「テストできたらゲームを買ってあげる」は逆効果! ごほうびで子どもが「やる気をなくす」ワケが判明

中野信子「新版 空気を読む脳」#2 心理実験で子育てを応援 (3/4) 1ページ目に戻る

これから子ども世代に必要な能力

さて、この問題には別のバージョンがあります。課題も条件も同じで、ただ画鋲が箱から出されている、という点だけが違うものです。画鋲が箱の中にあるか外にあるかだけで問題の難易度はまったく変わってきます。あらかじめ画鋲が箱の外にあれば、創造性やひらめきはまったく必要なく、課題はただ与えられた材料を組み立てるだけの単純作業になるからです。

では、そうなると実験の結果は変わってくるのでしょうか?

予想どおり、このバージョンでは、報酬を与えられたグループのほうが圧倒的に早く、この課題をやり遂げるという結果になりました。単純なルールとわかりやすいゴールの見えている短期的な課題に限れば、外的動機づけが有効だ、ということが改めて確認されたわけです。

ところで、私たちが経験してきて、子どもにも学習させようとしているのは、こうした単純な課題に対する応答の速さ、ではないでしょうか?

人的資源を大量に利用し、大量生産が利益に結びついた時代には、単純な課題をどれだけ早くこなすことができるか、が勝負でした。ゆえにそうした人材が求められ、報酬を上げることで生産性そのものもそれに比例して向上したのです。

しかし、現代はどうでしょうか? われわれやわれわれの子ども世代が取り組まなくてはならないのは、正解やゴールのない問題ばかりです。むしろ、単純作業はどんどん機械に勝てなくなっていくのですから、そんなところを鍛えてもまったくの無駄になってしまうであろうことが容易に予測できます。

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人工知能の開発が進めば進むほど、報酬依存型の生産性向上のスキーマは崩壊していくでしょう。その時代にあって、どのようにしたら私たちは創造性を伸ばすことができるのでしょうか??

異端な現代絵画が創造性を高める

ブレーメン国際大学の心理学者フェルスターは、創造性を伸ばすには異端的なものの存在をあらわにする現代美術の絵画を眺めると効果があるのではないかと考え、2005年にある実験を行いました。

特別に印刷された2枚の絵を用意し、被験者をどちらか1枚の前に座らせます。そして、レンガひとつの使い方をできるだけたくさん考えるといった標準的な創造力テストをやってもらいます。

この絵はいずれも1メートル四方であり、12個の十字が黄緑色の背景の中に描かれています。片方の絵の十字はすべて濃いグリーン、もう片方の絵の十字はひとつだけが黄色であとはすべて濃いグリーンでした。濃いグリーンの十字の中にひとつだけ黄色い十字があれば、それはほかの十字からは外れた異端的な何かを示すものと無意識的に被験者に受け止められ、型破りで創造的な思考を促すのではないか、とフェルスターは考えたのです。

すると、フェルスターの思惑どおり、ひとつだけが黄色い十字の描かれている絵の前に座った被験者のほうが、有意にレンガの使い方をたくさん考えることができたのです。また、心理学の専門家は、黄色い十字のある絵の前に座った被験者のほうがより創造的な使い方を考えた、と評価しました。

子どもの創造性を高めたい、社員の創造力をアップしたいと考えるなら、今すぐに異端的な何かを示唆するアートを取り入れるべきだと言えるでしょう。

フェルスターのこの実験は、1998年にナイメーヘン大学のダイクステルホイスとニッペンベルクが行った実験に基づいています。この研究は、暗示効果(プライミング効果)により、人がその暗示に影響される、というものです。

たとえば、パソコンの壁紙に紙幣の画像を使っていると、人はエゴイスティックに振る舞うようになり、寄付を渋ったり、他者との交流を深めようとしなくなったりします。また、ほんの少しだけ石鹼のにおいをつけた部屋にいると人はそれまでよりきれい好きになったり、会議でテーブルにブリーフケースを置くと急に競争意識が増したりする、ということも知られています。

フェルスターは絵の実験をする前にこんな実験をしています。

過激で反社会性の高い技術者と保守的な技術者の、行動や生き方、外見について短い文章でまとめてもらい、その後に創造力テストを行いました。すると、過激で反社会性の高い技術者について考えた被験者のほうが、はるかに創造性が高くなっていたのです。

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