子どもと親、それぞれのステータスを知るべし!
――「ゲーム1日1時間」とか、「夜8時まで」とか、約束を決めるのも難しいですよね。子どもを尊重しようと思いつつ、親として望む結論があって、そっちに誘導してしまいがちです。
関 子ども主体で決めるというのは、「子どもさんが守れる約束をする」ということです。
親が守らせたい約束は、どうしてもハードルが高くなりがちです。
子どもが守ることができて、親も守らせることができる約束にしたほうがいいのですが、親は子どもの守ることができる力やガマンできるスキルを高めに見積もってしまう傾向にあります。もちろん、「そうあってほしい」という期待ゆえです。
家庭によっては、「子どもの様子をずっと見ていられない」とか、「約束を守ったかどうかの確認ができない」という場合がありますよね。子どもにそこまでコストをかけられないとなると、たとえば、寝る時間だけは約束するというような「現実的な落としどころ」という観点も必要です。
そもそも、ゲームに限ったことではありませんが、子どものガマンする力は、楽しいことには勝てないようにできているんです。大人だって、そうかもしれません。大人も子どもも、みんな自分たちのガマンの力を少しだけ過信しているのかもしれません。
長男 うちはゲームと動画あわせて平日は3時間、休日は1時間半っていうルールだよ。キッチンタイマーを使って、自分で時間管理してる。
関 タイマーを使うのもなかなか大変だよね。僕にはできないから、小学6年生でタイマーで時間を管理できているなんて、すごい自己管理能力だなって思うよ。
でも、「自分で時間を守ることが難しい」ってなってきたら、もう一度大人と相談したほうがいいかな。約束は一度決めたらおしまいじゃなくて、状況に合わせて作りかえていく必要があるからね。
――見たい動画を検索している間はタイマーを止めるとか細かく調整して、プレイしたり、動画を見たりする時間を少しでも確保する工夫をしてるよね。先生、見守る親はじりじりしてしまいそうですが、やはり無理なくできるレベルからやったほうがいいのでしょうか?
もちろんそうですね。最初は子どもと親双方の「ステータス」(*3)を知ること。どれくらいガマンができるかの力もふくめて、「われわれ親子のステータスはどれくらいか?」を知ることが、とても大事なところです。
最初にできるのは、スライムを倒すことだけ(笑)。いきなり魔王を倒そうとしてもダメってことですね。
*3ステータス……オンラインゲームやロールプレイングゲームに登場するキャラクターの状態のこと。レベル、能力値、経験値、習得した技、所持する武器・金品など。
ストップ! その声に「イヤミ」が入っていませんか?
――子どもと話し合って約束を決めたとして、どうしても守れないということもありますよね。
関 たとえば、「夕食は決まった時間に家族と一緒に食べる」と約束したとしましょう。1日中ゲームをやってても何も言わないけれど、夕食だけは一緒に食べようと。
そこで、「そろそろ夕飯できるよ」と言われた子どもさんが、「ちょっと待って」と答えて、結果、5分遅れて食卓に来たとします。5分遅れたことと、ゲームをやめて夕食を一緒に食べていること、どちらにフォーカスするかで、夕食の時間がまったく違うものになってきます。
この時に親が、「あなたは、いつもぜんぜん約束を守れない。やっぱりダメじゃない」と言ってしまえば、子どもからしたら、「はぁ? 約束したのは夕飯を一緒に食べるということだけで、ゲームを早く終わらせろなんて一言も言ってなかったじゃん」と理不尽に感じるでしょう。
それよりも、「今日のごはんおいしいね」と楽しい時間にしたほうが、翌日は5分とかからずに、食卓につくかもしれないですよね。
こんなふうに、親子の間の約束事に親さんの「できて当然でしょ」という期待値を混ぜ込んでしまうと、子どもはその約束そのものを信用できなくなります。
約束はできるだけシンプル、かつ明確にしたうえで、約束したこと以外は基本的に言わないことが大切だと思います。
――約束に飾りをいっぱいつけて、ダメ出しや嫌味を言うというのはやってしまいがちかも……。たとえば、食卓にすぐ来たら来たで、「明日もちゃんと早く来てね」と、ついつい言ってしまう……これなんかもそうですね。
長男 そういう時は、「今日は早かったね」って言ってくれればいいのに。
関 小さな嫌味や小言って、ありふれていますよね。
一言一言は小さくとも、言われた相手のやる気を少しずつ、確実に削いでいきます。だから、なるべく嫌味や小言は言わないように気をつけたほうが、子どもとの関係はうまくいくんじゃないかと思います。
――ということは、親もガマンしてストレスを抱えているということになりませんか?
関 今回のテーマだと、そのストレスの原因がゲームだったりするので(笑)。
親としては、「本音ではゲームをやってほしくない」とか、「すぐに食卓に来てほしい」とか、そういう子どもへの期待があって、現実がそううまくいかないために、自分の心になんとか折り合いをつけようと、つい嫌味が出てしまうのでしょうね。
長男 うちはボイスチャットを禁止されてるんだよね。
父ちゃんも母ちゃんも家で仕事してるから、「うるさい!」って言われて。
やりたいのに……。
関 そうなんだ。それはつらいねー。
――やりたい気持ちは分かるよ。だから、どうしたら折り合えるか、一緒に考えないとだね。
取材・文/くりもときょうこ
※関正樹先生のインタビューは全3回。
第1回はこちら。第3回は’21年11月9日公開予定(公開日までリンク無効)。
(プロフィール)
関正樹(せきまさき)
児童精神科医。1977 年生まれ。福井医科大学卒。岐阜大学医学部付属病院、土岐市立総合病院精神科を経て、現在は岐阜県瑞浪市にある医療法人仁誠会大湫(おおくて)病院に勤務。3ヵ月分の予約が30分で埋まる。白衣の下にはキャラクターT シャツ、足元からはカラフルな靴がのぞき、丁寧で優しい語り口の医師。「親戚のおじさんくらいの適度な距離感」を大切に診察にあたる。著書に『発達障害をめぐる世界の話をしよう:よくある99の質問と9つのコラム』(批評社)など。
★「子どもたちはネットやゲームの世界で何をしているんだろう」(YouTube動画)
くりもと きょうこ
総合出版社で編集者として14年間、青年誌・女性誌・男性週刊誌・児童書など、多彩な雑誌・書籍の編集に携わったのち、信州の村に移住して雑食系編集者・ライターに。文弱の徒たる夫と、ホームスクーラー3兄弟とにぎやかに暮らす。
総合出版社で編集者として14年間、青年誌・女性誌・男性週刊誌・児童書など、多彩な雑誌・書籍の編集に携わったのち、信州の村に移住して雑食系編集者・ライターに。文弱の徒たる夫と、ホームスクーラー3兄弟とにぎやかに暮らす。