NASAの地球防衛策が55年前の『ウルトラセブン』と被る!? 『ウルトラマンと学ぶ 宇宙と生命体』

NASAがついに立ち上がった! 惑星が地球に衝突? 著者の高水裕一先生が特別寄稿

高水 裕一

「ウルトラマン」シリーズの数々のエピソードをもとに宇宙の仕組みやナゾに迫る科学図書『ウルトラマンと学ぶ 宇宙と生命体』が「全国学校図書館協議会選定図書」に決定! 君が通う学校でも読めるかも! 今回は著者の高水裕一先生が、NASAの地球防衛実験について特別寄稿。

ミッションDART

ニュースとして皆さんもきいたことがあるかもしれませんが、NASAが「DART」(ダート)という革新的な宇宙実験を行いました。

宇宙からの脅威ということで、地球に飛んでくる小惑星をどうやって回避するかという、未来に必要な実験の第一歩でした。

実験では、地球のまわりをまわる二重小惑星というものに、宇宙探査機を直接衝突させて、小惑星の軌道を変えるという試みでした。

地球近傍には、今も大きさ150メートル以上の小天体が、およそ2万個以上もあるといわれています。それが、いつ軌道が変わって地球に向かって衝突する軌道をとるかわかりません。

恐竜絶滅も、このような小天体のひとつである巨大な隕石が落下したためといわれており、地球の生命にとっては、これを回避することは死活問題なのです。

NASAの地球防衛策

──衝突回避のための軌道変更。

その言葉を聞いて、ウルトラマンシリーズのファンなら思わず思い浮かべてしまうのは、この宇宙人なのではないでしょうか?
▲ペガッサ星人 『ウルトラセブン』第6話「ダーク・ゾーン」
『ウルトラセブン』の第6話では、ペガッサ星人の工作員が地球に潜伏。宇宙都市ペガッサと地球の衝突回避のため、地球の軌道の変更を要請したのでした。

しかし、地球人の科学力ではそれができないと知り、地球の爆破を計画したのでした。

その放送から55年。ようやくNASAが衝突回避の試みを始めたわけなのですね。

その、NASAの実験方法を、もうすこし詳しく説明します。

DARTとは、Double Asteroid Redirection Testの略で、宇宙機を衝突させて小惑星の軌道変更を実験するミッションです。

実験のターゲットとなる惑星は、二重小惑星の衛星ディモルフォス。

この二重小惑星というのは、まるで双子のようにお互いのまわりを回り合っている、小さいサイズの小天体です。ディディモスという天体で、これはギリシャ語で「双子」を意味しています。

なぜターゲットとしてこのような双子の小天体を選んだかというと、片方にカメラをとりつけて、衝突前後の様子を撮影し、観測しやすいものを選んだためです。実際、大きいほうである、ディディモス(直径800メートル)にカメラを設置し、そこからおよそ1キロメートル離れたところを周回している、ディモルフォス(直径150〜170メートル)に探査機を衝突させました。

実験のロジック

この実験の背景には、『ウルトラマンと学ぶ 宇宙と生命体』のメフィラス星人の章でも登場した、ある法則が関係しています。

宇宙には「運動量保存の法則」が存在していて、衝突の前と後では、運動量は必ず一定になるのです。

運動量とは、「質量×速度」のことです。

たとえば、宇宙で止まっている人がどちらかに移動しようとした場合、この法則によって、進みたい方向と逆方向に、重いものを投げると、自分の身体が反対に飛ばされるという運動をします。

下の写真をご覧ください。
▲バロッサ星人 『ウルトラマントリガー』第7話「インター・ユニバース」
宇宙空間でバロッサ星人が後方に向けて投げている物体は、ブルトンです。

