事故から我が子を守る「歩かせ方」 家庭で行うコロナ禍の交通教育

入学前から始めたい! 未就学児の“道路経験値”を上げるコツ&絶対禁止のルール

スピードを出した車が向かってきていても、子どもはある程度の距離があれば「道路を渡れる」と判断してしまう――。これは、子どもたちの“道路横断判断能力”が未熟なことから引き起こされる判断エラーです。交通事故から我が子を守るために、わたしたちがしてあげられることとは? 交通工学がご専門で、交通安全教育の啓発活動に取り組まれている稲垣具志先生(中央大学研究開発機構准教授)に、お話をうかがいました。

写真:アフロ

外出自粛のコロナ禍でも、子どもに最低限の道路経験値を上げさせるには

公教育で行われる交通安全指導は、『車をよく見て(=認知)、渡りましょう(=行動)』といったもの。この“認知”と“行動”の間にある“判断”は、子どもの発達に合わせて、個別に、そして具体的に教えなければなりません。

「子どもが実際に使うルートを使って、子どもの発達や特性に合わせた教育ができるのは、家庭であり、保護者だと僕は思います。日々の生活の中で教えられる具体的な経験の積み重ねが、道路の横断判断能力を育てるのです」(稲垣具志先生)

とはいえ、幼稚園や保育園への送迎、買い物にだって自転車や車に乗せて移動していたら、手をつないで一緒に歩くこと自体、あまりないという人も多いのでは。ましてや、このコロナ禍で外出の機会が減っているのに、一体どうしたらいいのでしょう?

「“ママタクシー”で完全に子どもを送り迎えできる環境なら、交通事故から子どもを十分に保護することはできるでしょう。そうしている事例も海外にはあります。

でも、今の日本では、ほとんどの子どもは自分で通学します。成長につれ、子どもだけで遊びに行くことも増えていくでしょう。だったら、子どもを守るために保護者が取るべき対応は、“保護”だけではないはずです」(稲垣具志先生)

路上では子どもの手をしっかりと握り、子どもをかばうように車道側を歩く。これだけでは、親の経験値しか上がりません。小学校に入学したとたんに手を離され、ひとりで歩くように言われても、子どもだって困るでしょう。保護だけではなく、教育を。ときには、小さなチャレンジも必要だと、稲垣先生は訴えます。

「もちろん、不用意に子どもを道路で遊ばせたり、未就学児にひとりで道路を渡らせたりするのは問題外。絶対にやってはいけません。

車のこと、交通安全のこと、『こういうときはここに気をつけようね』などと具体的に話しながら、一緒に歩く経験を重ねましょう。安全が確保できるなら、『どうしたらいいと思う?』と、子どもに判断をゆだね、小さなチャレンジをさせてみてもいいでしょう。

ふだんは自転車に乗せて移動していても、週末には散歩がてら、道路経験を増やしてあげたらいい。そこに時間をかける価値はあると思います」(稲垣具志先生)

コロナ禍とはいえ、楽しいお散歩に交通教育の機会を織り交ぜることは可能です。小学校入学を控えているなら、通学路をお散歩コースに加えて練習するのもいいですね。お天気のいい休日だけでも、ぜひお試しを。

青点滅で走ると『青点滅=走る』とインプットされかねない

横断歩道で青信号が点滅したのを見て、「早く渡っちゃいなさい!」と、子どもを走らせている人、結構いるのではないでしょうか。

道路交通法を見てみましょう。

「(青信号が点滅したら)歩行者は、道路の横断を始めてはならず、また道路を横断している歩行者は、速やかに、その横断を終わるか、又は横断をやめて引き返さなければならない」

「走れ」とは書いていません。むしろ走るのは危ないと、稲垣先生は警鐘を鳴らしています。

「青点滅で子どもを走らせるのは、最悪な選択です。子どもの中に、『青点滅=走る』とインプットされかねません。青信号だからといって、安全とは限りません。『安全を確認しつつ歩く』が正解です。走ると視野が狭くなり、認知エラーを誘いやすくなります。また、車も子どもも、急には止まれないので非常に危険です」(稲垣具志先生)

この『走らず歩く』指導は、ヨーロッパの多くの国で徹底されているといいます。

「以前、走った子どもに激怒しているドイツ人のお母さんを見たことがあります。『元気がいいね』なんてニコニコしていたら怒られそうで、『子どもの命は親が守る』という気迫を感じました」(稲垣具志先生)

〈走ってはいけない理由〉

1.走ると、リスクに気づかない

2.走ると、リスクに気づいても止まれない

3.走ると、ドライバーが回避できない

青信号が点滅していたら、無理に渡らずに次を待つ。子どもだけでなく、大人も守らなければいけないルールです。また、「走らず歩く」は、横断中だけでなく、歩道でも同じ。幼稚園や習い事に遅刻しそうでも、信号を守り、はやる気持ちをグッとこらえて歩くこと。かっこいい大人の姿を、子どもはしっかり見ていると心得ましょう。

取材・文/湯地真理子
編集プロダクション、出版社勤務を経て、独立。女性のライフスタイル、趣味実用、健康などの分野で、雑誌、書籍などの編集・執筆に携わる。理系オタクの息子&夫と暮らす文系ママ。

いながき ともゆき

稲垣 具志

中央大学研究開発機構准教授

中央大学研究開発機構准教授。博士(工学)。令和2年より現職。専門は交通計画、交通安全対策・教育、ユニバーサルデザイン。独自の横断判断の研究データを元にした交通安全の講演は、人柄の良さが伝わる軽妙な語り口とともに、多くの自治体や学校で人気を博す。 また、一般社団法人日本福祉のまちづくり学会の理事を務め、東京オリンピック ・パラリンピックのアクセシブル・ルートのチェックにも尽力している。

中央大学研究開発機構准教授。博士(工学)。令和2年より現職。専門は交通計画、交通安全対策・教育、ユニバーサルデザイン。独自の横断判断の研究データを元にした交通安全の講演は、人柄の良さが伝わる軽妙な語り口とともに、多くの自治体や学校で人気を博す。 また、一般社団法人日本福祉のまちづくり学会の理事を務め、東京オリンピック ・パラリンピックのアクセシブル・ルートのチェックにも尽力している。