「ワークやデジタル教材について、どう考えたらいいでしょうか?」子育て相談 モンテッソーリで考えよう!
第26回
2021.06.28
モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長:田中 昌子
抽象的な思考
単なる事象を感覚的に捉えていた幼児期とは異なり、児童期の子どもたちは、3「抽象的な思考」ができるようになります。なぜそういった事象が起きたのか、因果関係を突き止めたいという強い要求を持つようになるのです。
幼児期の後半から、「なぜ?」「どうして?」という質問が増え始めますが、児童期に発する疑問は、幼児期よりも一歩進んでいます。たんに答えを知りたいのではなく、自分自身でそれを検証したいのです。ですから、調べ学習や実験などに意欲的に取り組みますし、そうした学習方法が児童期の子どもたちには合っています。モンテッソーリ小学校では、子どもたちが興味を持ち、調べたいということについては、話し合いを重ね、可能な限りの方法を提供しています。
この時期に大人がよくする間違った対応は、子どもの興味や興奮を押しつぶしてしまうような長い説明をすることや、知識そのものを与えてしまうことです。
注目すべきは、抽象化といっても、いきなり文字や数字だけの世界に入るわけではなく、具体から出発するということです。
モンテッソーリは「第2段階」の子どもにとっても、教具は必需品であると述べています。教師の授業を受け身で聞くのではなく、教具の助けを借りて作業をすることで、抽象的に暗記するものと教えられ公式を、自分の手を使って導くことができるのです。
たとえば幼児期に並べたり、積んだり、合わせたりしていた感覚教具を使って、そこに含まれている数値を発見したり、代数をすることもできます。
グループ形成と道徳
そして児童期の子どもたちの特徴として、注目すべきは仲間意識です。幼児期は個を確立する時期でしたが、児童期には、群本能というものが子どもたちの中に芽生えるため、4「グループを形成」したがるようになります。
これが、社会の最初の形です。社会の一員としてどのようにふるまうのがよいのか、リーダーを選んだり、ルールに従ったり、協力し合ったりすることを通して、社会的なスキルを学んでいきます。
一般的な小学校でも班活動やクラスでの活動がありますが、モンテッソーリ小学校は、3学年の縦割りクラスであり、同年齢のグループだけでなく、異年齢のグループもできます。グループワークですから、コミュニケーション能力、意見を述べたり、折り合いをつけたり、といったことがとても重要になります。
多くの小学校では、授業中は静かに先生のお話を聞くのが一般的ですが、モンテッソーリ小学校はとてもにぎやかで活発ですから、見学されると静かで黙々と個人活動をする子どもの家との違いに戸惑われるかもしれません。
そして友達との関係性において、子どもは自分の行動が良かったのか、悪かったのか、ということにとても敏感になります。これが5「道徳的な善悪の判断についての敏感性」です。
モンテッソーリは、「第2段階」というのは、道徳教育のため、特別に重要な時期であると述べています。モンテッソーリ小学校では、時間割もありませんから、教科として道徳を教えるわけではありません。さまざまな場面で善悪の判断とその理由づけをしながら、倫理観を構築していきます。
ワークやタブレットでは、高い知的欲求に応えられない
以上をもとに、ご質問に戻って考えてみます。
これまで具体的な体験を大切にしてこられたお子さんは、ワークやタブレットといったものに触れたことがなかったのでしょう。文字の読み書きや簡単な計算、あるいは表示された問いに答えるといったことは、幼児期にモンテッソーリ教育を受けたお子さんであれば、楽々できますから、最初は興味を持って取り組むことはよくあります。
ただ、そうした教材の中には、モンテッソーリが発見した児童期の子どもの高い知的要求に応えるようなものはほとんどありません。
一時的に使ってみても構いませんが、大人の予想をはるかに超える知性や探求心を持っていて、自発的に学ぼうとしている子どもに制限を加えてしまうと、欲求不満となり、意欲や積極性が損なわれることがあります。
また、早く正しい答えを出すという効率的なことばかりを求める教材では、感動や幅広い体験を得ることはできません。児童期に大切なのは、自ら学ぶ姿勢や、知的好奇心を生涯にわたって継続させるように導くことです。
それならば、いっそのこと膨大な情報が得られるパソコンならばよいのではないかと思われるかもしれません。でも、パソコンの情報というのは大人でも取捨選択が難しいほどに玉石混淆の情報が入り混じっており、児童期の子どもには膨大過ぎます。
依存性がある
そして何よりも注意しなければならないのは、タブレットやパソコン、またスマートフォンといったものには、依存性があるということです。短時間の視聴ならば構わないのではという意見もあるようですが、大人でもつい長時間触れてしまい、途中でやめることが難しいものです。
アップル創業者のスティーブ・ジョブズは、デバイス中毒の危険性を熟知しており、自分の子どもたちには一切触らせなかったという話は有名です。画面を見るよりも、家族や友人との対面での会話の時間を大切にしていたそうです。
モンテッソーリ小学校にもパソコンはありますが、低学年クラスには置かず、時間的な制限も設けています。10歳というのがひとつの目安になっているようです。
文部科学省が2020年からの導入に向けて発表した「小学校プログラミング教育の手引」(2018年11月第2版)に挙げられている事例が主に3年生以上のものであることからも、特に低学年のうちは一定の配慮が必要であることがわかります。
もちろん、今後の社会でIT機器の活用は加速化していくことでしょう。そのために子どもが小さいうちから慣らすことが良いという意見もあります。
でも、それは生まれたての赤ちゃんに、無理やり寝返りさせるようなものではないでしょうか。なにごとも早ければ早いほど良いわけではなく、もっとも適した時期があります。
IT機器の扱いは中学生や高校生になってからでも十分できますが、児童期には児童期にしか育めないものがあります。引き続き手と五感を使いながら、友人との関わり、社会的なスキルなど、その後の思春期や青年期へとつながる大切な力を育てるのが児童期だとモンテッソーリ教育では考えています。
ワークやデジタル教材については、さまざまな意見もありますので、ひとつの参考として、ご判断ください。
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田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。