「探究学舎」人気講師が「学校の常識を疑う」ことをすすめる深い理由 親も先生も「子どもの学びを支える仲間」になれる
【今こそ学力観のアップデートをするとき】好奇心の種をまく探究学舎の学び#5 学校への波及
2024.07.05
「常識を疑う」で学校を変える
三鷹市の取り組みのように、変化の兆しは出てきているものの、実際の学校現場は子どもが否定や強制されず、安心して学びを楽しむ環境にはなっていない現実があります。
教員経験も長く、現在は三鷹市の公立小学校で非常勤講師として体育の授業も担当している森田氏は、こうした現状を変えるためにはまず「常識を疑うことが大切」だと話し、自身も実践しているといいます。
「僕の体育の授業では、最初も最後も整列はしません。1学期の最初に子どもたちが整列しようとすると、あえて違うところにどんどん動いて、できない状況にしてしまうんですよ(笑)。
結果どうなるかというと、僕を中心として同心円状に子どもたちが集まります。みんながそれで聞こえるなら、全然問題ないですよね。話を聞くために前後に並ぶ必要はないわけです。
『体操着を忘れたら見学』というルールにしている先生も多いですが、僕の授業は忘れても参加できます。だって、体操着を着ていないと運動ができないなんてことはないですよ。世界では、体操着で体育の授業をしている国のほうが少ないです。
僕があえて公立の小学校でこんなことをしているのは、先生に常識を疑ってほしいからです。子どもが『あれ? なんか変だな』と感じているルールは、たいてい今の時代にそぐわないものです。そこに疑問を持って変えていくのは、先生方や保護者の役割です。子どもはどうしても、大人の言うことを信じようとしてしまいますから、大人が率先して行動する必要があります」(森田氏)
学校公開や行事などで学校に行くと、整列、号令など、「これって本当に必要なのかな」と感じるルールに出くわす方もいるのではないでしょうか。森田氏は「学校は外の世界との関わりが少ないため、おかしいと思う意識が働きにくい」と指摘した上で、「保護者も含めて、大人が当たり前のように疑問を持ち続けていくことが大切」だと話します。
「どうせ学校は変わらない」とあきらめる前に、親も子どもと一緒に今当然とされているルールを疑ってみる、それを周りや信頼できる先生に話してみる。こうした小さな行動を積み重ねることで、少しずつ「学校の当たり前」を変えていくことができるのかもしれません。
子どもを「主語」に考える
学校でも家庭でも、子どもが自らの興味や関心をふくらませ、いきいきと学べるようになるために、森田氏は「子どもを主語に置く」ことの重要性を強調します。
「今もときどき、先生が『子どもに話を聞かせる』『静かに座らせる』などの様子を学校で見ることがあります。ただ、それは大人の都合だったりしますよね。子どもの気持ちが置き去りにされているように感じます。子どもだって話を聞きたくないときもあるでしょう。そんなときには、『何で聞きたくないの?』と尋ねてあげればいいんです。子どもを主語にして考えれば、自然とそうした発想になるはずです」(森田氏)
一方家庭では、「勉強させたい」「読書させたい」といった具合に、子どもの意志よりも親のしてほしいことを押しつけてしまう傾向があります。
「子どものことは、子ども自身で決める権利があるんです。日本も批准している『子どもの権利条約』でも、子どもの意見の尊重(子どもは自分に関係のある事柄について自由に意見を表すことができ、おとなはその意見を子どもの発達に応じて十分に考慮する/第12条)が謳われています」(森田氏)
【子どもの権利条約】
子どもの基本的人権を国際的に保障するために定められた条約。18歳未満の人たちを子どもと定義し、世界のすべての子どもたちに、自らが権利を持つ主体であることを約束している。1989年の国連総会において採択され、1990年に発効。日本は1994年に批准している。
出典:UNICEF東京事務所
「子どもが自分で決める」が大切
森田氏は、何ごとも子ども自身が決定・選択することが重要で、宿題もこれに該当すると話します。
「小学校で担任をしていた当時、宿題をなくしたら『絶対に出してください』と言ってきた保護者がいました。ですが、やるかやらないかは子どもが決めることです。
また、学年で共通している宿題は、やりたくない子どもと『契約』を結んでいました。宿題は提出しないという契約書を書いてもらうんです。契約書には、テストの点数が悪くても自分の責任、という内容が含まれます。選択には責任が伴うと知ってもらうことも必要ですから。こうした機会を持つことで、子ども自身が本当に宿題をやらないのか、立ち止まって考えることができます。
自分自身で考えて、選択できる。これが非常に大切です。大人は、『子どもは適切な選択ができない』と決めつけている節がありますが、そんなことはありません。低学年だって十分にできますよ。ファミレスのメニューを選べるなら、学びだって自分で決めることができるんです。
常に子どもを主語にして考え続ければ、自然に一人の人間として尊重できるようになります。子どもが安心して学べる環境、いきいきと過ごせる場所は学校や教育委員会だけが作るのではありません。保護者や民間企業、みんなが関わることで、より良いものに変えていくことができるのです」(森田氏)
「子どもに興味・関心のあることを学んでほしい」と願いつつ、熱中できるかどうかは本人の集中力や好奇心の強さ次第なのではないか。大人はそんなふうに考えてしまいがちです。
しかし、探究学舎の講座は、環境次第でどんな子でも熱中して学ぶことができると教えてくれました。ライターの娘が元素や物理を楽しめたように、きっかけさえあれば「おもしろい」と感じる感性は大きく育っていくのです。
探究学舎は「驚きと感動の種をまく」をテーマにしていますが、種をまくだけでなく、子どもの興味・関心という土壌をふかふかに耕しているイメージをも想起させます。それぞれの種がその子に合うかは時間が経ってみないとわかりませんが、耕した土壌は確実に豊かになり、好奇心や意欲が高まっていくはずです。
そして、子どもが自らの興味・関心の芽を心おきなく伸ばしていくためには、否定されることなく自由に学べる環境が非常に大切です。子どもを主語に考えることを基本とした上で、親も一緒に楽しむスタンスでいることが、子どもの充実した学びにつながります。
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【森田太郎 プロフィール】
1977年生まれ。東京都出身。幼いころから遊びが大好きで、小学校入学後も宿題・勉強はほとんどせずに過ごす。ユーゴスラビア内戦を機に民族問題に関心を持ち、大学へ進学。ボスニア・ヘルツェゴビナにたびたび渡航し、1999年にサッカーによる民族融和を目指した論文で『秋野豊賞』を受賞。2000年にはNGO「サラエヴォ・フットボール・プロジェクト」を設立し、平和構築活動に従事。その後、東京都小学校教諭として13年勤務したのちに、2019年より探究学舎講師に。2021年からは三鷹市内の小学校で非常勤講師も務めている。著書に『サッカーが越えた民族の壁──サラエヴォに灯る希望の光(明石書店)』。
取材・文 川崎ちづる
【好奇心の種をまく探究学舎の学び】の連載は、全5回。
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※公開日までリンク無効
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川崎 ちづる
ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。
ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。