2021.07.15

相関図がスゴすぎる…東大卒・理系男子が考えた「百人一首勉強法」

5文字で百人一首

「百人一首」の人間関係を相関図にした画像が、Twitterで大きな話題を呼んでいます。

こちらは、すとうけんたろうさんの「百人一首の人物相関図をつくりました」というツイート。(2021年5月27日)
ツイートされてから数日間のうちに、「凄い整理整頓能力」「とてもカオス」「ありそうで見たことなかった」「過去一の情報量を持つ呟き」(以上、全てTwitterからの引用)など、称賛の声が寄せられ、 2.3万RT、5.7万いいねもされています(2021年7月現在)。
この驚異的な画像は、なぜ作られたのでしょうか? 作者に取材しました。

※記事の後半で、「百人一首の人物相関図」最新バージョンを紹介しています

百人一首の人間関係は、想像以上にカオスだった

「百人一首の人物相関図」を見ると、想像をこえた人間関係の複雑さに驚きますが、それ以上にすごいのが、この複雑な関係性をわかりやすく整理・分類しているところ。

▼色分けで分類▼
すとうさんによるTwitter上での説明では
橙…皇族
・紫…藤原氏
・黄…源氏(何系統もありますがまとめて)
・赤…源氏以外の皇別氏族
・緑…藤原氏以外の神別氏族
・青…諸蕃(渡来人系氏族)
・青っぽい灰…不明
・黄っぽい灰…ねこ

で色分けしているとの事。皇族・氏族など、「どんな立場の人物だったか」が、色分けで一目瞭然です。

▼分身する清少納言▼
人名の囲みが直線と点線で違うのは、「点線は分身みたいなものです。どこかに本体がいます。関係性の矢印を引っ張るには遠すぎるときに、一方の分身を相手の近くに作るようにしました」と説明しています。

図の中では、清少納言(せいしょうなごん)が2ヵ所にいます。これは、「紫式部さんのコメントをいただきたくて、清少納言さんには分身してもらいました」との事。作者のこだわりが光ります。

▼右近の5股疑惑▼

右近(うこん)からは、恋人の矢印が5本も出ています。才能あふれる宮廷歌人の右近は、さぞやモテモテだったのでしょうか? 実のところ右近の残した歌は、恋の悲しみや恨み言を詠んだものが多く、ハッピーな恋愛ばかりではなかったようですが……。
ちなみに、Twitterでの発表時は「右近の恋人矢印」は4本でしたが、最新バージョンの改訂版では5本に増えています。(掲載の画像は、すとう氏による最新バージョンのものです。全体図はこの記事の最後で見ることができます)

▼菅原道真公が「祟る」!▼

学問の神様としても有名な菅原道真(すがわらのみちざね)。失脚した道真が大宰府へ左遷され失意のうちに死亡、のちに朝廷へ祟りをなした、という怨霊伝説が有名です。「百人一首の人物相関図」では、このエピソードもしっかり押さえています。

▼あちこちに「ねこ」▼
「百人一首の人物相関図」をよーく見ると、あちこちに「ねこ」がいます。百人一首にねこは登場しませんが、ねこを飼っていた歌人はたくさんいたようです。図の中に「ねこ」が何匹登場するか、あなたは全部みつけられますか?

すとうさんに答えをお聞きしたところ、「実は猫は全部で6匹います。わかりづらいですが「命婦のおとど」と「大納言の姫君」も猫です。ちなみに、従二位家隆の父は、木曽義仲に無礼を受けたあの猫間中納言です。猫じゃないしスペースもないので割愛しました」との事です。

なぜ「百人一首の人物相関図」はできたのか?

