親子で性の話は気恥ずかしい? 子どもと性や生理の話 どう話す?

そんな時、「本」が間に入ってくれるかも 司書・児童文学作家 こまつあやこさんの助言

デビュー作『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』が中学入試最多出題作としても話題になり、2作目『ハジメテヒラク』が、日本児童文学者協会新人賞(過去には灰谷健次郎さんや上橋菜穂子さんも選ばれた)を受賞した、司書で児童文学作家のこまつあやこさん。

ご自身も10代の頃に身体の悩みを親や友人に言えず不安を抱えていた経験があるそうです。

子どもと本をつなぐ役目の司書として、児童文学作家として、親子で性の話をするきっかけになるようなおすすめの本を紹介してくださいました。

司書で児童文学作家のこまつあやこさん

子どもと性や生理の話、どうやって話す?

ああ、最近こういう本が増えてきたな。

図書館司書としても働く私は、ここ数年で子どもや保護者に向けた、性や生理に関する知識の本が増えて来たと実感しています。本だけでなく、10代の人たちが親しみやすく学べる動画なども増え、だんだんとそうした情報をオープンに話せる雰囲気が広がりつつあるようです。

そうした情報にふれるたびに、自分が高校生だった頃のことを思い出します。生理について親にも友達にも相談できませんでした。「相談」と書いたのは、当時の私には困っていたことがあったからです。

私は高校生になっても一度も生理が来ませんでした。親も心配してくれていたと思いますが、このような話題は親子間でもタブーのように感じ、私は向き合うのを拒んでいました。高校三年生でようやく婦人科のクリニックに行き、通院が始まりました。

高校は女子校で友達にも恵まれていましたが、通院のことは秘密にしていました。教室にいても、「薬を飲んだり基礎体温を測ったり、こんなことをしているのはきっと私の他には誰もいないだろうな」とモヤモヤした気持ちを抱えながら。

そのことを人に話せるようになったのは、大学生になってからです。私のように通院している友達はいませんでしたが、それぞれに不安や疑問を抱えていたことが分かりました。

ああなんだ、みんな不安だったんだ。そう気づき、作家志望だった私は、だんだんと生理のことをテーマにしたティーンエイジャー向けの小説を書きたいという思いが生まれました。
 
そうしてやっと『ポーチとノート』という小説を書き始めた去年2020年、参考文献を探していたところ『世界中の女子が読んだ! からだと性の教科書』という本に出会いました。二人のノルウェーの医師が学生時代に綴ったブログが元になったという本です。

2017年にノルウェーで刊行され、36ヵ国で刊行が決定しています。初めて読んだときは、その情報量の豊富さに、「こんなに詳しい本に出会ったのは初めて!」と驚きました。

『世界中の女子が読んだ! からだと性の教科書』 エレン・ストッケン・ダール、ニナ・ブロックマン/著 高橋 幸子/医療監修 池田 真紀子/訳 NHK出版

日本に比べ性教育が進んでいると言われる北欧ですが、この本のまえがきの言葉が印象的でした。

「そんな北欧に暮らすわたしたちでも、わからないことだらけなのです。世界のほかの地域に暮らす女性たちは、山ほどの疑問を抱えて悩んでいるにちがいありません」。

体のつくりから生理、セックス、下半身のトラブルなどかなり踏み込んだ内容ですが、語り口がユーモアたっぷりで女子たちを励ましてくれます。

この本の他にも、北欧発の性などに関する本は出版されています。たとえばデンマークの『北欧に学ぶ 好きな人ができたら、どうする?』は、男女両サイドの視点で展開するグラフィックブックで男子にもおすすめです。

『北欧に学ぶ 好きな人ができたら、どうする?』 アンネッテ・ヘアツォーク/著 枇谷玲子/訳 カトリーネ・クランテ、ラスムス・ブラインホイ/イラスト 晶文社

こうした文献とも出会いながら書き上げた『ポーチとノート』の原稿を、ご縁があって埼玉の浦和第一女子高等学校の生徒さんたちに読んでもらいました。

この作品は、10歳の誕生日にもらった生理用品の入ったポーチを一度も使ったことがない女子高生が、初めての恋を通して、ノートに綴りながら自分の体や気持ちと向き合うというストーリーです。

