きょうだいの愛情格差「平等ではなく特別感」が必要な理由とは【社会心理学者が解説】

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きょうだいは生まれながらのライバル

「ママはお兄ちゃんばっかり」「お母さんは弟のほうがかわいいんでしょ!」

きょうだいを育てていると、こんな言葉を聞くことがありますが、碓井先生は次のように説明します。

▲下の子が生まれたのをきっかけに、上の子が“赤ちゃん返り”をすることもある(写真:アフロ)
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「子どもにとって、きょうだいは生まれながらのライバルなんです。上の子は、ある日突然、“わけのわからない小さな存在”が現れて、自分の座を奪われる。“今、赤ちゃんを寝かしつけているんだから、あなたはあっちで一人で遊んでいてね”などと言われたりして……。これは、上の子にとって、最初の“愛情格差”体験です」

一方、下の子にとっては、生まれたときから、お兄ちゃんやお姉ちゃんという“強敵”がいて、おもちゃやお菓子を取られたりする。そんな中で、必死で生きていかなくてはならない──。

だからこそ、きょうだいは、生まれた瞬間から同じ愛情を奪い合う。まさに、“生まれながらのライバル”です。

「このように、きょうだい関係は非常に繊細ですから、ちょっとした違いが気になります。親がどんなに平等に接しているつもりでも、子ども側から見れば、“自分は不当に扱われている”と感じてしまうんです」

下の子が生まれると、上の子が“赤ちゃん返り”をすることは、広く知られています。心理学的には“退行現象”と呼ばれ、親の愛情を取り戻そうとする自然な反応とされています。

「私の祖母はよく言っていました。“下の子が生まれたときほど、上の子をかわいがってあげるんだよ”と。心理学ではいろいろと理屈をこねますが(笑)、こうした“おばあちゃんの知恵袋”のほうが上手くいくことが多いんです」

「“きょうだいを平等に愛する”ではなく、“下の子が生まれたときこそ、上の子を愛してあげる”。そのほうが、結果的にバランスが取れ、えこひいきのない関係が築けるんですね」

「同じにすること」が正解ではない

▲子どもが求めているのは、“平等”ではなく、“特別感”(イラスト:アフロ)

「お兄ちゃんのほうがハンバーグが大きい!!」下の子がこんなふうに文句を言う──。まさに“あるある”ですね。

「親にすれば“じゃあ同じ大きさにしてあげる”で済む話のように思えますが、そうではない。これは“ハンバーグの戦い”ではなく、“愛情の戦い”なんです」

先生によると、子どもにとって、食べ物やお金は単なる“モノ”ではなく、“愛情の象徴”。

「ですから、子どもは、兄のハンバーグのほうが大きかったり、おこづかいの額が多かったりすると、“お兄ちゃんのほうが愛されている”と感じてしまうんです」

だからといって、同じにすればいいわけではありません。

「おこづかいを同じ額にすれば、今度は上の子が“年上なのに同じなの?”と文句を言いますよね。つまり、“同じにすること”が正解ではない」

「子どもが求めているのは、“平等”ではなく、“特別感”。親にとって自分は特別な存在である、自分だけ愛されている。そんな“絶対的な愛”を求めているんです」

「納得」と「特別感」 両立させるには?

“平等”ではなく“特別感”を求める──。そんな子どもの心を理解できたら、次に大切なのは、どう応えるか。

親の側からほんの少し視点を変えれば、子どもは驚くほど安心します。先生が教えてくれたのは、そんな「納得」と「特別感」を両立させるための、ささやかな工夫たちです。

「例えば、きょうだいでハンバーグの大きさが違う場合、下の子のハンバーグに旗を1本立ててあげる。下の子はハンバーグの大きさそのものより、“ママはお兄ちゃんのほうを愛しているのでは”という気持ちが悔しい。だから、旗を立てただけでも“僕だけ特別”と感じて、笑顔になることがあるんです」

他にも、ケチャップでハートを描いたり、ハンバーグをウサギや猫など動物の形にしてみたり。また、おこづかいを渡すときには、その子が好きなお菓子を添えてみたり。あの手、この手で気持ちを示すのが愛情表現。

日々の生活の中で、「自分がいちばん愛されている」と子どもが感じられるような、ささやかなアイデアを重ねることが重要だと先生は言います。

「“特別感”を伝える方法は日常のあちこちにあります。家庭によっていろいろな形があるでしょうが、例えば、私自身の場合は、子どものころ、よく父から散歩に誘われていましたね。そして、喫茶店に連れていってもらって、二人だけで普段できないような話をしたり」

