変わっていくと思います。発見ってわくわくしますよ。心がけ次第ね。

生きにくい時代ですが、想像力を発揮することが、暮らしを楽しむ魔法。そうすれば、自分の生活が広がりカラフルに彩られていくのではないでしょうか。それは、自分も人も幸せにすると思うんです。

(構成/五十嵐千恵子)

「コロナの時期は想像力を開かせるチャンスかもしれない」と語る角野栄子さん。自宅の庭で。

「『魔女の宅急便』が生まれた魔法の暮らし 角野栄子の毎日 いろいろ」(KADOKAWA)より 撮影:馬場わかな

角野栄子さん一問一答! 

――いま気になる一冊は?

カーソン・マッカラーズの『心は寂しい狩人』。
マッカラーズは卒論で扱った作家なのですが、村上春樹の新訳版が出たので読んでいます。素晴らしい作家です。

――角野栄子の成分をひとことで言うと?

ワインみたいだけど、「フルボディ」。
頭だけでなく、情緒だけでなく、やっぱりフルボディで生きたい。また物語も書きたい。

――怖いものは?

この年になったら、もうあまりないですけど(笑)。やっぱり地震かなあ。いや、戦争だわ。

――作家をしてなかったら?

絵描き。装丁家にも憧れます。やはり何かをつくる仕事をしていると思います。

――動物になるとしたら? 

オオカミ。『神なるオオカミ』(姜戎著、講談社)を読んでから、不思議としか言いようのないその存在に惹かれました。  

――魔法が使えるとしたら?

透明人間になる。姿を消して、いろんなところを見たり、いたずらしたり(笑)。

zoomでインタビューに答える角野栄子さん。壁紙のかわいい絵もご自分で描かれたそうです! 

角野栄子さんインタビュー、「じぶんが子どもだったころ」編、「巣ごもり生活のヒント」編もお読みください!

〈コクリコ〉オリジナルインタビュー 童話作家・角野栄子さん/『魔女の宅急便』と子育て

〈コクリコ〉オリジナルインタビュー 童話作家・角野栄子さん/じぶんが子どもだったころ

著者紹介

角野 栄子 かどのえいこ

1935年東京・深川生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て24歳からブラジルに2年滞在。その体験をもとに描いた『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』で、1970年作家デビュー。代表作『魔女の宅急便』は舞台化、アニメーション・実写映画化された。産経児童出版文化賞、野間児童文芸賞、小学館文学賞等受賞多数。その他、「アッチ、コッチ、ソッチの小さなおばけ」シリーズ、『リンゴちゃん』『ズボン船長さんの話』。紫綬褒章、旭日小綬章を受章。2016年『トンネルの森 1945』で産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、18年3月に児童文学の「小さなノーベル賞」といわれる国際アンデルセン賞作家賞を、日本人として3人目に受賞。2023年には、江戸川区に「角野栄子児童文学館」(仮)ができる予定。

童話作家・角野栄子のオフィシャルサイト