2021年7月25日、日曜日の朝6時半。私は小学3年生の息子が所属する野球チームの練習のお手伝いに行くため、息子を急かしながら出かける準備をしていた。
7時になった。夜遅くまで仕事をしていた夫は、まだぐっすり眠っている模様。中学受験に挑戦する予定の娘も、この大騒ぎのなか、ベッドの上ですうすう寝息をたてている。
昨晩は遅くまで机に向かっていたようだが、はたしてちゃんと勉強をしていたかというと、かなり疑わしい。まったくもう。目を離すと絵を描いたり、動画を見たり、そんな時間のほうがずっと長いんだから……!
7時30分。「まだパジャマ着てるの? 早くユニフォームに着替えないと、間に合わないよ!」。生まれつき、息子の辞書に「急ぐ」と言う言葉はのっていない……。私はキーキーしながらなんとか息子を車に乗せて、集合場所に向かって車を走らせた。
無事、球場に子どもたちを送り届けたら一度家に戻り、10時から始まるPTAのビーバレー(ビーチボールバレー※2)の練習に参加するために学校へ。昼前に練習が終わったら、すぐに球場に戻り、暑い中で野球に全力投球する子どもたちのフォローをする予定だった。
※2 ビーチボールバレー=砂浜で水着になってプレイするビーチバレーではなく、体育館でビニール製のビーチボールを使って試合をするバレーボール
学校に行く前に一旦帰宅したところ、夫も娘もすでに自宅にはいなかった。自宅マンションは10階にあり、仕事場は同じマンションの9階にある。すでに9階に降りて、夫は仕事、娘は勉強(?)にとりかかっているのだろう。
「ちょっと、娘の顔を見てから学校に行こうかな」と一瞬思ったが、「どうせ夕方には会えるし、時間ないからいいか」と思い直し、急いで自宅を後にした。
これが、子どもたちが夏休みに入ったばかりの、いつも通りの日曜日の朝のルーティーン。
けれどもそれから4ヵ月以上、私が自宅に帰ることはなかった。
えっ、どうして? ペットボトルのフタが閉められない!
自宅から徒歩で7分ほどのところにある小学校の体育館では、顔馴染みのママパパたちがすでにビーバレーの練習を始めていた。
ビーバレーは球が柔らかくて球速も遅いため、初心者でも楽しくプレーできるのがポイント。この日も子どもの学年ごとにチームを作り、対抗戦方式で練習をしていた。
異変を感じたのは、開始から1時間ほどたってからのこと。スパイクを打とうとしても、なぜか空振りを繰り返してしまう。いつもは簡単に届くはずのボールに、手が届かない。
「あれ、なんか調子悪いみたい。ごめん、一旦、出るね」。そうママたちに断ってコートを出る。スコアをつけようとボードの横に移動したものの、なんだかだるくて、立っているのが大変になってきた。
意味がわからないままコートの隅にヨタヨタと移動し、「暑さのせいかな?」とペットボトルのお茶を一気飲みする。
……あれ? ペットボトルのフタが閉められない!? 困惑していると、異変に気づいたママたちが次々に駆け寄ってきた。
「エットオトルのウタがいまあないの」
あれ? (ペットボトルのフタが閉まらないの)が言えてない!! そして気づけば、右足がピクリとも動かなくなっていた。
「おかしいの、右足と右手が動かない‼︎」。呂律(ろれつ)が回らない口でなんとか伝えると、看護師をしているママがすぐに救急車を呼んでくれた。
「旦那さんに連絡するから、ケータイ貸してくれる?」。えっ、夫に電話? 私は急に不安になった。夫は、事務所で仕事中のはず。はたして、電話に出られるだろうか……?
大変だけど自由で気ままなワンオペ育児ライフ
フリーライターの私と夫は、今年(2022年)で結婚15年目。13年前の2009年11月に娘が生まれ、その3年後の2012年9月に息子が生まれた。
忘れもしない13年前のある朝、娘のほうからプウ〜ンとかぐわしい香りが。キッチンで洗い物をしていた私は、「うんちしたみたい! おむつ、替えてくれる?」と夫に頼んだ。すると夫は「えっ、俺、これから歯を磨くから、無理やで」と当たり前のように言い放ったのだ。
「なに〜〜〜〜!? お前の歯なんか、全部抜け落ちてしまえ!!」と内心思ったが、口には出さなかった。その代わり、「この人に、なにを言ってもムダだろう。今後いっさい、育児参加を期待するのはやめよう」と固く心に誓った。
「夫は育児戦力外。ベンチにすら入ってないよ」。そう言うと、ママ友たちの多くは「え〜、そんなの大変じゃん。手伝ってもらいなよ」と口々に怒ってくれる。
けれども私には、育児や家事に参加させるように夫を“育てる”気がまったくなかった。ある意味、放棄といえるかもしれない。
そもそも「手伝ってくれない」と腹が立つのは、「手伝ってくれるはず」と期待するからではないだろうか。まったく期待しなければ、頭にくることもない。もちろん、物理的に大変なことはあるけれど、「この人を選んだのは自分だから」と思うことで、自分なりに納得していた。
というわけで夫は、我が家の「いつも仕事で不在。たまに現れては、賑やかして去っていく」というお笑い担当になっていた。
夫は子育てを手伝わなければ、口も出さない。私はいちいち夫に伺いを立てることなく、2人を連れて公園やテーマパークに行ったり、ママ友と飲みに行ったりご飯を食べたり、母を誘って4人であちこち旅行に行ったりと、自由なワンオペ子育てライフを楽しんでいた。
「子どもがかわいい時期なんて、きっとあっという間。この楽しい時間を共有できないなんて、かわいそうだなあ」と、内心夫に同情していたのだ。