大ヒット絵本が受賞してきた絵本賞に「たべもの絵本」が続々! 今の子どもたちに“擬人化たべもの”が大ウケしているワケ

第8回「未来屋えほん大賞」で『ぎょうざが いなくなり さがしています』が大賞受賞

続々登場! 楽しい発想のたべもの絵本

第8回「未来屋えほん大賞」4位『うちのピーマン』( 文:川之上英子・健 絵 :柴田ケイコ/アリス館)。

4位の『うちのピーマン』は、野菜炒めをつくろうとしているお母さんと、包丁で切られたくないピーマンが掛け合いをくりひろげますし、6位の『パンダのおさじと フライパンダ』は食材ではありませんが、パンダの顔のふたがついたフライパンと、パンダのかたちをしたおさじが登場し、おさじに教わった呪文をとなえてフライパンのふたをあけると、普通の料理がパンダ料理に大変身して、レストランは大繁盛というストーリーです。

第8回「未来屋えほん大賞」6位 『パンダのおさじと フライパンダ』(作 : 柴田ケイコ/ポプラ社)。

半世紀以上前から、たべもの擬人化絵本は存在した!

とはいえ、たべものが一人で動き出す、たべものが擬人化された絵本が、最近になって出まわり始めたのかといえば、そうではありません。

古くは、1960年代に、『おだんごぱん』というロシア民話をもとにした絵本が刊行されています。おばあさんが小麦粉をかきあつめてつくったおだんごぱん自身が勝手に家を出てコロコロと転がっていき、うさぎやきつねに食べられそうになるという内容です。

個人的な体感にすぎませんが、たべものそのものが擬人化され、動き出す絵本は、2000年代にはいって少しずつ目にするようになったと感じています。

ただし、そのころの作品は、たべものがどうやって作られているかを幼い子に教えたり、おにぎりをにぎる仕草の楽しさを伝えたりする「知育」の目的が色濃いストーリーが多かったという印象があります。

そもそも絵本の擬人化の鉄板と言えば……

そこから次第に、知育目的ではなく、完全にストーリーの中で、人物の代わりにたべものを動かして活躍させている絵本が現れてきたという感想です。

では、なぜ今、多くの子どもたちにそうした絵本が受け入れられているのでしょうか。

その理由について、絵本にたずさわる者として勝手に考えてみます。

絵本における擬人化といって、真っ先に思いつくのは、なんと言っても「動物」です。

もちろん、今もそうした絵本がないわけではなく、ネコやウサギ、先ほども登場しましたパンダだって、しゃべって、動いて、大活躍しています。

しかし昨今、動物は子どもたちにとって身近な存在と言えるでしょうか。

イヌやネコを飼うにあたっては、住環境が整っていることがマストでしょうし、都市部では野良ネコを見ることも少なくなりました。

イヌについては飼育するうえで最寄りの保健所や市町村に登録することが義務づけられていますが、2009年をピークに減少し続け、2022年3月には、ピークより78万頭も少ないというデータがあります。

お住まいの場所にもよるのでしょうが、日常的にイヌやネコにふれあっている子どもの数が、十数年前より減っていることは確かです。

としおくんの想像の世界で旅をするぎょうざ。『ぎょうざが いなくなり さがしています』(作:玉田美和子/講談社)より

今の子どもたちにとって身近なものは?

では、動物ではなく、絵本ならではの楽しい冒険をしてくれる、「今の時代を生きる子どもたちにとって身近な存在」とはなんでしょうか?

それを絵本作家さんたちが追求した結果、「たべもの」に白羽の矢が立ったのではないか……と推測します。そして、そのトライが子どもたちにウケて、さまざまな絵本作家さんがこのジャンルを広げていったということではないかと思います。

……と、ここまで勝手な推測を述べましたが、まずはたべもの絵本を手にとって、声に出して読んでみてください。

たべものが動き出して、かわいく動いたり、ときにはムチャクチャなことをするシュールさは、子どもだけのものにしておくのはもったいないと思うはずです。

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