「どんなコンプレックスがあってもこれが私なんだよ」、「性についてだけでなく様々な悩みを持つ人への救急本になれると思う」といった言葉がありました。また、「でもやはり生理は面倒でうっとうしい存在」と率直な感想もあり、どれも作品への手紙のように感じました。

そして、この作品をすすめたい人は「お母さん」と書いてくれた生徒さんがいました。多くの家庭で、性や生理のことを面と向かって話すのは、きっと親子だからこそ気恥ずかしいのだと思います。そんなとき、本が間に入ってくれるかもしれません。

本を通して「恥ずかしくない、話しても大丈夫」と思ってもらえますように。児童文学作家としても司書としても、そう願っています。

『ポーチとノート』こまつあやこ/著 講談社

『ポーチとノート』
こまつあやこ/著


2019年度の中学入試で最多出題作となった『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』で講談社児童文学新人賞を受賞、『ハジメテヒラク』で第54回日本児童文学者協会新人賞を受賞したこまつあやこ氏、待望の3作目。

未来の机の引き出しに入っているのは水色のノート。中学の頃からその時感じた気持ちをこっそりと綴っていた。そして、もう一つは10歳の時にプレゼントされたのにまだ一度も使われたことがない生理用品の入ったポーチ。
誰にも言えない体の悩みを抱えていた未来がある日恋に落ちて……。

「数日前に、未来ノートに綴った言葉をこっそり思い出す。
ねえ今は
同じ制服を着ていても
いつかはみんな母になる?
私一人
取り残されちゃうのかな」
ーー 本文より。

こまつあやこの本

リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ
2019年度中学入試最多出題作!
栄光学園、海城、鎌倉女学院、成城、淑徳与野、桐朋、白陵、緑が丘女子、山脇学園、早稲田実業……
【あらすじ】中二の九月に、マレーシアからの帰国子女になった沙弥は、日本の中学に順応しようと四苦八苦。ある日、沙弥は延滞本の督促をしてまわる三年の「督促女王」に呼び出されて「今からギンコウついてきて」と言われ、まさか銀行強盗? と沙弥は驚くがそれは短歌の吟行のことだった。短歌など詠んだことのない沙弥は戸惑う。しかし、でたらめにマレーシア語を織り交ぜた短歌を詠んでみると……。2017年講談社児童文学新人賞受賞作
ハジメテヒラク
 『おはようございます。実況はわたし、出席番号三十三番、綿野あみがお送りいたします。』
ひそかな趣味は脳内実況!そんなわたしがなぜか生け花部に……。

「あ、いえ、そうじゃなくて、生け花ってふつう……」
女の子がやるものじゃないんですか?
その言葉が喉(のど)から出かかってわたしははっとした。
【実況ってふつう男性がやるもんだろ】
むかし、おとうさんが早月ちゃんに向けた言葉が蘇る。
ダメだ。同じようなことはいいたくない。

──本文より。
こまつ あやこ

こまつ あやこ

児童文学作家

1985年生まれ。公共図書館にて司書として勤務した後、私立中高一貫校に司書として勤務。2017年『リマ・トュジュ・リマ・トュジュ・トュジュ』で講談社児童文学新人賞受賞。2021 年『ハジメテヒラク』で児童文学者協会新人賞受賞。最新作に『ポーチとノート』。

1985年生まれ。公共図書館にて司書として勤務した後、私立中高一貫校に司書として勤務。2017年『リマ・トュジュ・リマ・トュジュ・トュジュ』で講談社児童文学新人賞受賞。2021 年『ハジメテヒラク』で児童文学者協会新人賞受賞。最新作に『ポーチとノート』。