オンライン修学旅行も実現! 「校内フリースクール」が広げる可能性とは

子どもの居場所 ルポルタージュ #4~後編~ 広島県の校内フリースクール 

ジャーナリスト:なかの かおり

東大やNPOともつながり

ほかにもオンラインのクラブ活動では、本が好きな子は、ブックトークをしてみたり。生き物クラブでは、爬虫類に関心がある子へ、蛇を飼っている県の職員に自宅から配信してもらいました。蛇を首に巻きつけて、質問に答えるのも、オンラインだからできることです。

そのほか、東大とのプロジェクトも。東大の研究室と広島県が連携して開発したプログラムに子どもたちが参加し、学び合います。さらに、不登校の子のオンラインの居場所を作っている『NPOカタリバ』とも提携。SCHOOL“S”に登録してもつながりが持てない子に対しては、斜めの関係にあたる少し年上のお兄さんお姉さんをメンターとして、アプローチしていきたい」(蓮浦さん)

オンライン配信の様子。  写真提供:広島県教育委員会

学校の対応は現代の子に合っていない

部屋作りや、オンライン活動など、新しい広島県の試みですが、改めてなぜ思い切った取り組みをするのでしょうか。

「一般的な学校の不登校対応が、現代の子に合っていないところもあるということだと思います。今までうまくいっていたことが、今の子には難しい。

先生も、変わらなきゃいけない。家庭の希望も、何が何でも学校に行かなくちゃ、ではなくなっています。

学校のクラスに戻るのを目標にしたほうがいい子と、そうでない子がいます。将来的に、社会的な自立を目指すもので、今はさまざまなタイプの学校があり、いろいろなルートで社会に出る力をつける方法もあります。

今の子に合った、新しい居場所を作ること。個々のアセスメントをして、個々のプログラムを作ることです」(蓮浦さん)

選択肢のひとつとしてあったら嬉しい

筆者は、昭和時代の田舎で育ちました。勉強や児童会、応援団にマーチングバンドなど、何事も積極的な子ども時代を送りましたが、人間関係の悩みと体調不良などのため、学校を休む日もありました。

当時は、「学校を休むのは後ろめたいもの」、という圧力を感じることも……。

蓮浦さんは、「個々の状況に応じて」と繰り返しました。それが、広島県の取り組みのキーワードであり、現代の家庭が求める対応のひとつなのだと思います。

蓮浦さんから寄せられた、SCHOOL“S”を利用している子どもたちの感想も紹介します。

・自己紹介で自分の名前を話せたのがうれしかったし、カードゲームでみんなと関われたのがうれしかった。今度は、絵をかいたり、料理をしたりしたいです。

・図工で素敵な絵をかいた。最高!!!!!!!!!!!

・自分たちで竹を切って、箸置きとかを作って楽しかった。

・(オンラインコンテンツで)室町時代や琉球のことについて学びました。日本と明や東南アジアとの経由地で利益を上げていたことを知りました。

・スクールSに来たら、ローマ字が覚えられた。

それぞれに合ったアクティビティで、達成感を感じる様子が伝わってきます。さらに、なんとなくの居場所ではなく、社会的な自立を目指し、強みを伸ばす目標作りの仕組みにも驚かされました。

もちろん、こうした高い意識で個々を尊重するやり方が、合う人ばかりではないかもしれません。のんびりした居場所や、ゆるいつながりが好きな人もいますし、学校や行政からは離れた場のフリースクールがいい人もいるでしょう。

また、ルームに来られる子は、選択肢が広がりますが、家から出られない場合は、こうした活動に参加できないという課題もあります。

それでも、居場所の選択肢のひとつとして、楽しくなる内装の校内フリースクール、豊富なオンラインプログラムは、新しく、心躍るアイデアだと思いました。そして、そうした資源や試みを分かち合う仲間や、先生の存在も大事ですね。

取材・文/なかのかおり

広島県の校内フリースクールは全2回。
前編 不登校24万人! 広島県教育委員会「校内フリースクール」の最適な学びとは?

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なかの かおり

ジャーナリスト

早稲田大参加のデザイン研究所招聘研究員。新聞社に20年あまり勤め、独立。現在は主に「コロナ禍の子どもの暮らし」、「3.11後の福島」、「障害者の就労」について取材・研究。39歳で出産、1児の母。 主な著書に、障害者のダンス活動と芸能界の交差を描いたノンフィクション『ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦』、『家庭訪問子育て支援ボランティア・ホームスタートの10年「いっしょにいるよ。」』など。最新書『ルポ 子どもの居場所と学びの変化: 「コロナ休校ショック2020」で見えた私たちに必要なこと』が2022年10月22日発売。 講談社FRaU(フラウ)、Yahoo!ニュース個人、ハフポストなどに寄稿。 Twitter @kaoritanuki

早稲田大参加のデザイン研究所招聘研究員。新聞社に20年あまり勤め、独立。現在は主に「コロナ禍の子どもの暮らし」、「3.11後の福島」、「障害者の就労」について取材・研究。39歳で出産、1児の母。 主な著書に、障害者のダンス活動と芸能界の交差を描いたノンフィクション『ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦』、『家庭訪問子育て支援ボランティア・ホームスタートの10年「いっしょにいるよ。」』など。最新書『ルポ 子どもの居場所と学びの変化: 「コロナ休校ショック2020」で見えた私たちに必要なこと』が2022年10月22日発売。 講談社FRaU(フラウ)、Yahoo!ニュース個人、ハフポストなどに寄稿。 Twitter @kaoritanuki