後方から追ってくるウルトラマンゼットと宇宙セブンガーに向けて、思わず投げてしまいました。

この場合でも宇宙の法則によると、ブルトンの重さ×速さの分だけ、バロッサ星人は前に進んでいくことになります。ブルトンが重ければ、かなりのスピードが出そうです。

それでゼットたちを振り切れたのかどうかは、放送を見てのお楽しみですね。

さて、DARTでは

話をNASAの実験に戻しましょう。

衝突のときは、ビリヤードを想像するとわかりやすいです。ぶつかったあとの2つの球の移動方向は、もともと衝突前にすすんできた球の重さと速度で決まります。
▲ミッションDARTのイメージ図。ビリヤードでキューを使って白い球を打ち込み当てると、黒い球が飛ばされて軌道が変化する
この法則を正確に計算し、プロジェクトでは衝突によって、無事に計算どおりの軌道変更に成功したようです。将来もし、このような天体が地球に向かってきても、探査機をぶつける準備さえきちんとできていれば、うまく回避できる可能性がでてきたのです。

対話と共生のヒーロー ウルトラセブン

今回のNASAの地球防衛実験は、惑星にロケットを打ち込みました。

そのやり方が、『ウルトラセブン』のとある話を思いださせてくれるのです。

その話は、第26話「超兵器R1号」です。ギエロン星獣の回ですね。NASAの実験の主旨とは異なりますが、ウルトラ警備隊が地球防衛の意図をもって、ターゲットの惑星に超兵器を打ち込みました。

ここでは詳細は省きますが、この回は「科学のあり方」を真摯に問いかけるお話でした。科学兵器の開発競争を良しとせず、「血を吐きながら続ける悲しいマラソンだ」と語ったモロボシ・ダンの姿が印象的でした。
▲ギエロン星獣と戦わざるを得なかったウルトラセブン
▲「悲しいマラソン」の心象風景。第26話「超兵器R1号」のエンディングシーンより
NASAの実験を振り返りましょう。

宇宙からの衝突物のように、今後はこのような地球のなかだけではすまされない問題が加速的に増えてくることは想像できます。

そんな未来のリスクをできるだけ多く想像し、地球人一丸となってそんな脅威に備えておくことが大事です。地球人同士の国で戦争をしている場合ではありませんね。

皆さんもぜひ、宇宙にもっと興味をもって、日々のニュースに興味をもってきいてみてくださいね。ウルトラヒーロー頼みで守ってもらうだけではなく、自分たちの惑星を自分たちの力で守っていきたいですね。
▲『ウルトラマンと学ぶ 宇宙と生命体』 定価1430円(税込み)
たかみず ゆういち

高水 裕一

Yuichi Takamizu
宇宙論専攻の物理学者

1980年東京生まれ。早稲田大学理工学部物理学科卒業。東京大学大学院、京都大学大学院を経て、英国ケンブリッジ大学理論宇宙センターに所属し、スティーブン・ホーキング博士に師事。現在は、筑波大学計算科学研究センター研究員。専門は宇宙論。 著書に『宇宙人と出会う前に読む本』(講談社)、『宇宙の秘密を解き明かす24のスゴい数式』(幻冬舎)などがある。

1980年東京生まれ。早稲田大学理工学部物理学科卒業。東京大学大学院、京都大学大学院を経て、英国ケンブリッジ大学理論宇宙センターに所属し、スティーブン・ホーキング博士に師事。現在は、筑波大学計算科学研究センター研究員。専門は宇宙論。 著書に『宇宙人と出会う前に読む本』(講談社)、『宇宙の秘密を解き明かす24のスゴい数式』(幻冬舎)などがある。

テレビマガジン編集部

日本初の児童向けテレビ情報誌。1971年11月創刊で、仮面ライダーとともに誕生しました。 SNS:テレビマガジンX(旧Twitter) @tele_maga  SNS:テレビマガジンLINE@ @tvmg  記事情報と付録の詳細は、YouTubeの『ボンボンアカデミー』で配信中。講談社発行の幼年・児童・少年・少女向け雑誌の中では、『なかよし』『たのしい幼稚園』『週刊少年マガジン』『別冊フレンド』に次いで歴史が長い雑誌です。

日本初の児童向けテレビ情報誌。1971年11月創刊で、仮面ライダーとともに誕生しました。 SNS:テレビマガジンX(旧Twitter) @tele_maga  SNS:テレビマガジンLINE@ @tvmg  記事情報と付録の詳細は、YouTubeの『ボンボンアカデミー』で配信中。講談社発行の幼年・児童・少年・少女向け雑誌の中では、『なかよし』『たのしい幼稚園』『週刊少年マガジン』『別冊フレンド』に次いで歴史が長い雑誌です。