【妊娠中の出血】は少量でも病院に連絡を! 産科学界の名医が解説
産婦人科医・安達知子先生に聞く「妊娠中に注意したい症状」 #1 妊娠中の出血について
2023.11.16
総合母子保健センター 愛育病院 名誉院長:安達 知子
妊娠初期には、薄いピンク色や褐色の性器出血が少量みられることがあります。出血が少量の場合には、歩いたり動いたりするのを控えて、自宅でゆっくり過ごしましょう。痛みがなく、安静にして出血が出なくなったり減ったりした場合には様子を見ても大丈夫です。特に妊婦健診の内診後は腟部びらんなどから出血しやすいので、覚えておいてもらうといいですね。それでも心配な場合には、病院に連絡してください。
妊娠中期と後期に出血した場合も、心配なら病院に電話しましょう。少量の出血で救急車を呼ぶ必要はありませんが、大量の出血、激しいおなかの痛み、胎動がほとんどない・感じない、動くと出血量が急激に増える場合は救急車を呼びましょう。
病院を受診するときに「出血がありました」と血のついたナプキンを持ってこられる患者さんがいますが、言葉で伝えてもらうだけでかまいません。もしくは、携帯電話の写真に撮ってくる方法もありますね。大きな血のかたまりや肌色のかたまりが出た場合には持ってきてもらうと、詳しく検査ができます。
正常な妊娠経過でも出血することはある
それでは出血が起こる理由と、妊娠週数によっての出血の違いを説明していきます。
妊娠中は、本来からだの中にいないはずの赤ちゃんが存在し、大きく育っていくため、お母さん側と赤ちゃん側が接触している部分ではいろいろなことが起こります。
おなかの中の赤ちゃんは、羊膜・絨毛膜(じゅうもうまく)・脱落膜(だつらくまく)という3つの膜が合わさった「卵膜」に包まれた状態です。羊膜と絨毛膜は赤ちゃん側から、脱落膜は子宮内膜から発生したもので、妊娠初期には絨毛膜と脱落膜の間でしっかり密着していない部分があります。この部分から出血することがありますが、ごく少量の出血であるならば妊娠経過に大きな問題とならない出血です。なお、絨毛膜の一部は絨毛として、妊娠初期に脱落膜の中に侵入して胎盤を形成します。
また、出産が近づくと「おしるし」という少量の出血がみられる場合があります。おしるしは、妊娠陣痛や前駆陣痛で子宮が収縮することで卵膜と子宮の壁との間が少しずれて起こる少量の出血で、子宮頸管の粘液と混じって出てきます。これも分娩が近づいた時の正常な妊娠経過でみられる出血です。
妊娠中に出血が起こる原因はさまざま
妊娠中の出血は、赤ちゃんのいる子宮からの出血と思われがちですが、子宮以外から出血している場合もあります。
例えば、尿道、膀胱、尿道口、外陰部、肛門からの出血です。尿道や膀胱からの出血なら感染症の可能性がありますし、肛門からの出血は内痔核(ないじかく・肛門の中にある痔)が原因である場合が多いです。まずは、どこからの出血なのか落ち着いて確認してみましょう。
性器からの出血の場合、子宮からのほか、腟や卵管などからの出血が考えられます。
子宮は、子宮の上3分の2を占める子宮体部と、下3分の1を占める子宮頸部の2つに分けられ、赤ちゃんが育つのは子宮体部のほうです。
子宮体部からの出血としては「切迫流産」「流産」「切迫早産」などが原因として多いですね。赤ちゃんは元気であっても出血や子宮収縮がみられる場合、妊娠22週未満なら切迫流産、妊娠22週以後37週未満なら切迫早産と呼ばれ、妊娠中の出血の代表的な原因となります。
子宮頸部からの出血で多いのが、子宮頸部にただれがある「子宮腟部びらん」という状態で、若い女性に多く、妊娠中の出血の原因になりやすい傾向です。
妊娠初期から中期には「頸管ポリープ」という子宮頸管の粘膜にできる良性の腫瘍が腟側に出て出血することがあります。
ほかには、子宮頸がんやその前がん状態(頸部異形成)からの出血という場合もありますね。子宮頸がん検診は、妊娠初期の妊婦健診時に、母子健康手帳に付帯している頸がん検診の補助券を使って、無料ないしは安価で受けられます。
また、本来、受精卵は子宮体部に着床するのですが、子宮体部以外に受精卵が着床することがあり、「異所性妊娠」と呼ばれます。異所性妊娠のうち90%以上が卵管での妊娠です。異常妊娠に気づかないまま、卵管が破裂して性器出血がみられたり、激しいおなかの痛みが起こったりすることで気づくケースもあります。
卵管以外に、腹腔や卵巣、子宮頸管内、子宮の帝王切開した傷跡部分(瘢痕部・はんこんぶ)などに着床する場合もあり、これらの異所性妊娠は大出血することでお母さんの命にかかわるため、病院で子宮内に妊娠していることが確認できるまでは注意が必要です。
まれなケースですが「子宮の中での妊娠ですよ」と確認された場合でも、子宮内と子宮外の両方で妊娠している「子宮内外同時妊娠」を生じることがあります。体外受精など不妊治療の増加とともに、増えてきています。