子育ての行き詰まりを救う「ペアレンティング・トレーニング」を小児脳科学者が薦める理由

子どもが育ち、子育て力も伸びる! ペアレンティング・トレーニング#1

脳には「からだの脳」と「おりこうさんの脳」と「こころの脳」がある

ペアレンティング・トレーニングはよい脳育ちを促すメソッドです。成田先生は脳には3つのパートがあり、それらを順番にバランスよく育てることが重要だといいます。では3つのパートとはどんな部分を指すのでしょうか。

「ペアレンティング・トレーニングでは脳は3つのパートに分けて考えます。3つとは『からだの脳』と『おりこうさんの脳』と『こころの脳』のことです。まずはそれぞれがどのような役割を担っているのか説明しましょう。

ペアレンティング・トレーニングでは、脳は「からだの脳」と「おりこうさんの脳」と「こころの脳」に分けて考えます。イラスト:アフロ

からだの脳

からだの脳は最も原始的で生きるための脳です。寝ること、起きること、食べること、体をうまく動かすことを司っています。

詳しく部位をいうと意識や神経活動の中枢である間脳や、視覚、聴覚、眼球運動などの中枢である中脳などが含まれます。

からだの脳は、いわゆる生命維持装置です。人間のみならず動物もこの脳を働かせて生きています。この部分が生後すぐから、おおよそ5歳くらいまでの間にまずはしっかりと育つことが理想です。

おりこうさんの脳

おりこうさんの脳は、言語機能や微細運動、思考などを司っています。主に大脳の一部である大脳新皮質が部位であり、知性を担うといっていい器官です。

人間ならではの機能がたくさん詰まった部分であり、進化が進んだ動物ほど大きくて機能も高度化しています。

おりこうさんの脳は1歳ごろから育ち始めますが、特に小・中学校の学習を中心として、およそ18歳ごろまで時間をかけて育ちます。

こころの脳

こころの脳は、3つのパートの中で最後に育つ脳です。大脳新皮質の中でも最も高度な働きを持つ前頭葉が主な部位で、論理的思考や問題解決などを司っています。

前頭葉は脳の育ちの最終段階として、およそ10歳前後から完成していきます。「からだの脳」で起こった原始的な欲求や情動を前頭葉までつなぐ神経回路を作りますが、この部分がしっかりと育つことで社会生活が円滑となり営みやすくなります。

例えば「からだの脳」で起こった喜怒哀楽の感情は、そのまま行動で表現してしまうと社会で問題になります。しかし、感情を前頭葉につないで状況分析や判断、記憶を使って論理的に思考ができると、自分が取るべきベストな行動や言葉に落とし込むことができるのです。


人の発達には順番があります。首がすわる前に言葉をペラペラと話すことはないので、子どもを育てる上で大切なことは、『からだの脳』と『おりこうさんの脳』と『こころの脳』を順番に育てていくことがまずは重要です」(成田先生)

からだの脳=1階 おりこうさんの脳=2階 こころの脳=電線と電球 脳育ては家の建築と同じ

成田先生が提唱する脳育ては、家を建築するように「からだの脳」と「おりこうさんの脳」と「こころの脳」を順番に育てることが大切です。

「脳育ては、家を建てる順番で考えるとわかりやすいですね。建築するときは1階部分から作り始め、土台がしっかりと作られてから2階部分を作り、最後に電線を電灯につなげて明かりを灯します。

脳育てもこれと一緒です。1階部分にあたる『からだの脳』を幼いころからしっかりと基礎固めしつつ、1歳を過ぎてから18歳ころまでに『おりこうさんの脳』を時間をかけて作り、10歳を過ぎたころに家の仕上げである『こころの脳』を作って完成につなげます。

ペアレンティング・トレーニングでは、1階部分は大きく頑丈であることが理想的です。なぜなら1階がどっしりとしていれば、成長するにつれて子どもが向き合っていく学習やスポーツの刺激を余裕を持って受け止めることができるからです」(成田先生)

