救急車で運ばれた先は集中治療室!
体育館でぼうっとしていると、バタバタと救急隊員たちが駆け込んできた。
イケメンの救急隊員に(意識はしっかりしていて、隊員がイケメンであることはちゃんとわかった)、「突然、右手と右足が動かなくなり、立てなくなった」ことを、呂律が回らないなりに必死で説明する。
「これは、脳だな」とつぶやくイケメン。やっぱりか! 右半身が動かないことと呂律が回らなくなっていることから、薄々そんな予測をしてはいた。けれども救急のプロに明言されると、やっぱり衝撃的だ。そもそも脳の病気って、何らかの予兆があるんじゃなかったっけ? 私は倒れるまで何の変化も感じなかったのに。
「ならば、N病院がいい。受け入れられ可能かどうか、聞いてみよう」。そんなやりとりを聞いているうちに、夫が体育館の入り口に立ちすくんでいることに気づいた。
「あ、電話とってくれたんだ、よかった!」
夫は勝手がわからないのか、みょうにキョロキョロしている。
救急隊員たちに運ばれ、担架に横たわったまま、救急車に乗せられる私。その後から、夫が乗り込んできた。「突然、足と手が動かなくなったの」「うん、聞いた」「今もまったく動かせられないんだよ」。救急車のサイレンを聞きながら、そんな会話を、一生懸命したのを覚えている。
病院に着くやいなや、すぐに検査が始まった。CTスキャンにMRIと、担架に乗せられたまま、いろいろな天井を見上げながら移動する。意識はずっとあったし、頭痛も吐き気も何もない。ただ、右手足が動かせず、頭がボ〜ッとするだけだ。
ひと通りの検査が終了し、脳出血を起こしていることがわかった。これ以上、出血がひどくなる恐れはないということだが、念のため集中治療室(ICU)に運ぶと説明を受ける。
キャスター付きのベッドで病室に移動する廊下で、夫が待ち構えていた。「すぐに連絡せなあかん仕事相手って、誰や!?」と駆け寄ってくる。
気になっていた、仕事先へのフォロー。夫がやってくれるんだ、と安心する。頭に霞(かすみ)がかかったような状態ではあったが、明日からの予定を思い浮かべながら、一生懸命に連絡先のリストを伝えた。
「全部、連絡しておくから大丈夫や!」。私を乗せたベッドが動き出す。私は動くほうの左手を伸ばして、夫の手をつかんだ。
「娘と息子をよろしくね」。そう言った瞬間、2人の顔が目に浮かび、涙がにじんだ。
「うん、大丈夫。ゆっくり治しや」。そう頷(うなず)く夫を廊下に残し、ベッドは動き出した。
「いったい、これから私はどうなっちゃうんだろう。娘、息子はいったいどうするの?」
私は涙が止まらないまま、なすすべもなく集中治療室に運ばれていった。
<つづく>
萩原 はるな
情報誌『TOKYO★1週間』の創刊スタッフとして参加後、フリーのエディター・ライターとなる。現在は書籍とムックの編集及び執筆、女性誌やグルメ誌などで、グルメ、恋愛&結婚、美容、生活実用、インタビュー記事のライティング、ノベライズなどを手がける。主な著作は『50回目のファーストキス』『ハピゴラッキョ!』など。長女(2009年生まれ)、長男(2012年生まれ)のママ。
情報誌『TOKYO★1週間』の創刊スタッフとして参加後、フリーのエディター・ライターとなる。現在は書籍とムックの編集及び執筆、女性誌やグルメ誌などで、グルメ、恋愛&結婚、美容、生活実用、インタビュー記事のライティング、ノベライズなどを手がける。主な著作は『50回目のファーストキス』『ハピゴラッキョ!』など。長女(2009年生まれ)、長男(2012年生まれ)のママ。