
「テストできたらゲームを買ってあげる」は逆効果! ごほうびで子どもが「やる気をなくす」ワケが判明
中野信子「新版 空気を読む脳」#2 心理実験で子育てを応援 (2/4) 1ページ目に戻る
2026.05.28
ブラック企業の「やりがい搾取」
これは、子どもに限った話ではありません。別の研究者による実験では、大人の被験者を対象に、公園でのごみ拾いという課題に楽しさをどのくらい感じたか、という心理的な尺度が測定されています。
「目的は公園の美化推進を効率的に行うにはどうすればよいかの調査です」と被験者には伝え、絵を描かせる実験と同様に、この実験でも被験者を2グループに分け、片方のグループには報酬として多めの金額を提示しました。もう一方のグループにはごくわずかな報酬額を提示しました。そして作業終了後には全員に、ごみ拾いがどのくらい楽しかったかを10点満点で採点してもらいました。
すると、謝礼として多めの金額を提示されたグループでは、楽しさの度合いの平均値は10点満点中2点となったのに対し、ごくわずかな報酬額を提示されたグループでは、平均値が8.5点だったのです。
つまり、何かをさせたいと考えて報酬を高くすると、かえってそのことが楽しさや課題へのモチベーションを奪ってしまうということが明らかになったのです。
公園のごみ拾いで高い報酬を提示された人たちは、ごほうびをもらえると言われた子どもたちと同じように「高い報酬をもらえるからには、この仕事はきつい、嫌な仕事に違いない」と考え、楽しさが激減してしまったのです。
逆に、ごくわずかな報酬を提示された人たちには認知的不協和が生じ、「わずかな金額でも自分が一生懸命になっているということは、この課題は楽しい課題に違いない」と自分で自分に言い聞かせるようになったと考えられます。
類似の実験は課題を変えて何度も再現性が確認されていますが、報酬額や仕事の内容によらず、低い報酬を約束された人は高い報酬の人よりも常に頑張ってしまい、課題の成績も良く、しかも圧倒的に楽しいと感じているという傾向が見られます。
この心理が、ブラック企業に利用されているのかもしれません。酷使されても辞めないケースの中には、低い報酬だからという要因も考えられます。
脳から見たやる気にさせる言葉
私自身も疑問に思い、日本テレビ系列の番組『世界一受けたい授業』の制作スタッフに同様の実験をしてもらいました(2018年5月5日放送)。すると、やはり報酬額の少ないほうがその課題を楽しく感じる、という結果に変わりはありませんでした。
人にやる気を起こさせようとするとき、多額の報酬を与えることはほとんど意味がないということがこれでわかります。短期的には馬力を出すための励みになるかもしれませんが、長期的に見ればかえって仕事に対する意欲を失わせる原因になってしまう可能性があります。
人をやる気にさせるのに効果的なのは、その仕事自体が「やりがい」があり、素晴らしいものだとくり返し伝え続けることと、「『思いがけない』『小さな』プレゼント」です。予測される報酬ではなく気まぐれに与えられること、しかも少額であることが重要です。多額のものでは、せっかく醸成されたその人のやる気が失われてしまいかねません。
もともと仕事の内容が嫌なものであることが明らかな場合には、現実的な額の報酬を与え、その後、「あなたのような人でなければできない仕事です」などの心理的報酬、つまり承認欲求を満たす言葉を上手に使っていくのが効果的です。
逆を言えば今、給料は少ないし休みもないけれどやりがいがある、という状態にあるとの自覚を持っている人は、一度自分の状態が客観的に見てどうなのかを振り返ってみることが必要かもしれません。
しかし、「報酬を目当てにみんな仕事をしているし、昇給すればうれしいし、言葉よりも具体的な金額として自分の努力が認められるのは幸せなことじゃないか」と、多くの人は反論したくなるだろうと思います。たしかに、ある種の課題では、外的動機づけと呼ばれるわかりやすい報酬が生産性を上げるのに功を奏することがわかっています。
それでは、報酬を与えるのはどんな課題のときがよく、どんな課題のときには報酬を与えてはいけないのでしょうか?
この問いに答えを与えるのが、あまりにも有名な、ドゥンカーのロウソク問題です。私も以前、著書の中で触れたことがあります。心理学者ドゥンカーが考案したこの実験では、次のような道具を使います。
ロウソク1本、マッチ1束、画鋲1箱。
実験中、被験者に対してひとつの課題が与えられます。ロウソクをコルクボードの壁に固定して、火をつけるというものです。ただしこの課題には条件があり、融けたロウが下のテーブルに落ちてはいけません。また、ロウソクを直接画鋲でコルクボードに固定することもできません(物理的にも難しいです)。
この問題の答えは、箱から画鋲をすべて取り出し、画鋲で箱をコルクボードに固定、そこにロウソクを立てて、マッチで火をつけるというものです。画鋲を入れてあった箱を道具として使えるかどうか、という創造性が求められる課題なのですが、今や有名になりすぎて、創造性を測るテストとしてはもはや使うことができないでしょう。
それはさておき、この課題の被験者をやはりふたつのグループに分けて、片方には多額の報酬を与え、もう一方にはやりがいのみを与えるという条件を設定します。
すると、予想どおり金銭的報酬を与えたほうがひらめくのに余計に時間がかかってしまい、やりがいのみを与えたグループのほうが平均して数分早くこの問題を解くことができたのです。この結果はおそらく多くのみなさんが想像したとおりです。
創造性を上げたいときには報酬を与えてはいけない、むしろ、やりがいを与えたほうが創造性が高くなる、ということがわかりました。類似の現象は多くの分野で実際に見られるのではないでしょうか。
































