
【学びの多様化学校】「対話」を軸に自己肯定感を育む。大分「くす若草小中学校」の“指導”しない教育
不登校の子の新たな学びの選択肢「学びの多様化学校」 #3
2025.09.15
目の前で川に流されている子どもたちを見捨てることはできない
──くす若草小中学校は、準備期間1年弱で開校されたとお聞きしました。まずは開校までの経緯を教えてください。
小原猛校長先生(以下、小原先生):玖珠町(くすまち)は、大分県の山間部にある小さな町なのですが、2023年の実態調査で不登校になっている中学生が11%もいることがわかりました。文部科学省の調査によると2023年度の全国の中学校における不登校の割合は約6%だったので、かなり多いと言えます。

小原先生:そんな状況に梶原敏明教育長が、「何とかしなければならない」という危機感を抱き、学びの多様化学校に白羽の矢を立てたのが2023年7月のころ。
驚くべきは「来年2024年4月に開校しよう」と決断されたことです。開校まで1年弱というのは、普通では考えられないスピードなのですが、「目の前で、川に流されている子どもたちを見捨てることはできない。今、救わなければいけない」と考えられたんですね。
“不登校”に対する思い込みを捨てる
──小原校長先生は、2023年度まで、行政で長く人権教育に携わってこられたとのことですが、2024年4月に校長に就任してからは、どのように学校づくりに取り組まれたのでしょうか?
小原先生:着任してすぐ、学校教育目標を職員全員で決めました。それに当たって、まずは「不登校の子どもはこんな子だという決めつけを一切取っ払おう。生徒は“不登校児”ではなく、この学校を選択してくる“一人の子ども”なんだ」という認識を共有しました。そもそも「不登校」という言葉を使うのはやめようと。
「不登校」って、どこか別の視点から見ている人が使う言葉ですよね。その言葉に、子どもも親も、おじいちゃん、おばあちゃんも、かかわりのある人みんなが苦しめられてきた。
学校に「行かない」子もいれば、「行けない」子もいる。実際は一人ひとりみんな抱えているものが違うのに、第三者によって「不登校」という言葉で一括りにされてきたんです。

──「みんなが主役の学校」という教育目標には、一人ひとりに向き合おうという先生方の思いが込められていたんですね。
小原先生:そうなんです。一人ひとりを大切にしたい、尊重したい。だからまず手始めに、「自分の呼び名は自分で決めましょう」ということにしました。私も着任した2024年4月1日に初めて先生方と顔を合わせたときから「たけしさん」と呼んでもらっています。
呼び方は、「なんでもいい」とか「決められない」という子もいるのですが、「決まるまで待つよ」と伝えています。小さなことのようですけど、自分のことを自分で決めていくというのは、とても大事だと思っています。
