「絵本は言語習得にぴったりのメディア」『第1回 読者と選ぶ あたらしい絵本大賞』特別審査員・ 辻晶さんインタビュー〔前編〕
IRCN赤ちゃんラボの研究者が注目する「絵本の読み聞かせ」の効果
2025.01.15
辻 ヨーロッパでよく見かける絵本は「匂いの絵本」です。絵をこすると、クマさんが持っているアイスクリームの匂いがするというものです。あと、シリーズ作品も多いですね。例えば、「音楽絵本シリーズ」という同じフォーマットの絵本では、クラシックからヒップホップまでいろんなジャンルを扱っています。キャラクターというよりは、コンセプトでまとめた絵本が多いですね。
──赤ちゃんの成長発達について研究している方に取材をしたときに、絵本についてのお話を伺う機会がありました。そこで「実は赤ちゃんは視力が未発達だから、視界がぼんやりしていてそんなに見えてない」とか、「赤ちゃんは、刺激が欲しくて絵本を読んでいるんだ」という話を聞いたことがあります。
その事実に絵驚き、赤ちゃん絵本に対する考え方が少し広がりました。赤ちゃんが物語や絵だけではなくて、刺激や言葉、感触、しかけなどのやり取りが好きだということに、すごく納得しました。辻さんは、赤ちゃん絵本の役割についてどう考えていますか?
辻 やり取りのきっかけですね。赤ちゃんの視覚は未発達ですが、新生児期でも白黒のコントラストや光は認識できます。赤ちゃん絵本はコントラストが強い色味を使っているので、赤ちゃんも十分楽しめますから、やはりやり取りのきっかけになります。
親御さんならたぶんわかると思いますが、最初は文字とか絵よりも、手で触ったときの感覚やしかけに驚いたりするのを楽しみます。そして成長に従ってだんだんと絵本の中のディテール、例えばここに鳥がいるとか、描いてあることに注目し始めます。私の感覚ですが、よくできている絵本は何歳になっても楽しめるし、読む年齢によってまったく違う楽しみ方ができると思います。まあ、最初に与えたときに破かれる可能性もありますけれど(笑)。
まねっこ遊びもした思い出の絵本
──辻さん自身が読んでもらって印象に残っていたり、お子さんに読み聞かせる中で印象に残っている絵本はありますか?
辻 私はドイツで育ちましたが、そのときに母が日本語を教えるきっかけとして、日本語の絵本を読んでくれました。その中でも『ぐりとぐら』(作:中川李枝子/絵:大村百合子/福音館書店)と、『ヒッコリーのきのみ』(作:香山美子/絵:柿本幸造/ひさかたチャイルド)がすごく好きで、今でも覚えています。娘に読み聞かせをすると、すごく懐かしい気持ちになりますね。
辻 『ヒッコリーのきのみ』で、こりすのバビーがものを隠しているときに、「つぎは つちを とんとん たたいてね」、「たたいたよ!たたいたら?」、「つぎは、、、」というシークエンスが続きます。それをまねて、小さいころに母となにかをするときに、「○○してね」、「したよ」、「したね」というふうにやり取りをしていました。絵本の言葉遣いをまねして日本語を習い、日本語の語彙が増えたんですね。娘も楽しんで、同じようなゲームをしています。
『ぐりとぐら』は、カステラが焼き上がったシーンだけを覚えていて、それがすごくおいしそうに見えたのが印象に残っていました。娘が生まれたときに絵本をいただいて改めて読みましたが、娘は私と違い、カステラを作っている途中のページにすごく興味を持ちました。「なんで、このワニさんが食べていないの」と、カステラを持っている人と持っていない人をいちいち指さしして、そのページばかり見ていました(笑)。子どもによって、注目するところがすごく違うんだなと思いましたね。
覚えてはいませんが、私もきっと、親に0歳向けの絵本も読んでもらっていたかもしれません。私は、娘が3歳になるまで日本に住んでいましたが、半年前にフランスに引っ越しをしました。夜になると娘が「絵本を読んで」と日本語の絵本を持ってくるので、少し言葉の勉強になるなと思い、喜んで読んでいます。
──親子で反応するページが違うのはおもしろいです。小さいころのお母さまとのやり取りも、絵本のすごさを感じます。
辻 わたしも、娘の発達によって、注目するところが変わっていくのをみるのが、すごくおもしろいなと思いますね。親が子どもの興味に敏感になって、子どもに合わせて読み上げています。きっとみなさんも同じようにしていると思いますが、いつも同じ話ではなく、自分の話も変わってくるので、ありがたいなと思っています。
──大人になってから、自分のために絵本を読むことはありますか?
辻 忙しいこともあり、自分のために読むのは普通の本です(笑)。でも、すごく綺麗に描かれている絵本を見るのはおもしろいですし、娘にと知り合いからいただいた『はじめてのおつかい』(作:筒井頼子/絵:林明子/福音館書店)は絵が豊富で、昭和時代の暮らしの様子が描かれているので、娘に読み聞かせるときはいつも楽しいです。