2021.05.24

「兄弟げんかを仲裁する方法を教えてください」子育て相談 モンテッソーリで考えよう!

第22回

著者:田中 昌子

たくさんの方の子育ての悩みに寄り添ってきた田中昌子先生。今回は、兄弟げんかがひどくてお悩みのお母さまからのご相談です。
たかが兄弟げんか、と思ってしまいがちですが、モンテッソーリでは、おろそかにしてはいけない大切な考え方がありました。


※この記事は、講談社絵本通信掲載の企画を再構成したものです。

(イメージ写真/photoAD)

兄弟げんかを仲裁する方法を教えてください

5歳と3歳の男の子がいます。兄弟げんかがひどく、すぐに叩いたり蹴ったりします。
兄弟げんかは、親が介入しない方がいいという意見が多く、これまで放置してきましたが、年齢が上がるにつれてひどくなってきました。私もイライラして怒鳴ってしまいますし、ときには2人を叩いて止めるしかないこともあります。
モンテッソーリ教育では、子どものけんかについてどう考えるのでしょうか。

兄弟げんかについては、「手加減を学べる」「コミュニケーション能力が育つ」といったメリットがあるという意見も多いようです。でも、毎日繰り返されると、お母様もまいってしまいますし、大怪我につながる危険性もありますから、できれば兄弟仲良く、親子仲良く過ごしたいと願うお気持ちは当然のことです。

目の前のお子さんたちにどう対処したらよいのかについては、後で述べるとして、最初にモンテッソーリの平和教育について触れておきます。子どものけんかをとめるには、平和教育の考え方を身につけておくことが大切だからです。

モンテッソーリの考える平和とは

モンテッソーリは、『モンテッソーリ 平和と教育』(P・オスワルト、G・シュルツベーネシュ編、小笠原道雄、高祖敏明訳、エンデルレ書店)という本の中で、平和について、以下のような状態であると述べています。

1 全世界が正義と愛に基づいて、調和した状態
全世界、つまりすべての人々の心の中が、正義と愛で満たされている、そうすれば争ったりすることなく、調和が保たれるようになります。

2 正常で健康で本来そうあるべきと考えられる状態
一人ひとりが、正常で健康、つまり生き生きと生命力あふれる姿であることが、本来、人間がそうあるべきと考えられている姿です。モンテッソーリは、それこそが平和である、と言っています。
 
「本来そうあるべき姿」というのは、第5回でお伝えした、「正常化」という言葉とつながっています。

子どもは非常に荒れた状態であっても、モンテッソーリ教育のお仕事、手と五感を使う作業をすることによって、集中し、正常化します。それにより、落ち着いて、穏やかで、生き生きとして、なおかつ、自分の心に内なる教師を育て、規律に喜んで従います。
つまり、心に平和を持った子どもになります。それがモンテッソーリ教育の目的である人格の形成ということです。

貝殻や石の感覚を楽しむ0歳8ヵ月児。赤ちゃんのときから豊富な自然体験を

言われなくても靴を揃える1歳10ヶ月。内なる教師に従っている

こうしたことが、目の前の子どもだけではなく、世界的規模で、すべての子どもに正常化が起これば、世界の状態もまた、正常化した状態、つまり本来あるべき姿に立ち戻ります。それこそが平和な状態である、というのがモンテッソーリの考えです。平和な状態になれば、争いごとは起こりにくくなります。

「平和を生きる人」を育てるために

モンテッソーリは、教育によって「平和を生きる人」を育てようとしました。そのために何をすればいいのか具体的に見ていきましょう。

1 大人と子どもの戦いをやめる
モンテッソーリは強者と弱者の戦争とも呼んでいましたが、大人は圧倒的な強者として子どもを支配し続けています。モンテッソーリは、「(子どもは)生まれたその日からその戦いに引き入れられ、成長過程を通して逃げられない」(『モンテッソーリ 平和と教育』)と述べています。
「触っちゃダメ!」「もう何回言ったらわかるの!」とお母さんが叫び、子どもがぎゃーっと泣く。激しく果てしない親子の戦争が、毎日繰り広げられています。

ご家庭ばかりではありません。学校でも、教師は子どもを叱り、指示命令を与えるというやり方が今も一般的です。特にモンテッソーリの時代は、教師は絶対的な権力者でした。
しかしモンテッソーリは、まさにこういう大人の関わり方こそが争いを生むというのです。なぜならそれは子どもの生命の発達を抑圧するものだからです。

抑圧され続けた子どもは、一人で何かをしたり、自分の意志で動いたりする経験ができません。大人になっても、支配されることに慣れてしまい、自分をコントロールすることができなくなります。
忠実でいることを奨励されると、誤ったことに盲目的に同調してしまうなど、道徳的な抵抗力が欠けてしまうのです。

大人は抑圧する一方で、競争を奨励して仲間に勝てばほめそやし、大人に反抗せずに過ごして良い点を取れば評価します。
しかし、モンテッソーリは、そうした方法では他人と協力したり、愛し合ったりすることが難しいばかりか「戦争に対する準備を授けるもの」(『モンテッソーリ 平和と教育』)とまで言い切っています。

ですから、平和を生きる人を育てるためには、強者である大人は、弱者である子どもと戦ったり子どもを抑圧したりするのではなく、生命そのものが育っていくことを見守り、援助することが重要です。

