100円が特別な通貨に変わる魔法の駄菓子屋 子どもの居場所以上に今、必要なものとは
シリーズ「令和版駄菓子屋」#3‐2 寄付型駄菓子屋~「まほうのだがしや チロル堂」(奈良県生駒市)~
2023.10.05
ライター:遠藤 るりこ
2021年8月、奈良県の生駒市にオープンした「まほうのだがしや チロル堂」(以下、チロル堂)。ユニークなのはその店名だけではありません。
チロル堂に一歩足を踏み入れると、そこは現実とは別世界。
18歳以下の子どもだけが、1日1回100円で回せるガチャガチャ。回すと出るカプセルには、チロル堂の中だけで使える通貨「チロル札」が1~3枚入っています。
子どもたちは、出てきたチロル札で駄菓子を買ったり、カレーを食べたりすることができるのです。
今回は、チロル堂を運営する4人のオーナーのうちの1人、生駒市で放課後等デイサービスを運営する一般社団法人無限の代表理事、石田慶子(いしだ・よしこ)さんにお話を聞きました。
※2回目/全2回(#1読む)
これまでの福祉になかったアイディアを
「福祉の現場で子どもの困りごとに対面していくと、それってほとんどが子どもの問題ではなく、大人や社会の問題であるということに気がついたんです」
そう話すのは、奈良県生駒市内で放課後等デイサービスや、障がい者就労継続支援B型事業所を運営する石田慶子(いしだ・よしこ)さん。
「制度として仕方のないことなんですが、福祉ってどうしても細かく役割分担がされていて、縦割りになってしまっている。カテゴリーを横断する困りごとや問題に対して、包括的に対応できる仕組みではないことに、ずっとジレンマを抱えていました」(石田さん)
そんなときに石田さんが出会ったのが、地域でこども食堂「たわわ食堂」を運営していた溝口雅代(みぞぐち・まさよ)さんです。
「溝口さんのこども食堂におじゃましたとき、誰が支援される側で、誰が支援している側がわからない“ごちゃ混ぜ”の世界が存在していることに衝撃を受けました。そして、それってすごく理想的な世界だな、って思ったんです」(石田さん)
縦軸でも横軸でもなく、人と人が自然に支え合う風景がそこにはありました。それから、いつか溝口さんと一緒に活動ができたらいいなという思いをずっと持ち続けていた、と石田さんは言います。
一方の溝口さんは「いつ来てもいいという居場所を作りたいのに、常設ができない」という金銭面での課題を抱えていました。運営資金の大半を寄付でまかなっているこども食堂には、一定の場所を持ち続けることが難しいという現実があったのです。
「新しい形のこども食堂を作りたいけれど、福祉業界の人間である私と、これまでこども食堂をやってきた溝口さん2人が場所を作って発信していくのには、限界があると思った。今まで支援が届いていなかった層に届かないと、これ以上広がっていかないと思ったんです」(石田さん)
そのころ、石田さんは、別のプロジェクトで仕事をしていたアーティストのダダさんこと吉田田タカシ(よしだだ・たかし)さんと、デザイナーの坂本大祐(さかもと・だいすけ)さんに、この事業を一緒にやろうと声をかけます。
そしてとある助成金への採択が決定したことを受けて、本格的に事業を開始することになりました。
4人が出会ってほどなくして、とある助成金への採択が決定。本格的に事業を開始することになりました。
「ダダさんが一番大事にしたのは『こども食堂に見えない場所』。ここがこども食堂だとわかった瞬間に、情けないととらえて来られない子や親が絶対にいる、と。
いつ誰が来てもいいという場を作ることが大前提という思いを共有して、そのための見せ方、表現、発信方法などを4人で考えていきました」(石田さん)
話し合いの中で、「駄菓子はいいよね」ということに。子どもたちの横のつながりを作るアイテムとして、駄菓子を前面に置くことを決めたのです。
チロル堂では駄菓子以外の菓子類や弁当なども販売。カレーやスイーツ、コーヒーなどの飲食もでき、夜は大人にお酒を提供できる酒場にもなります。