「おさんぽ探究」親子散歩とオンライン発表で子どもに思考力が身につく理由

➁「リアルやオンラインでつながって仲間を広げる」編

ライター:山本 真理

一人一人の好奇心から自然と生まれる発見や自発的に観察したり考えたりすることの大切さ、想像力や創造性を育む“自由過ぎる探究”「おさんぽ探究」について、一般社団法人 まなびの天才畑代表理事で「ぐるぐる探究隊」主宰の高秀章子さんに教わる本連載。
(全3回/ おさんぽ探究①    おさんぽ探究③

第2回は、親子でのご近所さんぽのポイントや、仲間とコミュニケーションをとりあうなかで得られる、さまざまなことについてうかがいました。

1「親子でのご近所さんぽ」

おさんぽ探究は、屋外に集まってみんなで歩きまわるのが理想的ですが、コロナ禍など大人数や直接対面を避ける必要があるときは、まず、親子で近所を散歩し、その後に参加者全員がオンラインの場でつながる方法で行ないます。

オンラインでの活動は、遠方住まいの人でも参加しやすいというメリットもあるため、今後も世の中の状況に応じて、そのつど臨機応変な対応が必要になっていくと考えられます。

——コロナ禍では、思いきり外遊びができない子どもたちはもちろん、親たちが抱えるストレスも相当なもの。テレワークなど生活スタイルの変化から家事の負担や気苦労が増え、カラダもココロも疲れ気味になり、煮つまってしまいがちです。でも、近所の散歩なら、自分たちのペースで無理なくできて良いですね。親子で歩くとき、親のふるまい方として、どんな点に気をつけると良いですか?

高秀さん「親子で散歩するときの最大のポイントは、『親も一緒になっておもしろがること』。子どものつきそいではなく、親自身も発見を通して、あくまで“子どもと対等な仲間”になるのです。大前提として、子どもが発見したものを否定しない。姿勢としては“全肯定”で尊重します。

また、『ふしぎだな〜』という素朴な感覚をあじわうためにも、ひとつだけルールを設けています。それは『歩いていて、見つけたふしぎから疑問点が出てきても、すぐにネット検索して調べない』。親が知っていることがあっても、その知識を披露せず、子どもの自由な発想が広がっていくのにまかせます」

ご近所さんぽでいろいろ発見「あっ、これはなに!?」

2 見つけた「ふしぎのタネ」を発表しあう

歩きまわった後は全員が集まり、思い思いに写真に撮った“ふしぎ”を発表しあいます。

——人前で話すのは緊張してしまうなど、いろいろなタイプの子どもがいますが、初めての顔ぶれを前に、みんな気後れせずに自分の発表ができるものなのでしょうか?

高秀さん「他の親子の発見をみんなで眺め、感想をあれこれ言いあうのですが、そこにもさらなる“新たな発見”が。それは、自分自身で発見したものだからこそ、初対面の子どもたちでも、『ここがふしぎ、ここがおもしろい!』と、“自信をもって話せてしまうというふしぎ”です。

また、家というリラックスできる空間とウェブ画面越しという環境がそろうことで、より話をしやすい状態が整うことも。そういったオンラインのならではの良さもありますね」

ナビゲーターを務める高秀さんらスタッフは、教育の現場で“何かを生み出す人”や“発電機”を意味する「ジェネレーター」といわれる役割も担っています。その場を仕切るというよりは、自分自身もおもしろがりながら、一緒に何かをつくり出していく役割です。

——ジェネレーターは、おさんぽ探究の“仲間”でもあるのですね。探究の場にジェネレーターがいるといないとではここが違う、というのはありますか?

高秀さん「先生でもなく、親でもない。おもしろがってくれる仲間が多くいるからか、ストレートに意見を言い合えます。『この人たちには思いつきをポンポン言っても大丈夫!』と、思ってもらえているようですね」

オンラインで集まり見つけたふしぎの発表タイム!(写真提供:高秀章子さん)

見つけた“ふしぎ”は、“ふしぎのタネ”として、次回のワークの“ネタ”になります。少し時間を開けて、空想をふくらませてオリジナルの物語を創作し、絵を描いたり、寸劇風に演じてみたりと、思い思いの表現で発表します。

高秀さん「きれいに咲いていた頃の道ばたの花、2週間後に見に行ったら枯れかかっていた同じ花をそれぞれ20代の若者と99才の老人にたとえてお話を作り、大熱演の寸劇を披露してくれた親子もいました。

オンラインで行なう場合は、在宅での作業工程が見えないぶん、かえって手の込んだ紙芝居や寸劇ができあがってきたりと、親子それぞれの得意なことを活かしたチームワークが良い形で身を結んだことでパワーアップした作品の発表に驚かされることもあります」