1階から順番にしっかりと建てていけば、少々の問題にも折れない人になれます。

脳育てはバランスも重要だと成田先生は加えます。1階にあたる『からだの脳』がしっかりとできてないうちから、2階以上の『おりこうさんの脳』と『こころの脳』を急いで作るとアンバランスになります。

つまりこれは、子どもと友達との間で小さなトラブルが起こったり、勉強でつまずいたりしたときなど、弱い地震(刺激)でも崩れてしまう(折れてしまう)ことを意味します。

ペアレンティング・トレーニングのスタートが生活習慣の立て直しから始まる理由はここにあります。

「まずは基礎となる『からだの脳』を丈夫に育てることが大切ですから、親が最初にやるべきことは生活習慣を整えることです。

アクシスのご相談者の中には、生活リズムが乱れている家庭が見受けられます。子どもが勉強ができない、宿題をしてこないなど、学校からの指摘に親御さんが焦って、つきっきりで遅くまで勉強を教えて、悪気のない一生懸命さが結果として生活の乱れにつながっているケースは少なくありません。

しかし、『からだの脳』部分がグラついていては、勉強という刺激に対していつまでも不安定で、悪循環から抜け出すことはできません。ですから、土台作りはペアレンティング・トレーニングでは重要な要素なのです」(成田先生)

ペアレンティング・トレーニングには、生活習慣の確立を含めて全部で6つの重要ポイントがありますが、盤石な基礎を築くことが、その後の順調な脳育てに必ずつながると成田先生は語ります。

次回は、生活習慣の立て直しの次の段階を紹介します。

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成田 奈緒子
小児科医。医学博士。小児脳科学者。公認心理師。文教大学教育学部教授。子育て科学アクシス代表。大学にて小児保健学などを学生に教える傍ら、小児科医と小児脳科学者の観点から「ペアレンティング・トレーニング」という独自の子育て支援メソッドを確立。その理論を育児に役立ててもらう場として〈子育て科学アクシス〉を立ち上げ、ワークショップや個別相談などを行いながら親子をサポートしている。

【主な著書や監修書】
『子どもの脳を発達させるペアレンティング・トレーニング』(合同出版)
『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(講談社+α新書)など


取材・文/梶原知恵

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なりた なおこ

成田 奈緒子

Naoko Narita
小児科医・医学博士・発達脳科学者

小児科医・医学博士・発達脳科学者。公認心理師。子育て科学アクシス代表。1963年、仙台市生まれ。神戸大学医学部卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究をする。2009年より文教大学教育学部教授。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。 『誤解だらけの子育て』(扶桑社新書)、『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(SBクリエイティブ)、『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)など著書多数。 ●子育て科学アクシス

小児科医・医学博士・発達脳科学者。公認心理師。子育て科学アクシス代表。1963年、仙台市生まれ。神戸大学医学部卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究をする。2009年より文教大学教育学部教授。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。 『誤解だらけの子育て』(扶桑社新書)、『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(SBクリエイティブ)、『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)など著書多数。 ●子育て科学アクシス

かじわら ちえ

梶原 知恵

KAJIWARA CHIE
企画・編集・ライター

大学で児童文学を学ぶ。出版・広告・WEB制作の総合編集プロダクション、金融経済メディア、外資系IT企業のパートナー会社勤務を経て現在に。そのなかで書籍、雑誌、企業誌、フリーペーパー、Webコンテンツといった、さまざまな媒体を経験する。 現在は育児・教育からエンタメ、医療、料理、冠婚葬祭、金融、ITシステム情報まで、各媒体の企画・編集・執筆をワンストップで手がけている。趣味は観劇。特技は長唄。着付け師でもある。

大学で児童文学を学ぶ。出版・広告・WEB制作の総合編集プロダクション、金融経済メディア、外資系IT企業のパートナー会社勤務を経て現在に。そのなかで書籍、雑誌、企業誌、フリーペーパー、Webコンテンツといった、さまざまな媒体を経験する。 現在は育児・教育からエンタメ、医療、料理、冠婚葬祭、金融、ITシステム情報まで、各媒体の企画・編集・執筆をワンストップで手がけている。趣味は観劇。特技は長唄。着付け師でもある。