「親としての私は、娘が拗ねないよう、出張のたびに“娘専用のお土産”を買って帰り、“お兄ちゃんに見つかる前に早く隠しなさい”と言って渡します。金額じゃないんですよ。子どもが“自分だけが大事にされた”と感じる、その瞬間を作ってあげることが大切なんです」

「どっちが好き?」と聞かれたら

▲「今この子に何をしてあげたいか」を考えることが大事(写真:アフロ)

“特別感”を与えて子どもの心を満たす、という意味では、「あなたのことがいちばん」と口に出すことも必要です。

「子どもはよく、“お姉ちゃんと私、どっちが好き?”などと親に訊ねますよね。そのとき、“両方同じだよ”と答えるのではなく、迷わず“あなたがいちばんよ”と答えてあげてください」

子どももきっと、理屈では「親は子どもたちを平等に好き」とわかっているかもしれません。でも、心は「自分だけ特別」を望んでいます。だからこそ、特別感を与えるひと言が、子どもの心に安心を与えるのです。

その意味では、例えば、「あなたが生まれてきてくれて、本当にありがとうと思っているんだよ」「あなたがいてくれるだけで、ママは幸せよ」といった声がけも、「あなたがいちばん」と同じくらいの“力”を持つ言葉といえるでしょう。

「もし、きょうだいが揃っているときに“どっちが好き?”と問われたら、そのときは、“さぁて、どっちかなぁ。秘密だよ~”などと、ユーモアで明るくかわすといいですね。愛情はお遊びの空気の中でも伝わるものです」

完璧な公平さを目指すより、「今この子に何をしてあげたいか」を考えること。そして、小さな工夫をしてみる。それこそが、子どもの心を支える“愛情のかたち”なのかもしれません。

「こんなふうにして、親から安心感を与えられて育った子は、きょうだいを敵ではなく、仲間として見ることができるようになります。大人になってからも、いざというときには助け合えるきょうだいでいられるはずです」

【「きょうだいの愛情格差」について社会心理学者・碓井真史さんが解説する連載は前後編。子どもには「平等よりも特別感」が必要な理由をお聞きした今回の前編に続き、次回の後編では「きょうだいの愛情格差」の記憶が心の傷となる理由、健全な「親からの卒業」についてお聞きします】

取材・文/佐藤美由紀

※2025年11月21日より公開予定

※2025年11月25日より公開予定

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うすい まさし

碓井 真史

Masashi Usui
社会心理学者

1959年東京下町墨田区出身。日本大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程修了。博士(心理学)。専門は、社会心理学。 新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。 Yahoo!ニュース個人 オーサー 「心理学でお散歩」 http://bylines.news.yahoo.co.jp/usuimafumi/ テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。 著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。 監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

1959年東京下町墨田区出身。日本大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程修了。博士(心理学)。専門は、社会心理学。 新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。 Yahoo!ニュース個人 オーサー 「心理学でお散歩」 http://bylines.news.yahoo.co.jp/usuimafumi/ テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。 著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。 監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

さとう みゆき

佐藤 美由紀

Miyuki Satou
ノンフィクション作家・ライター

広島県福山市出身。ノンフィクション作家、ライター。著書に、ベストセラーになった『世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉』のほか、『ゲバラのHIROSHIMA』、『信念の女 ルシア・トポランスキー』など。また、佐藤真澄(さとう ますみ)名義で児童向けのノンフィクション作品も手がける。主な児童書作品に『ヒロシマをのこす 平和記念資料館をつくった人・長岡省吾』(令和2年度「児童福祉文化賞」受賞)、『ボニンアイランドの夏:ふたつの国の間でゆれた小笠原』(第46回緑陰図書)、『小惑星探査機「はやぶさ」宇宙の旅』(第44回緑陰図書)、『立てないキリンの赤ちゃんをすくえ 安佐動物公園の挑戦』、『たとえ悪者になっても ある犬の訓練士のはなし』などがある。近著は『生まれかわるヒロシマの折り鶴』。

広島県福山市出身。ノンフィクション作家、ライター。著書に、ベストセラーになった『世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉』のほか、『ゲバラのHIROSHIMA』、『信念の女 ルシア・トポランスキー』など。また、佐藤真澄(さとう ますみ)名義で児童向けのノンフィクション作品も手がける。主な児童書作品に『ヒロシマをのこす 平和記念資料館をつくった人・長岡省吾』(令和2年度「児童福祉文化賞」受賞)、『ボニンアイランドの夏:ふたつの国の間でゆれた小笠原』(第46回緑陰図書)、『小惑星探査機「はやぶさ」宇宙の旅』(第44回緑陰図書)、『立てないキリンの赤ちゃんをすくえ 安佐動物公園の挑戦』、『たとえ悪者になっても ある犬の訓練士のはなし』などがある。近著は『生まれかわるヒロシマの折り鶴』。