世界初公開のティラノも! 待ちに待った「恐竜博 2023」で恐竜研究の最前線に触れ、大興奮!

国立科学博物館で開催の「恐竜博 2023」一足先に研究員助手のひであきが行ってきました

待ちに待った「恐竜博2023」! 見どころ満載の展示の様子をレポート!

今回の「恐竜博 2023」は、「恐竜たちの攻・守」をテーマに、身を守るためにトゲやプレートを進化させた装盾類(そうじゅんるい)と、肉食恐竜たちを対比させた、恐竜たちの進化を読み解きます。カナダ・ロイヤルオンタリオ博物館(ROM)以外では初公開となる鎧竜史上最高の完全度と謳われるズール・クルリヴァスタトルの実物化石が展示され、さらにはティラノサウルス・レックス「タイソン」の実物化石が組み込まれた全身骨格を、世界で初公開! 

国立科学博物館では約3年半ぶりの「恐竜博」。開催前の内覧会に、MOVEラボ研究員の中学生メンバーが行ってきました。

MOVEラボ・中学生メンバーがみた「化石ハンター展」

MOVEラボ研究員・ひであき
今回、レポートしてくれたのはMOVEラボの中学生メンバーである助手のひであき(中3)。恐竜が大好きで小学生のころからMOVEラボの活動に参加。中学生になった今では、研究の幅をグッと広げて、恐竜や化石、石についての研究を深めています。

〈MOVEラボ研究員とは?〉
MOVEラボ研究員は、厳正な選考によって選ばれた、生きものや自然科学に興味のあるMOVE読者の代表です。研究員は、MOVEラボの活動に参加し、フィールドや博物館、動物園などをリアルに楽しみます。また、ラボの研究員は、自分たちの研究レポートをMOVEラボのサイト上で発表します。

メンバーは現在18名! 中学生以上は「助手」として活動しているよ!
https://lab.zukan-move.kodansha.co.jp/
今回は、国立科学博物館(以下、科博)で行われている『恐竜博2023』の内覧会に参加してきました。
幼いころから恐竜好きの中学生メンバー・ひであき。
まずは、科博の特別展で、今回のズール・クルリヴァスタトルや前回のカムイサウルスなど、植物食恐竜が注目されることになった経緯を科博の副館長で今回の特別展の監修の真鍋氏が説明してくれました。

初期の恐竜は基本的にすべて肉食で、食料の争奪戦が激しかったと言われています。この争奪戦から逃れるため、量が多く競争のない植物を食料にできる恐竜が現れました。ですが、これまではこの移行の過程がよく分かっていませんでした。しかし、だんだんと植物食恐竜の起源が解明されるような化石が発見されてきて、植物食恐竜の研究が活性化したそうです。
特別展監修の真鍋副館長と。質問にもとても丁寧に答えてくれました。
次に、この特別展のキーワードである「攻、守」の「守」についてです。

まずは今回の目玉展示であるズール・クルリヴァスタトル(Zuul crurivastator)です。この標本は装盾類としては世界で初めて、頭から尻尾のこん棒までの全身がほとんどそろった状態で産出されたものです。

他の鎧竜が発掘されたときは、ズールを手本に復元して研究するそうです。本当に貴重なものなので、この標本を所蔵するカナダのトロントにある、ロイヤルオンタリオ博物館から来日しているピアチェンテ副館長は、最初は心配から貸し出しをためらったと教えてくれました。しかし、たくさんの人々に見てもらうことが重要であると判断して、展示のための貸し出しを決めてくれたそうです。
ズール(左)とゴルゴサウルスの対峙シーン。
©Royal Ontario Museum photographed by Paul Eekhoff
この標本は皮膚も化石化していて、ついさっきまで生きていたかのような保存状態で見飽きることがありません。

この標本で一番注目してもらいたいのは装甲の一部が破損していることです。折れ口の骨が再生しかかっているのですが、折れているのは脇腹の部分のみです。このことから、同種間での争いで負った怪我だと考えられているそう。展示パネルの模式図では赤く示されている箇所で破損が見られるため、すぐ見つかると思います。

科博研究員のベンジャミン氏によると、骨組織からなる大きい装甲は大型肉食恐竜の攻撃から身を守るためやディスプレイとして、皮膚などの軟組織からなる小さめの装甲は昆虫などの小型生物から身を守るために発達したと考えられているそうです。現在だとワニなどが似たような構造を持っているそうです。
ズール・クルリヴァスタトルの胴体部分(実物化石)。© Royal Ontario Museum
photographed by Paul Eekhoff
ベンジャミン研究員とズールの全身標本の前で。
また、尻尾の「ハンマーの持ち手」の部分の細長いものの束のようなものは、実は腱だそうです。これは他のアンキロサウルス科にも見られる特徴で、断面が骨組織ではなく軟組織で、周りだけが化石化していることから判明。

