月1500人もの子どもが集う“学生駄菓子屋” 夢中にさせる大学生の熱量とは
シリーズ「令和版駄菓子屋」#4‐1 「学生駄菓子屋」~駄菓子屋irodori~
2023.12.01
ライター:遠藤 るりこ
東武スカイツリーラインの西新井駅と梅島駅の中間地点に位置する、関三通(せきさんどお)り商店街。地域の人々の生活を支える青果店や惣菜屋などの個人商店が軒を連ね、下町ならではの温かい雰囲気が残ります。
この商店街に、2023年7月で3年目を迎えた「駄菓子屋irodori(イロドリ)」(以下、irodori)があります。ここは、現役の学生たちが企画・運営をするお店です。
この店の母体となるのは、駄菓子屋の目と鼻の先にある民間学童保育「CFA Kids亀田校」を運営するNPO法人Chance For All。
このNPOにインターンで来た学生から発生したチームが、ひとつの駄菓子屋を作るまでのストーリーとは。代表の中山勇魚(なかやま・いさな)さんと、運営に携わる3人の現役大学生にお話を伺いました。
家庭環境で人生が左右されることのない社会に
NPO法人Chance For All(以下、CFA)の代表を務めるのは、中山勇魚(なかやま・いさな)さん。2023年現在、足立区と墨田区合わせて8つの民間学童施設を運営しています。
「数年前、うちの学童に遠くの小学校から一人で来ている女の子がいたんです。話を聞くと『私はクラスでカーストが低いから、放課後は私のことを誰も知らないところに来たい』と。
多くの子どもたちは放課後も、学校や家庭と地続きの環境で生活をしていますが、それが苦しい子どももいます。放課後くらいは、そんな環境から解放される自由な居場所も必要なんです」(中山さん)
放課後こそ、子どもにとって、もっとも大切な時間だと中山さんは続けます。
「ゲームが強い子、サッカーがうまい子、絵を描くのが上手な子。子どもたちはそれぞれ遊びの輪のなかで繫がって、そこでお互いの個性を認め合う。
学校での評価から離れて、自分が自分として、友達に認められる。だから、放課後は、なるべく自由に子どもたちの遊びを保証していきたいんです」(中山さん)
学生×駄菓子屋の化学反応
2020年、一人の学生がインターンでCFAに参加します。ちょうどこのころの中山代表は、何か子どもに関わる新事業を始めたいと考えていた時期でもありました。
「大学生と一緒に、新しくやるなら子ども食堂かな、遊び場作りかな、なんて話をしていくなかで、ある子が『駄菓子屋をやってみたいです』って言い出しました。
彼自身は子どものときに駄菓子屋に行った経験がなかったんですけど(笑)。でも若い世代に任せてやってみるのに、駄菓子屋は面白いかなって思ったんです」(中山さん)
その学生の名前は、「むらせん」こと、飯村俊祐(いいむら・しゅんすけ)さん。彼が中心となり、駄菓子屋運営の話が始まります。
「むらせんには、子どもたちが自由意志で来られる居場所を作りたい、という情熱と理念があった。少しずつ仲間を集めて、2021年5月、資金調達のためのクラウドファンディングにトライしました。
結果、400万円以上の支援が集まったので、これはもうやるしかないと、半ばがむしゃらにスタートしたんです」(中山さん)
その後は企画も運営も、学生チームに任せてきたという中山さん。
「僕は本当に見守っていただけ。そもそも駄菓子ってどこから仕入れるの? いくらで販売したらいいの? むらせんをはじめ、誰も何も駄菓子屋について知らない状況で、ひとつひとつクリアしながら進めていきました」(中山さん)
完全スケルトンだった店舗は、数ヵ月で立派な駄菓子屋に。大学生たちみんなで店舗の什器(じゅうき)を作ったり、ポップを描いたり、ジモティーを活用して無料で家具を調達したり……。
そんなこんなで2021年7月、なんとかカタチになったirodoriがオープンするのです。
学生チームは、現場班・広報班・販売班など、業務内容で細かく分かれて活動しています。中山さんは、週に1度のミーティングに参加する以外は、これら業務の全てを学生に任せています。
「常時稼働している学生は、大学生をメインに、高校生も合わせて60人ほど。年間で100名ほどが参加しています。
学生たちはビジネス用チャットアプリのSlack(スラック)で、日々の営業報告をしたり改善点を話し合ったり、すごく真面目に情熱を持って、駄菓子屋運営に関わってくれていますよ」(中山さん)