工夫とアイデア満載の「百人一首の人物相関図」は、なんのためにできたのでしょうか? また、作者の「すとうけんたろう」さんとは、どんな人なのでしょうか。

▼書籍の資料としてつくった▼

すとうさんがTwitterで説明している通り、この図は著書の『5文字で百人一首』を執筆するためのメモとして作ったもの。

すとうさんに取材したところ、「拙著『5文字で百人一首』のための資料として作った図が元になっています。公開にあたり、一枚の画像に収まるようにサイズや配置を工夫しました。家系図についてはウィキペディア、歌人や猫の交流については、それぞれ専門の書籍を参考にしました」と、制作の背景を教えて頂けました。

それにしても、著書の資料とはいえ、たんなる「メモ」の範疇を超えたすごい情報量と整理能力に驚いてしまいますね。

▼実は理系男子だった▼
すとうけんたろうさんは、一体、どんな人なのか? 「おおざっぱに言って理数系の活動をしてきた」と語るすとうさんの経歴は、こんなふうに紹介されています。

「はじめまして。すとうけんたろうです。
機械学習エンジニアをしています。大学院では、「粒子法」という物理シミュレーション手法を研究していました。気体と液体と固体とを全て仮想的な粒子の集まりとして扱うことで、ややこしい状態を比較的簡単に解析できる手法です。

大学院を出た後、その粒子法を使ったシミュレーションソフトウェアを開発する会社に入りました。私は主に映像制作とビデオゲーム向けの開発をしていました。その後ゲームの部門が会社として独立し、私はそこのスタートアップメンバーになりました。

それが会社ごと買収されて、私はGoogleに入社しました。現在はそこをやめて、いわゆる人工知能、機械学習の技術を使ってさまざまな社会的課題を解決する会社に勤めています。

趣味はプログラミングで、最近はJavaScriptでテキスト処理や物理シミュレーションのプログラムを書くのが好きです。作ったものは個人ウェブサイト「ねこいりねこ」で公開してあります」


(「ネットでバズった…東大卒・元Googleエンジニアの、百人一首を「五文字変換」の凄ワザ」より引用)

百人一首の解説書をてがけるなら、きっと文系の人だろう……と思いきや、実はバリバリの理系男子だったことにビックリです。しかし、著書『5文字で百人一首』のコンセプトでもある、5・7・5・7・7で31文字の短歌を、5文字に圧縮してみよう! というアイデアは、理系ならではの発想といえるかもしれません。

とっつきにくい古典表現の短歌を、現代風の5文字に言い換えてみたことがきっかけで、身のまわりや自分に重ねて考えることができるようになり、その結果、和歌に親近感がわいて覚えやすくなった……と、自然発生的にできた勉強法だったワケですね。

ちなみに、すとうさんのツイッターアイコンは「ねこ」ですが、こちらはご自身によるイラスト。プロフィールにも「おおきくなったらねこになりたい」と表示されていて、ねこに対する想いは並々ならぬもの(?)のようです。

5文字で百人一首』でも、全編にわたって「ねこ」イラストが登場し、歌の解説も「ねこ」がしてくれるのが特徴です。内容の面白さもさることながら、ねこのかわいさに思わずホッコリしてしまいます。

▼書籍出版の背景▼
ねこが5文字で百人一首を解説する……という斬新なスタイルの教養本は、なぜ生まれたのか。出版の背景を、編集担当者にも聞いてみました。

「百人一首は、時代背景や使われている言葉が現代と異なるため、歌の意味などの内容が頭に入ってきにくい教養だと思います。そこで、斬新な切り口で興味を持ってもらい、読んでいるうちにいつのまにか百人一首を覚えてしまった…というような本をつくれないか?というところを起点にネットを探索し、「ねこいりねこ」にたどり着きました。このサイトにあった「5文字」のコンテンツをベースにすれば、百人一首がおもしろくなるのではと感じ、企画しました」


また、すとうさんのツイートが大反響だったことにより、おもわぬ出来事もあったそう。
「すとうさんのツイートがバズってから、すぐにAmazonの在庫がなくなり、休日だったためにその様子を見るしかない一方、ツイートはバズりつづけ、非常に歯がゆい思いをしました」


いまやSNS全盛の時代ですが、ツイートをきっかけにAmazonの在庫が一瞬でなくなるなんて、「バズり」効果のものすごさを実感するエピソードですね。
(※現在は、書店店頭でも電子書店でも手に入ります)

実は最新バージョンができていた…!