ちなみに、アンキロサウルス科以外の鳥盤目にも腱があり、これらの種類の尻尾では腱は交差するようにして存在し、尾骨の脱臼などを防ぐ役割があったとされています。竜盤目では関節のつながりを頑丈にすることで怪我を防いでいたとされています。
ズールの全身標本はいろいろな角度から見られる。
ズールの種小名の由来は、この化石が発見されたアメリカ、モンタナ州の同年代の地層から発見されたゴルゴサウルスの一部の個体の脛に骨折のあとが見られたため、ズールが容疑者として挙げられ、「脛を破壊するもの」という意味のクルリヴァスタトルという種小名が付いたそう。

ちなみにズールという属名は映画『ゴーストバスターズ』に登場する「門の神 ズール」と顔がよく似ていたためにここから取られたそう。本当に似ているので、是非2者を見比べて、命名した研究者と同じ気持ちを味わってみるとおもしろいかもしれません。

皮膚のゴツゴツ感や装甲の生え方などを見られることはほとんどないため、是非じっくり観察してみてください。
ズールの実物の頭骨。360度どこからでも見られるように頭骨のみでの展示にしたそう。

ティラノサウルス「タイソン」は世界初公開!

次はテーマの「攻」についてです。今回の目玉展示は2つ。1つ目は、ティラノサウルスの「タイソン」と「スコッティ」の2個体同時展示です。2つの全身骨格が並んで展示されている姿には圧倒されます。

それぞれに見どころがあり、「タイソン」は最近発見されたばかりの個体で、なんと世界初公開です。
ティラノサウルス「タイソン」の全身骨格。©Tyson T.rex, 2023
ティラノサウルスの中でも発見例が少ない部位の実物化石を使って組み立てられた全身骨格なのですが、中でも右上腕骨の内側に、若い個体に嚙まれたとみられる嚙み跡があります。見えづらい位置にあるため、スマートフォンのカメラの拡大機能なども使って探してみるとよいかもしれません。
ティラノサウルス「スコッティ」の全身復元骨格(むかわ町穂別博物館所蔵)。©Courtesy of The Royal Saskatchewan Museum
そして、「スコッティ」は現在発見されたティラノサウルスの中で一番大きい個体で、全長13m、推定体重8.9tです。2005年に一度来日したことはあるものの、当時はまだプレパレーションが終わっていなかったため、頭骨のみの来日でした。また、ティラノサウルス科の進化として、後頭部が大きくなることで嚙む力が増していったという研究もあります。
南半球の獣脚類たちも見どころのひとつ!

2つ目の見どころは、カルノタウルス、フクイラプトル、メガラプトル、マイプの展示。

科博研究主幹の對比地氏によると、カルノタウルスの頭が寸詰まりな訳はよく分かっておらず、口は短く高いため、力学上は固いものを嚙み砕きやすいという研究もあれば、関節の接続が緩く、固いものは嚙み砕けないという研究もあります。また、メガラプトル科は大きなかぎ爪があることが特徴で、南半球の生態系の頂点にいました。このメガラプトル科の新種であるマイプ(Maip macrothorex)がアルゼンチンで見つかりました。メガラプトル科最大で、推定全長は、なんと10mもあります。

コロナの影響で発掘調査が中断してしまっているので、真鍋副館長は今回の展示ではあえて全身骨格にせず、他の部分も発見してから全身を復元したいという野望をもっているそうです。今後の発掘に期待がかかります。
マイプ・マクロソラックス発掘現場(2020年)photographed by Matias Motta, 2020
マイプを科博と共同調査しているアルゼンチン国立自然科学博物館の技術者イサシ氏と。
これらの恐竜たちが生きていた中生代最後の1000万年は気温が急激に下がり、恐竜の多様性がガクンと落ちていたことが分かっています。このため、隕石衝突はあくまでとどめでしかなく、もっと大きな変化があったはずだということで真鍋副館長たちの調査チームはその年代に標準を合わせて発掘調査を続けているそうです。

最後の展示に、ドードーの交連骨格と、実物の左大腿骨が展示されています。ドードーは、インド洋のモーリシャス島に生息していたハト科の飛べない鳥で、人類が絶滅させてしまった生物の代表としてよく出てきます。この標本は「人間以外の生物たちがどんどん絶滅しちゃうけど、それでいいの?」という問いかけをしているそうです。

今回の特別展を見て、化石をうまく並べるだけで物語ができてしまうところに、改めて科博の凄さと化石の深さを実感しました。是非、恐竜研究の最前線を見に行ってみてください。

取材・文・写真提供(一部のぞく)/MOVEラボ研究員・松岡秀明
特別展「恐竜博 2023」
開催期間:2023年3月14日(火)〜6月18日(日)
※ 会期等は変更になる場合がございます。
※ 要日時指定予約。
会場:国立科学博物館(東京・上野)
https://dino2023.exhibit.jp/