——仲間とつながることで得られるものには、将来に活かせる要素がたくさんありますね。

高秀さん「『その場にいる全員でひとつのもの(ふしぎのタネ)に向き合う』という体験から、活発にコミュニケーションを取りあう経験もできます。

それらの体験は、たしかに学校や仕事での場面につながり得るものですよね。何人かで『ひとつの課題に取り組む』場合は、まず『自分はこう考える』という明確な意見をもっていることが大事です。チーム全体の動きは各々の意見を出し合ってから始まるのが一般的なので、大切なプロセスと言えるでしょう」

みんなが発見したふしぎのタネをジェネレーターがグラレコにまとめたもの

3 日常のモヤモヤ感がスッキリ晴れた

おさんぽ探究を体験した子どもたちからは、「おもしろいものがたくさん見つかった!」「お話をつくるのも聞くのも楽しかった!」「学校でもやってみたい! 先生に言ってみようかな」という声が。

同じく、お父さんやお母さんたちからも、「なんだかスッキリした!」「いろいろ新鮮だった」「子どもとコミュニケーションがたくさんとれた」といったポジティブな感想が多く寄せられました。

——おたがいの発見を尊重し、協力しあって何かを創作する。親子でのおさんぽ探究は、大きな達成感も得られるうえに、親子関係にも良い影響があるんですね。

高秀さん「『日常のモヤモヤ感を解消できてスッキリした』という大人からの声はかなり多いです。親がおもしろがることで、子どもも本気になって探究に没頭するようになり、おたがいに『へぇ、こんなふうに考えているんだ!』という新鮮な発見も。

『まだまだ子どもだと思っていたけれど、自分の考えを言えるようになって….成長しているんだな』と実感したという声も少なくありません。

ふしぎのタネさがしという共通体験によって、親子間のコミュニケーションも活発に。会話が増えることで、家庭内でのいわゆる“風通し”も良くなります」

見つけたものをイラストや文で自由に表現

何かを成し遂げたときに感じる達成感は、子どもにとって大きな自信につながります。

「好奇心」「自由」「おもしろがる」を柱とした一連のおさんぽ探究には、人生を生きていくうえで欠かせない観察力や発想力、思考力、判断力など、さまざまな要素を刺激するヒントがたくさんあることがわかりました。

色々なものに目を向けて考える体験を重ねるにつれ、各自の個性も健やかに育っていきます。いつか大きな選択や課題に向き合ったとき、自分自身のなかに“ブレない軸”をもっていれば、知恵や工夫でたくましく乗りきっていけるはず。親子で歩いてワクワクするような発見をしながら、日常のモヤモヤを吹き飛ばしてみませんか?

第3回は、「日常の発見は楽しく学ぶためのエネルギーになる」についてお聞きします。

高秀章子(たかひで あきこ)
企画・制作ディレクター/探究ジェネレーター/キャリア教育コーディネーター
総合学習がスタートした2001年頃より、学校と社会をつなぐゲスト授業を実践するプロジェクトに参加。杉並区学校教育コーディネーター、学校運営協議会委員などを務める。学校現場での実践ノウハウと、編集や広告などの仕事で培ったネットワークを活かした活動を展開中。好奇心を育てるプロジェクトファーム、一般社団法人 まなびの天才畑代表理事。

<主なプロジェクト>探究型の学習プログラム「TEAM ABLE PROJECT」、発見や創造を楽しむ探究体験「ぐるぐる探究隊」、スポーツ×ことば「スポーツ575」など。
https://www.gurugurutq.com/

やまもと まり

山本 真理

Mari Yamamoto
ライター

ライター。大学在学中、出版社にて編集アシスタントを経験し、情報誌の仕事をもつ女性をターゲットにした特集記事の取材/執筆を機にライターとして活動を始める。以降、雑誌、ムック、書籍、企業の広報誌やウェブサイト等、様々なメディアで多岐にわたるジャンルの企画、取材、執筆に携わる。2004年、トルコ イスタンブールへ転居。居住歴14年。現地でトルコ語を学ぶかたわら、トルコを中心に、周辺の中東諸国や中央アジア地域、地中海地方の料理や文化などについて多国籍の人々から学び、知見を広げる。現在は日本を拠点に、ネット配信ニュースサイトなどで健康や暮らし全般、時事問題等、幅広いトピックスの執筆を手がける。

ライター。大学在学中、出版社にて編集アシスタントを経験し、情報誌の仕事をもつ女性をターゲットにした特集記事の取材/執筆を機にライターとして活動を始める。以降、雑誌、ムック、書籍、企業の広報誌やウェブサイト等、様々なメディアで多岐にわたるジャンルの企画、取材、執筆に携わる。2004年、トルコ イスタンブールへ転居。居住歴14年。現地でトルコ語を学ぶかたわら、トルコを中心に、周辺の中東諸国や中央アジア地域、地中海地方の料理や文化などについて多国籍の人々から学び、知見を広げる。現在は日本を拠点に、ネット配信ニュースサイトなどで健康や暮らし全般、時事問題等、幅広いトピックスの執筆を手がける。