きっちり洋服を畳む。3歳10ヵ月 男子。環境を整えて優しく見守ってきた大人がいるから、心が育つ

2 平和的解決の手段を提示する

これが、今回のご質問の直接的な答えになると思います。モンテッソーリ教育ではなにごともやってみせること、つまり第3回でお伝えしたように、提示という方法で子どもに伝えます。

モンテッソーリが5~6歳のとき、口げんかする両親の間に椅子を引きずってきて、二人の手を取って仲裁した、というエピソードも残されていますが、暴力や武器によらない解決手段を実際に示すのです。

理解し合う

日本ではまだあまり取り入れられていませんが、私の勉強会のアメリカ在住の卒業生の方からとても素敵なレポートをいただきました。それが「平和のテーブル」です。

「平和のテーブル」設置例 壁際やコーナーなど落ち着いた場所が好ましい。花は本物でも造花でも構わないが、受け渡しをするので、バラバラにならないといった配慮が必要

「平和のテーブルは、子どもサイズのテーブルと2つの椅子のセットです。クラスの静かな場所で、かつ大人にも見えやすい場所に置き、テーブルの真ん中に”平和の花”を置きます。

子どもが相手に対して怒ったときに、その子は相手を平和のテーブルに招待します。招待した方の子どもから、花を手に持ち、会話を始めます。

相手の子のどのような言動で傷ついたのか、どうして平和のテーブルに招待したのか伝えます。
それから花を相手の子に渡します。花を持っている子どもが話をします。
子ども達は花をお互い渡し合いながら、敬意を払いながら、問題が解決するまで話し合い、解決したら二人で花をもって、”we declare peace(私たちは平和を宣言します。)”と言うそうです。
話し合い方をまだ理解していない子どもの場合は、他の子どもか、教師が間に入ります。特に、最初は、教師が平和のテーブルの正しい使い方を提示します。
 ①花を持っている人のみ話すことを許されること 
 ②荒々しくではなく優しく花を受け渡しすること 
 ③話すときには悪い言葉ではなく適切な丁寧な言葉を使うこと

といった問題を解決するスキルのお手本を、実際にやって見せます。

お互いの子どもの感情を相手にわかるように”通訳する”のも教師の役割です。子どもは相手の気持ちを理解するのを学んでいる途中なので、大人が分かりやすく相手の気持ちを通訳してあげます。
争いを解決するために必要な練習を、こうやって小さいうちから積み重ねていきます。

平和のテーブルの使い方をマスターした子どもは、他の子ども達の争いを解決するのを手伝えるようになるそうです」

この方も質問者さんと同じように、男の子2人の兄弟でしたので、ご家庭で兄弟げんかに悩まされていたことがありました。それまでお母様が、「ごめんなさい」を無理に言わせてきたこともあり、平和のテーブルを取り入れた最初の頃は「どうやったら解決すると思う?」と聞いても、5歳のお子さんは「ごめんなさい」と口先で言えば解放してもらえると思っていたそうです。

友達同士のケンカでも、親が無理矢理「ごめんなさい」を双方に言わせて、終わらせていることが多いと思います。そうした親の介入は、本当の平和へとつながりません。

それよりも、相手の気持ちを理解し、自分も譲れないことは主張し、お互いの妥協案を考えるという平和的な解決手段を見つけられるような援助を、親は心がけるべきではないでしょうか。

テーブルとは限らず、クッションで代用したり、場所を定めずに花やtalking stickと呼ばれる棒を使ったりする方法もあるそうです。この場合もテーブルでするときと同じように、受け渡しをしながら会話をするだけですから、ご家庭でも取り入れやすいと思います。

ここで重要なのは、言語です。人間には言語という伝達方法がありますので、戦争や暴力などという愚かな解決手段ではなく、日頃から言語で解決する方法を提示することが大切であるとモンテッソーリ教育では考えています。このようなことが、本当の意味でコミュニケーション能力が育つ方法だと思います。

殴り合いや叩き合いをすることで、手加減を覚えるといいますが、殴り合いや叩き合いをしなければ、相手の痛みがわからないのでしょうか。
世の中の平和的な人々は、過去に殴り合いをした人ばかりではないはずです。

逆にそれは、相手に伝わらないときには、暴力に訴えてもいい、力の強い方が相手に言うことを聞かせることが可能である、ということを提示してしまいます。

強者が弱者に勝つということを幼児期に体験してきた子どもは、大人になっても弱者に対して同じことをします。幼児期に自分が経験してきたことは、人格の根っことして残り、生涯にわたって影響を及ぼすものですから、本当に日々の暮らしは大切です。

平和とは、とても身近なところから始めることができるものです。お友達や家族と仲良くすること、心の中の平和を保ち、隣の人と手をつなぐこと、それが平和への第1歩です。

0歳8ヵ月の妹を優しく着替えさせる5歳の姉。どちらも心が満たされている。

第14回の線上歩行のように、縁石を歩く5歳の兄の真似をする2歳の弟。いつも兄がお手本となっている

子どもたちに接する大人たちもまた、心の平和を保ち、平和な生き方を子どもに示し、手を取り合う姿を提示しましょう。そうすればきっと、兄弟仲良く、お母様も笑顔で日々過ごせることと思います。

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著者紹介

田中 昌子 たなかまさこ

モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長。上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。