すとうけんたろうさんが新たに作った最新バージョンの「百人一首の人物相関図」。

こちらは、すとうけんたろうさんが新たに作った最新バージョンの「百人一首相関図」。どこが変わったか、わかりますか?

すとうさんから、変更点をお聞きしました。

・藤原仲平を左に移動して、伊勢からの矢印をなめらかにしました
・小野篁が「子子子子子子子子子子子子」の読み方を即答したエピソードを追加
・万葉集の吹き出しを塗り忘れていたのを修正
・文字位置の微調整
・陽成院の歌の相手、綏子内親王がのちに妃になったのを反映しました
・右近と大中臣能宣を恋人にしました。そう書いている文献が少ないので疑問符つきです

ツイートが話題になった事や、最新バージョンの相関図については
「期待以上の反響で驚いています。猫をはじめとした各種の小ネタに早々に気づいてもらえたのがよかったです。コメントで質問や補足をくださった方々に感謝します。おかげさまで、情報が整理され、見どころが見つけやすくなりました」
と語っています。

最後に、読者へのメッセージをお聞きしました。
「図の中で気になる記述があったらネットなどで調べてみてください。面白いエピソードが見つかると思います。和歌と猫にまつわる関係性は、『5文字で百人一首』でも一部解説しています。あわせてご覧いただけると幸いです」

「百人一首の人物相関図」が生まれた背景、いかがでしたか?
難しいと思われがちな古典教養ですが、「百人一首の人物相関図」がバズったことで、「整理や要約の工夫次第で、複雑なことも楽しく学べる」と実感できたのではないでしょうか。


「あらゆる文章を5文字にするモデルなどが作れると楽しいんでしょうけど」と語るすとうけんたろうさん。百人一首の次は、どんなことにチャレンジするのでしょうか? 今後もその活動に、ぜひ注目していきたいですね。

▼試し読みをチェックする▼(横にスワイプしてください)

『5文字で百人一首』(すとうけんたろう:著) 
百人一首は、学校で大会があったりマンガの題材になったり、目にする機会も多いけど、100個もあるし、昔の言葉でどういう意味なのかわかりにくいし、覚えるのが大変……。そんな百人一首を、現代風に、くすりと笑える「5文字」にしてみました!
とっても楽しくわかりやすい、新たな百人一首の教養本!
元の歌→訳→意訳→五文字 の四段階の訳+直感的にわかるイラストで、うたの意味を想像しつつ、かわいいネコちゃんが、歌の内容を、話したくなる豆知識とともにゆる~く解説!
歌の詠まれた場所マップ、改めて理解する機会がなかなかない「枕詞」「序詞」「掛詞」のちがいや、昔使われていた月や時間帯を一覧にした知識コラムもあって、「序詞ってなに?」「どこで詠まれた歌なんだろう?」「有明の月ってなんだったっけ?」「歌を詠んでいる人同士の関係性は?」といった疑問も一挙解決!
【解説】『ちはやと覚える百人一首』あんの秀子氏

「百人一首の相関図」参考文献
吉海直人『一冊でわかる百人一首』(成美堂出版)
あんの秀子『百人一首の100人がわかる本』(芳文社)
あんの秀子『マンガでわかる百人一首』(池田書店)
佐佐木幸綱『百人一首のひみつ100』(主婦と生活社)
杉田圭『超訳百人一首 うた恋い。』(メディアファクトリー)
吉海直人『百人一首大事典』(あかね書房)
桐野作人『猫の日本史』(洋泉社)
武光誠『猫づくし日本史』(河出書房新社)