
【子どものワクチン接種】「ワクチンを打つより病気になったほうが免疫はつく」は危険な誤情報 ワクチンの正しい知識〔小児科医が解説〕
#12 令和の「子どもホームケア」~子どものワクチン接種~
2025.09.04
小児科専門医:森戸 やすみ
接種期間を過ぎたら小児科や保健所に相談を
SNSにワクチンに関する不安や疑問の声がありましたので、お答えしたいと思います。
▼人工物を子どもの体に入れたくない
何を人工物として、何を自然と思うのかは、とても恣意的(しいてき)で人によって違います。例えば農作物は、品種改良を繰り返して現在の形になりました。
稲だって、もともとは日本に自生していなかった外来種です。現代の私たちが着ている洋服も、自然とはほど遠いものです。自然を克服して育てた農作物を食べ、洋服を着ているのに、ワクチンはダメというのは違和感があるような気がします。
今年流行している百日咳は、日本にワクチンがなかった1940年代、年間10万人以上の人が感染し、そのうち約10%の人が亡くなっていました。
今はワクチンで防げる感染症なのに、ワクチン未接種の子どもが病気でつらい目に遭ったり亡くなったりするのは、自然なことだから仕方がないことでしょうか?
そうは思わないはずです。私たちはこれまで、知識と技術によってさまざまな困難を乗り越えてきました。すべて自然のまま生きるのは不可能ですし、こんなに長生きはできないと思います。
▼日本で流行っていない病気は打つ必要がないのでは?
人の行き来がある以上、海外から日本に感染症が持ち込まれる可能性は常にあります。ワクチン接種を中止すれば、海外からウイルスや細菌が入ってきたとき、あっという間に広がります。
麻疹(はしか)が世界的に流行していますが、感染力が強く、空気感染もします。十分に抗体を持っている人の数が多くないと、どんどん広まってしまう病気なのです。
社会の中で生きていると、思わぬところからウイルスや細菌がもたらされます。人のいない土地でひとり孤立して一生を過ごすなら、ワクチンは必要ないのかもしれませんが、それでも破傷風菌は土壌にいますし、日本脳炎のように蚊などの虫が媒介する病気もあります。
毎年冬になれば、渡り鳥がインフルエンザウイルスを運んできます。ワクチンがある感染症はワクチンで防ぐのがよいと思います。
▼新型コロナウイルスワクチンは、開発期間が短くて心配です
新型コロナウイルスワクチンは新しいワクチンですが、通常の手順を省いて開始されたわけではありません。手続きを早めただけなので、どうか安心していただきたいです。
ワクチンが開発されると、まずは動物で抗体ができるかなど基礎的な試験、非臨床的な試験が行われます。その後、人で安全性と効果、副反応、本当に病気を予防できるのか、第1相試験から第3相試験まで順を追って進められ、初めて承認されます。新型コロナウイルスワクチンも同じです。そして現在、世界中で子どもにも接種され、市販後調査も行われています。このワクチンだけを問題視する必要はないでしょう。
コロナ感染後、倦怠感や集中力の低下、ブレインフォグ(頭に霧がかかったような状態)など、後遺症に苦しんでいるお子さんの例が多数報告されています。また、受験や大事な行事をコロナ感染で逃してしまうこともあります。ワクチンを接種していれば感染しても症状を抑えることもできますし、お子さんのことを考えれば、受けさせたいと思うのではないでしょうか。
▼ワクチンの接種期間を過ぎてしまった場合、どうすればいい?
子どもに接種させることを躊躇(ちゅうちょ)していたけれど、「やっぱり受けさせたい」と思い直す保護者の方がいます。心配で受けさせなかった人、忙しくて受けそびれてしまった人を非難する医療従事者はいないと思います。
母子手帳など記録がわかるものを持って、ぜひお近くの小児科に相談してください。お住まいの自治体の保健所でもいいと思います。ワクチンによっては助成期間を延長していることもありますし、自費であれば、後からでも受けられるワクチンもあります。どの順番でどのワクチンを受ければいいか、スケジュールを組んでもらってくださいね。
〔小児科医:森戸やすみ〕
【子どものホームケアの正しい情報 その12】
感染症にかかると、免疫がついたとしても、重症化したり後遺症が残るリスクがある。ワクチンを接種したほうが、安全に感染症から子どもの身を守れる。
取材・文/星野早百合
●森戸 やすみ(もりと・やすみ)PROFILE
小児科専門医。一般小児科、新生児集中治療室(NICU)などを経験し、現在は都内のクリニックに勤務。医療と育児をつなぐ著書多数

星野 早百合
編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名人のインタビュー原稿を中心に執筆。 保育園児の娘、夫、シニアの黒パグと暮らす。
編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名人のインタビュー原稿を中心に執筆。 保育園児の娘、夫、シニアの黒パグと暮らす。
森戸 やすみ
小児科専門医。1971年、東京都出身。一般小児科、新生児集中治療室(NICU)などを経験し、現在は都内のクリニックに勤務。『子育てはだいたいで大丈夫』、共著に『やさしい予防接種BOOK』(共に内外出版)など、医療と育児をつなぐ著書多数。『祖父母手帳』(日本文芸社)の監修も手がける。子どもの心身の健康や、支える家族の問題について幅広く伝える活動を行っている。
小児科専門医。1971年、東京都出身。一般小児科、新生児集中治療室(NICU)などを経験し、現在は都内のクリニックに勤務。『子育てはだいたいで大丈夫』、共著に『やさしい予防接種BOOK』(共に内外出版)など、医療と育児をつなぐ著書多数。『祖父母手帳』(日本文芸社)の監修も手がける。子どもの心身の健康や、支える家族の問題について幅広く伝える活動を行っている。