武田双雲「我が家は両親を含めみんなADHD。とにかく“今を生きる”両親でした」

【WEBげんき連載】わたしが子どもだったころ #5武田双雲

ライター:木下 千寿

僕というキャラクターそのものをいつでも絶賛してくれる両親

ただ両親は僕が子どものころから、何かやったり、話したりするたび「すごかー!」「天才やね」と絶賛してくれました。べつにテストで100点をとったとか、大会で賞をもらったからといった「成果を出したから褒める」のではなく、僕というキャラクターそのものをいつでも絶賛してくれるんです。二人とも本気で、僕のことを「すごい!」と思っているから、「お前は何をやっても大丈夫!」としか言われない。

それは僕が47歳になった今も変わらなくて、本当に奇跡のような環境ですよね。二人が常にこういうスタンスだったから、僕は自己肯定感をもつことができたのかなと思っています。そんな両親に育てられた僕もやっぱり、自分の子どもに対しては「すげーな! 天才だな!!」しか言えません。自分が受けてきた教育しか子どもにできないし、僕もまた子どもたちのことを心から「すごい」と思っているからです。

改めて考えてみると、子育てをする僕の両親の頭の中には、“未来”という考えがなかったのだと思います。「ゆくゆくはこうなれたらいいね」とか「将来困るから、今、勉強頑張りなさい」というような先を見据えた話は、1秒もされたことがありません。二人が見ているのは、常に“今”だけ。こういう親の姿勢は理想ではあるけれど、現実にはなかなか実践できないと思います。

子どものことが大事だからこそ、親はいろいろ心配になるし、放っておけないでしょう。「このままだと、先生に怒られる」「将来、苦労する」といった心配ベースで、言葉を紡ぐ。でもそんなふうに言う親だって、ひとつの人生しか生きていないから、考え方は偏っているんです。僕らの狭い人生で遭遇した経験で、子どもにあれこれ言ってしまう。自分の人生だって、正解ばかりではないはずなのにね(笑)。これはネガティブな情報を優先してしまうという、人間の脳のシステムなんだと思います。

僕は家族が大好きで、同じ空間で一緒にいるのが幸せでしょうがない

書道教室(2020年に閉講)のお母さんたちから、よく「ウチの子、大丈夫でしょうか?」と聞かれていました。でもどんな条件をクリアすれば“大丈夫”なのかは、誰にも分かりません。たとえば東大に行き、年収1000万円を超えて、子どもが3人ぐらいできれば“大丈夫”かというと、そうでもないでしょう? 僕たちはずっと評価されて育ってきたから、無意識に周囲との比較、競争という恐怖を植え付けられています。

「ウチの子はできていない」「このコミュニティで下のほう」など……。また日々のニュースやSNSでは、“このままでは大丈夫じゃない情報”が永遠に入ってきます。本当に、心配になる事象ばかり! 実はこの社会は、“大丈夫”になったらおしまい、そういうシステムになっているのです。みんな「幸せになりたい」「満たされたい」と思っているけれど、「○○になれば(○○が手に入れば)、幸せになれる」という考えだと、そのループからは永遠に抜け出せません。

だから僕は逆に、「今、この瞬間を『幸せ』と心から思うしかない」と考えています。僕は家族が大好きで、同じ空間で一緒にいるのが幸せでしょうがない。だから子どもといる時間、家族といる時間を存分に味わいたい。その時間を少しでも増やしたいという想いで日々、暮らしています。子どもたちも家族が大好きすぎて、登校拒否になったことがあるぐらいでした(笑)。

それに、妻の存在もとても大きいと思います。妻は僕からすると天才! 子どもたちのモチベーションを上げるのが本当にうまく、子どもたちは僕が「勉強やめて!」というぐらい、勉強するんですよ。彼女は、子どもが自分で言いだしたことをやらなかったときはとても厳しいですが、基本的に子どもたちの自主性に任せています。子どもたちも、妻が大好き。彼女がしっかり子育てしてくれているから、僕は「すごいな!」と褒めているだけです(笑)。僕から子どもに対して、「こうなったらいいな」など期待することや望むこともありません。ただ自分に幸せをくれる存在として、生きてそこにいてくれることに感謝しています。

