
【子どものワクチン接種】「ワクチンを打つより病気になったほうが免疫はつく」は危険な誤情報 ワクチンの正しい知識〔小児科医が解説〕
#12 令和の「子どもホームケア」~子どものワクチン接種~
2025.09.04
小児科専門医:森戸 やすみ
もともと体に備わった免疫のしくみを利用して、感染症から守ってくれるワクチン。ワクチン接種は世界中の国々で推進されていますが、一部のSNSでは「ワクチンは危険」「ワクチンを打つより病気にかかったほうが免疫はつく」などと、不安をあおるような投稿が散見されます。
「このような誤情報を信じて不安になってしまうのは、よく知らないから」と、森戸やすみ先生。『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』(共著:宮原篤/内外出版社)の著者でもある森戸先生に、ワクチンの目的や効果、安全性について伺いました。
ワクチンの目的は重症化・後遺症を防ぎ命を守る
以前、外来で「子どもの友だちがおたふく風邪にかかったので、うつしてもらいに行きました。ワクチンを打つより“かかったほうが勝ち”って言いますよね」と保護者の方に言われ、驚いたことがあります。
ごく一部の保護者の間では、周囲の子どもが感染症にかかったとき、自然感染させるために子どもたちを集めて遊ばせる「感染パーティー」が行われているのだそうです。ワクチンに対して漠然とした不安があり、代わりに自然感染させて免疫をつけようということなのでしょう。
人工物であるワクチンを子どもに接種させたくない、医療行為を受けさせたくないという“自然派”の人は、そもそも小児科に来ないのであまり出会いませんが、医師に相談することなく自己流の予防法・治療法を行っている人は一部いると思います。
でも、免疫をつけるために子どもにわざと感染させるような行為は、危険なので絶対にやめていただきたいです。感染すれば重い症状に苦しんだり、合併症を起こして後遺症が残ったりする危険性があります。また、一度かかっても、二度三度と感染する病気もあります。ワクチンの副反応が心配な方もいるのでしょう。けれど、感染のリスクと感染後の症状は、ワクチンを接種したときより桁違いに大きいのです。
ワクチンの目的は、重症化させないこと、後遺症を残さないこと、命を落とさないこと。免疫をつけるのは手段であって、目的ではありません。お子さんに必要のない苦しみを与えないでほしいと思います。
自然感染は合併症を引き起こしやすい
そもそもワクチンとは、感染症の原因となる病原体を弱毒化・無毒化して、体にとって安全な状態にしたものです。実際に感染症にかかる前に、ワクチンを接種して体に抗体を作り、免疫を獲得します。
試験勉強に例えると、わかりやすいと思います。ワクチンは「感染症になると、こういう症状が出る」「こういうことが起きる」と、体に“予習”をさせてくれるもの。予習なしで運良く試験を乗り切れることもありますが、予習をしていたほうがいい結果になることが多いですよね。
現在(2025年8月現在)、日本の子どもが受ける予防接種は、5種混合(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ、ヒブ)、MR(麻疹、風疹)など10種類の「定期接種」のほか、おたふく風邪やインフルエンザなど「任意接種」のワクチンがあります。
定期接種のワクチンは公費で受けられて原則無料、任意接種は自己負担(自治体によっては助成あり)ですが、任意接種とは受けても受けなくても、どちらでもいいという意味ではありません。
やはり感染症にかかるよりワクチンを接種したほうがいいので、推奨期間内に忘れずに接種しましょう。ワクチンのある感染症は重症化しやすく、特別な治療法がない病気がほとんどです。
昨年(2024年)から日本では百日咳が大流行し、麻疹(はしか)の患者も世界的に増えて問題になっています。ワクチンを接種していれば、かからないか、かかっても軽症ですみます。