2022.02.19

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「住み続けられるまちづくり」一級建築士・稲葉なおと氏「道と川」にヒント

『おはなしSDGs 住み続けられるまちづくりを サクラの川とミライの道』創作秘話

児童図書編集チーム

SDGsの目標のひとつである「住み続けられるまちづくりを」。

この目標は、世界中で安全で安価に暮らせるような住まいとインフラ(ガス、電気、水道など、生活するときに重要になってくるライフライン)を整えるなどといったものを中心に設定されています。

では、日本で「より快適なまちづくり」をする場合、どのような問題が出てくるのでしょうか?

SDGsのポイントを物語でわかりやすく伝える書籍『おはなしSDGs 住み続けられるまちづくりを サクラの川とミライの道』を刊行された稲葉なおとさんに、その創作の過程についてお話を伺いました。

SDGsの目標の一つ「住み続けられるまちづくりを」をテーマに、ご執筆された著書『サクラの川とミライの道』

親子で「まち」を意識したとき

――ご執筆にあたって、まず考えられたことは?

稲葉なおと(以下、稲葉)「SDGs目標の十一番、『住み続けられるまちづくりを』についての児童小説を、という依頼を頂いて、まず浮かんだのが、うちの子どもたちなら、どんな物語であれば、まずは興味をもってくれるだろう、ということでした」

――児童向け小説は、『サラの翼』(講談社刊)をはじめ今作で三作目ということですが、ご執筆前には、いつもご自身のお子さんのことを念頭において、作品のイメージをふくらませるのでしょうか?

稲葉「そうですね。まずは自分の子どもたちを最初の読者に、興味をひく物語を考えるんですが、これが今回は、これまで以上に難題でして(笑)

我が家には、中学生から大学院生まで、三人の子どもがいるのですが、その子たちが小学生だった頃、『まち』を意識したのはどういう時だっただろうと考えていくうちに、まず浮かんだのが、『道』でした」

――タイトル『サクラの川とミライの道』にもなっている「道」ですね。

稲葉「そうなんです。子どもたちが、小学校に入って、自分たちだけで歩く通学路を経験して、そこで道の『安全性』や『危険性』、『楽しさ』や『不安』について、初めて実感したわけですね。

この実感は、親も同じでした。身の周りの道を、我が子が、子どもだけで歩くという視点で見たときに、この道は歩道が狭く危険だとか、ここには横断歩道が欲しいとかを考えるようになったわけです。

特に、子どもが自転車に乗り始めると、もうひやひやで(笑)まずはいっしょに自転車で何度も走ることで、気がつきにくい段差や、思い掛けない飛び出しがある交差点についてチェックし、何度も注意をしたことを思い出したわけです」

町の中を「歩いてみる」ことで初めて見えてくるものもある(『サクラの川とミライの道』本文より)

――道を通じて初めて親も子も、「まち」を意識したということですね?

稲葉「そうです。

自分たちの住む「まち」にとって、道の重要性と危険性について、親も子も、子どもだけで歩き、自転車で走るようになってあらためて認識したわけです」

「川で魚が捕れる!」と知った

――とてもわかりやすく、興味深いです。もうひとつの「川」というテーマは?

稲葉「ぼく自身の体験で思い出したことがもうひとつあって、近くに流れる川に、親子でよく遊びに行ったことです。

川魚捕りをして遊んだんですが、今回書き上げた小説の中には、転校生の伸太郎くんの家の中が、川魚で一杯の大小の水槽だらけという場面があるのですが、あれこそまさに当時の我が家でして(笑)

それだけ親子で、川魚捕りに夢中になったわけです。

家の近くに川はもともとあって、その存在は親も子も知っていたのに、まったく関心がなかった。

それが、そこで魚を捕れるという楽しみを知った途端に、まさに自分の住む『まち』の魅力として、川の存在感が急に増した。それはとても新鮮な発見でした」

身近にあるような川にも、意外と魚がたくさんいる(著者撮影)

――物語には、稲葉さんの父親としての視線、体験が活きているということですね。

稲葉「作者の体験という意味では、準主役の伸太郎くんの転校が、物語の発端になるのですが、ぼく自身が小学五年生の時に、まったく環境の異なった小学校への転校を体験しています。

文化が、それこそ言葉づかいからしてまったく異なる校風に、最初は大いに戸惑ったことを、今でもよく覚えています。

作者の気持ちの投影は、主役の映太郎くんではなく、伸太郎くんのほうにあったわけです」

第二の故郷「岡山県津山市」

――物語の重要な舞台として岡山県津山市のお話が出てきますが、こちらも稲葉さんの体験と関係がある?

