「万引きされても犯人探しはしない」令和版駄菓子屋のユニーク店主とは

シリーズ「令和版駄菓子屋」#2‐1 ユニーク店主~「いぬまる商店」(福岡県北九州市)、「駄菓子屋すーさん」(愛知県津島市)~

ライター:遠藤 るりこ

パッと明るい黄色の外観が目印の「いぬまる商店」。大人も子どもも自然と集い、ここを拠点とした新しい交流が生まれている。  写真提供:いぬまる商店
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かつての駄菓子屋には、名物店主の存在がつきものでした。駄菓子屋の数だけ店主がいて、子どもたちとのコミュニケーションが生まれていたのです。

令和の時代でも、子どもたちと向き合い、関わり続ける名物店主がいます。いずれも、少子化や物価高騰、コロナ禍などの厳しい状況にありながらも、駄菓子屋店主として子どもたちの居場所を守り続けています。

今回お話を聞いたのは、「いぬまる商店」(福岡県北九州市)、「駄菓子屋すーさん」(愛知県津島市)の店主たち。ユニーク店主の人となりと、駄菓子屋としての心得を伺います。

※1回目(全2回)

創業100年の歴史を引き継いだ三代目店主

2020年の5月、福岡県北九州市戸畑(とばた)区に再オープンした「いぬまる商店」。店主の犬丸優子(いぬまる・ゆうこ)さんは、この地で100年続いていた店を、駄菓子屋カフェとして生まれ変わらせることを決意しました。

「自身の子育てや親の介護がひと段落したとき、ふと地域の子どもや大人が井戸端会議できる居場所があったらいいのでは、と思いついたんです。閉まっていたお店を約2年かけて改装し、駄菓子屋カフェとしてオープンさせました」(犬丸さん)

いいことも悪いこともすべて駄菓子屋で学ぶ

いぬまる商店の近くには、小学校があります。

「学校が終わったら、みんな一目散にうちへやってきます。学年を越えてみんな仲良し。地域の高校生が放課後に子どもたちに勉強を教えに来てくれる“ワクワクルーム”というイベントも開催しているんですよ」(犬丸さん)

そんななごやかな風景の一方で、子どもたちが大勢集まるとトラブルだってつきもの。

「駄菓子屋で起こることは、社会の縮図です。お店の売り上げをごっそり持っていってしまった子がいたり、近所の中学生にそそのかされて他人の家から盗ってきた1万円を駄菓子屋に持ってきた子がいたり……」(犬丸さん)

でも、「そんな子たちの罪は、大人が作っているもの」と犬丸さんは言います。

「子どもたちに罪はない。すべては、子どもたちに関わる大人・親たちの責任です。もちろん悪いことをしたら真正面からしっかり𠮟りますが、良いことをしたらたっぷりほめてあげることもしないと。こうして、やっていいこと悪いことを学んでいくんじゃないでしょうか」(犬丸さん)

そんな子どもたちに対して、犬丸さんはいつもかける言葉があるのだといいます。

「誰かのせいにしたり、現状を恨んだりするのは簡単。でも結局は『自分の人生を明るくするのは、自分自身だからね!』って話すんです。これから先の人生は絶対いいことあるよ、って」(犬丸さん)

子どもたちから「まるちゃん」と呼ばれて慕われる、犬丸優子さん。  写真提供:いぬまる商店

大人たちの“スイッチ”を押す存在にも

「いぬまる商店」では、店舗2階で多くのイベントを開催。元タカラジェンヌによるヨガ教室や、シンガーソングライターのライブ、子ども絵画教室の展示会、書道家の友人のイベントなどなど。この店を拠点として、さまざまな世代間の交流が生まれています。

2階はフリースペース。地域の人が思い思いのイベントを開催し、人が自然と集う場になった。  写真提供:いぬまる商店

子どもだけでなく、大人たちの悩みや相談を受けることも。話し相手を求めてくる誰かのために、犬丸さんは店に立ち続けます。

「シングル親の常連さんも多い。子どもだけじゃなくって、大人たちも集まってきて、いろいろな話をしてくれます。大人が弱音を吐いていたら、カツを入れることもありますよ(笑)」(犬丸さん)

常連客の一人に、トランスジェンダーの女性もいます。

「彼女に対して、からかう子がいたり、かばう子がいたり。多様性の時代と言いますが、子どもたちだってすぐにさまざまな大人を理解できるかって言ったら、そうじゃない。小さなやりとりを積み重ねて、お互いの信頼を築いて認め合っていくんだなと思います」(犬丸さん)

そんなやり取りを眺めていたり、ときには割って入ったり。本当に、毎日がドラマのようです。

「毎日ここで起こること全部を受け止めて、マイナスなことだってひっくるめて楽しめる性格じゃないと、駄菓子屋店主は務まらないかもしれないですね」と、犬丸さんは楽しそうに笑います。

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