ゴスペラーズ北山が教える面接で「失敗」しない方法 慶應大教授と意気投合する「スゴい」体のしくみ

ゴスペラーズ 北山陽一×慶應大教授 川原繁人 『絵本 うたうからだのふしぎ』刊行記念スペシャル対談

ライター:山口 真央

音声学の教授である川原繁人先生(左)と、ゴスペラーズ北山陽一さん(右)のふたりが意気投合したきっかけとは?(写真左/柏原力 ・ 写真右/GRACIAS)
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ゴスペラーズの北山陽一(きたやまよういち)さんは、男性5人のヴォーカルグループ・ゴスペラーズで、低音のハモりを中心に30年担当。2024年はグループの活動だけでなく、ソロでのデビューシングル「ReMEMBER」を発表し、活動の幅を広げています。

そんな北山さんが、慶應義塾大学の言語文化研究所の教授である川原繁人(かわはらしげと)先生と一緒に『絵本 うたうからだのふしぎ』を刊行しました。川原先生は「音声学的プリキュア論」や「ポケモン言語学」など、身近にある言葉をユニークな視点で論じています。

北山さんと川原さんの意外な出会いから、ふたりが絵本に込めた熱い想い、さらには受験シーズンに向けて、声を出すシーンで緊張しない方法を教えていただきました。歌うこと、話すことが好きな人だけでなく、自分の声に自信が持てない人も、必読のインタビューです!

チャットにゴスペラーズ見参! 声の話で意気投合したふたり

──『絵本 うたうからだのふしぎ』は、ゴスペラーズの北山さんと、音声学者である川原さんの共著ですが、おふたりが互いを知り合ったきっかけを教えてください。

川原:北山さんと出会ったのは、2021年のことです。オンライン授業で声優さんの声を分析することになり、学生にどんな声優さんに来てほしいか訪ねたところ、「北山くん」という名の学生から「山寺宏一さんに声をかけてみましょうか」というチャットが入りました。山寺さんといえば、日本を代表するレジェンド声優さんです。

最初は「冗談で言ってる? 山寺さんの甥っ子なのか?」と半信半疑だったので、適当に「お願い~」とだけ返しておきました。すると、「ミーティングがあるので聞いてみます」というメッセージが返ってきました。対応があまりに慣れすぎていたので「君は何者なの?」と尋ねると、「ゴスペラーズの北山陽一です」と(笑)。あのときは本当に驚きました。

北山:僕は2021年から、慶應義塾大学の大学院生として学んでいます。オンラインで受けていた川原先生の授業が面白すぎて、学期が終わったら名乗りでるつもりではいました。そこに声優さんの話が出てきたので、「せっかくなら山寺さんを誘いたい!」と思ったんです。

川原:本当に山寺宏一さんが授業に来てくださって、学生たちは大盛り上がりでした。『アンパンマン』の「めいけんチーズ」や『ルパン三世』の「銭形警部」の声を音声学的に分析し、発表。山寺さんも「僕が一番楽しんでいたかもしれません」と喜んでくださいました。

北山:僕はその人のことが気になったら、社交辞令は一切せず、がっつり距離をつめていくタイプです。できないだけなんですけどね。川原先生とは、自分が歌っていて疑問に思うことや、声に対する考えを話したいと思っていた。この山ちゃん事件をきっかけに、たびたびお話しする機会をもらいました。

川原:北山さんと知り合ってまだ2年ちょっとですが、そうとは思えないぐらい、一緒に濃い時間を過ごしていますよね。北山さんはご自身の歌や声について、とことん突き詰めて、理論的に分析するのが好きなタイプ。僕はその思いを受けとめて、咀嚼し「学術的にはこういう結果が出ています」とお伝えしています。

北山:川原先生が、声帯の仕組みなどを話すとき、夢中になるところが、勝手に僕と似ていると思っています。ただ僕は知識をもらってばかりで、何もお返しできてないのではと、ときどき不安になりますが。

川原:いえ、僕も北山さんが音声学に興味を持ってくれて、とっても嬉しいんですよ! 研究結果を音声学のコミュニティだけに留めておくより、現場の方が実践してくれると学問の価値がすごく高まると思っています。

言語学者の川原繁人先生。ゴスペラーズの北山陽一さんのことを「芸能人とは思えないくらいに壁をつくらない人」だと話します。(写真/GRACISA)

空気が主人公! 声を出すのは「スゴい」ことだと絵本で伝えたい

──先生と生徒という関係から、縁が深まっていったのですね。このたび、共著で『絵本 うたうからだのふしぎ』を出版されましたが、どのような想いから生まれましたか。

川原:声を出すとき、体内ではものすごいしくみが働いていると、多くの方に伝えたいと考えました。たとえば、体内に取り込まれた空気が声に変わるためには、肺や声帯を動かしている筋肉を繊細に働かせる必要があります。

また声帯がふるえる回数で声の高さを変えたり、口腔や鼻腔で空気を巧みに操って「あ」や「い」や「ま」などの音を出しています。声を出せること自体が「奇跡」なんです。

北山:僕は歌手の立場から、自分の歌声に自信がない人が多いと感じていました。子どものうちは、歌うことが遊びの一つだったはずなのに、思春期くらいから音程やテンポを気にして歌えなくなってしまう。じつは僕もそうでした。でも歌うまでに起こる体内の素晴らしい働きを知ったら、声を出すこと、歌うことに肯定感を持てると考えたんです。

川原:そんなふたりの想いからできたのが『絵本 うたうからだのふしぎ』です。主人公の「空気」たちが、肺、声帯、口の中でさまざまなアトラクションを乗り越えて、歌声になるまでの物語です。イラストは、漫画家の牧村久実さんが描いてくれました。牧村さんが描いてくれた「空気」たちを見たときは、かわいすぎて一目惚れしちゃいましたよ。

北山:擬人化された「横隔膜」や「声帯筋」なども、それぞれの働きに合ったキャラクターになっていて、感動しましたよね。牧村さんが素晴らしいイラストを仕上げてくださる一方で、じつは僕だけが冷や汗をかいていました(笑)。

川原:書き下ろしの歌ですよね! 北山さんはずっと悩んでいる様子でしたが、完成した作品を聞いて圧倒されました。曲調がどんどん変わって、ミュージカルのような壮大な仕上がりなんです。

北山:歌詞もメロディーも、登場人物の気持ちを想像して書き下ろしました。もちろん、僕も歌っています! 絵本に載っているコードから聞くことができますので、ぜひ絵本と一緒に楽しんでくれたら嬉しいです。

『絵本 うたうからだのふしぎ』に登場する「空気」「横隔膜」。漫画家の牧村久実さんの手によって、かわいいキャラクターになりました。(『絵本 うたうからだのふしぎ』絵/牧村久実)
「声帯筋」も華麗に活躍します。(『絵本 うたうからだのふしぎ』絵/牧村久実)
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