稲葉「岡山県津山市は父の実家がある街で、ぼくにとっては生まれた年からずっと、両親に連れられて夏と冬に帰る『故郷』でした。

津山のサクラの美しさは、子ども心にもしっかり焼き付いていて、実はその街・津山の写真集をこの春に刊行する予定で、一昨年から何度も津山に帰る機会が増えて、帰るたびに『津山弁』のシャワーを浴びているんですが(笑)

やっぱり地方の言葉っていいなぁ、東京の言葉にはない魅力があるなぁとしみじみ感じたものですから、そんな思いも物語の中に反映させてもらいました」

桜が咲き乱れる津山の「さくら祭り」は作中にも登場する(『サクラの川とミライの道』本文より)

――稲葉さんご自身の子育て体験、幼いころの転校、帰郷体験がすべて物語の中に織り交ぜられているのですね。

稲葉「そうした自分自身の体験を思い返すうちに、今回の『住み続けられるまちづくりを』というテーマが、当初は『これはかなりの難題だ』と感じていたテーマなんですが(笑)、ぼく自身が身近に感じられてきて、自分の子どもにはもちろん、読者になってくれる子どもたち、そしてそのお父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんにも、自分の体験と照らし合わせながら、自分が住む『まち』について考えるきっかけになれるのでは、と思ったのです」

――なるほど、よくわかりました。最後に読者の方々へメッセージをお願いします!

稲葉「幼い頃の体験は、子ども自身が発見することと、親が、周りの大人たちが与えてあげて初めて目の前が開かれることがあるかと思います。

小学校時代は、まだまだ後者の比重が大きいですから、ぜひ、子どもとの時間を共有しながら、身の回りにあるちょっとした自然について、それは川でなくても、小さな林でも、柿の木一本でも、タンポポが生えた芝生でもよいと思いますけど、

自然がある生活と、自然がなくなってしまったことで得る便利な生活と、どちらが子どもたちの将来にとってよいのか、そんなことを親と子で考えるきっかけに、この本がなれたら、作者としてとても嬉しいです」

子どもの頃の体験こそが「自分自身で考える」きっかけになる(『サクラの川とミライの道』本文より)

紀行作家・一級建築士
稲葉なおと氏 PROFILE


東京工業大学建築学科卒業後、商業施設、マンションなど数多くの建築企画・設計に携わったのちに作家デビュー。JTB紀行文学大賞奨励賞受賞。日本建築学会文化賞受賞。一級建築士ならではの視点で、旅行記、小説、児童小説、写真集などを次々と刊行。テレビ、ラジオにも活動領域を広げる。小説『ホシノカケラ』、建築ノンフィクション『夢のホテルのつくりかた』など著書多数。最新刊『おはなしSDGs 住み続けられるまちづくりを サクラの川とミライの道』は、『ドクターサンタの住宅研究所』『サラの翼』に続く3作目となる児童小説。4月には写真集『津山 美しい建築の街』を刊行。(著者近影© Seizo Terasaki)

おはなしSDGs 住み続けられるまちづくりを サクラの川とミライの道

学校の勉強も運動も普通なので、名前をもじってB太郎と呼ばれている主人公・映太郎(えいたろう)。ある日、岡山県津山市から転校生の伸太郎(しんたろう)がやってきた。クラスメイトから「変な言葉」と方言をいじられ、休み時間もひとりで過ごす伸太郎に、映太郎は話しかけるのが精一杯。夏休みになったある日、網とバケツを持った伸太郎にばったり出くわした映太郎は、伸太郎から近所にあるコガモ川のヒミツを教えてもらい……。

稲葉なおと氏が執筆した、都市に存在する「見えない川」の話はこちらから!

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