一日5秒、「かわいいな」「愛おしいな」と子どもを眺める時間を作る

今、僕は息子とよくテニスをしています。僕にテニスの経験があったので、最初のころ「もうちょっとこうしてみたら」などアドバイスをしていたら、僕の指導で場がネガティブな空気になってしまい、「もうパパとやりたくない」と息子の機嫌が悪くなってしまいました。「これは違うな」と気づいて、翌日からは期待せず、上達させようとも思わず、ただ一緒にテニスをする時間を楽しむことに集中したら、息子が「パパとテニスをするのが、一番幸せだ」って言ってくれるように!

親は、つい「子どもを育てる」上からのスタンスになってしまいがちですが、大人だってやろうとしていることに外からああだこうだと口出しされたら、きっとテンションが下がるはず。子どももまったく同じなんです。一緒にいる時間を楽しむだけで、子どもは勝手に伸びてくれるのを、僕は書道教室でも実感しています。友達や会社の人に接するように、子どもと一緒にいるときの空気が楽しいものになるよう、ちょっと意識してみるといいと思います。

仕事や家事で忙しくてお子さんと一緒にいる時間が短くなってしまい、それに罪悪感を抱く親御さんは少なくないと思います。でも僕からすると、せっかく一緒にいられる時間まで、その罪悪感をもって過ごすのはもったいない! それより、一緒にいられる時間をめいっぱい楽しんでほしいと思います。

人はいつの間にか、忙しさや心配に追われてイライラしてしまう。これはもともと脳に、思考が“現在”に向かない仕組みがあるから。でも、脳の仕組み自体を変えるのは難しい。ですから一日5秒、子どもが寝ていようがゲームをしていようが、「かわいいな」「愛おしいな」と眺める時間を作ってみてください。できれば、笑顔で。そうすると脳は「幸せなんだな」と勝手に判断して、“幸せホルモン”であるセロトニンやオキシトシンを分泌してくれますから。それが僕自身もやっていて“今の幸せを味わう”、いちばんシンプルな方法です。
武田双雲
1975年、熊本県生まれ。東京理科大学理工学部卒業。3歳より書道家である母、武田双葉に師事。大学卒業後はNTTに就職、約3年の勤務を経て書道家として独立する。映画『春の雪』、『北の零年』、NHK大河ドラマ『天地人』をはじめ、さまざまな作品や商品の題字、ロゴを手掛ける。国内外で個展を開催するほか、世界中から依頼を受け、パフォーマンス書道や書道ワークショップを行うなど、精力的に活動。著書はベストセラーの『ポジティブの教科書』(主婦の友社)など、60冊を超える。2男1女の父。
20 件
きのした ちず

木下 千寿

ライター

福岡県出身。大学卒業後、情報誌の編集アシスタントを経てフリーとなる。各種インタビューを中心に、ドラマや映画、舞台などのエンターテイメント、ライフスタイルをテーマに広く執筆。趣味は舞台鑑賞。

福岡県出身。大学卒業後、情報誌の編集アシスタントを経てフリーとなる。各種インタビューを中心に、ドラマや映画、舞台などのエンターテイメント、ライフスタイルをテーマに広く執筆。趣味は舞台鑑賞。

げんきへんしゅうぶ

げんき編集部

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「いないいないばあっ!」と、幼児向けの絵本を刊行している講談社げんき編集部のサイトです。1・2・3歳のお子さんがいるパパ・ママを中心に、おもしろくて役に立つ子育てや絵本の情報が満載! Instagram : genki_magazine Twitter : @kodanshagenki LINE : @genki

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「いないいないばあっ!」と、幼児向けの絵本を刊行している講談社げんき編集部のサイトです。1・2・3歳のお子さんがいるパパ・ママを中心に、おもしろくて役に立つ子育てや絵本の情報が満載! Instagram : genki_magazine Twitter : @kodanshagenki LINE : @genki