大人気「探求学舎」のリアル授業体験で気づいた 子どもの好奇心に火をつける「環境」と「親に必要なこと」

【今こそ学力観のアップデートをするとき】好奇心の種をまく探究学舎の学び#4 受講後の子どもの変化

探究学舎の短期集中型リアル講座「探究スペシャル」で楽しそうに学ぶ子どもたち。  写真:川崎ちづる

子どもたちが大きな声で一斉に講師の問いに答えたかと思うと、チームメンバーと話し合いながら集中してカードを並べる。

連載第3回でレポートした探究学舎の短期集中型講座「探究スペシャル」では、子どもたちが夢中になり、楽しみながら学ぶ「フェス」のような2日間が繰り広げられていました。

子どもたちが心おきなく学びに没頭できるのは、授業内容の魅力だけでなく、安心して学びに集中できる環境が整っているからです。どのように可能としているのでしょうか。また、参加後子どもたちには、どんな変化があるのでしょうか。

探究学舎の学びによる効果や変化などについて、講座に参加したライターの子ども(当時小学3年生)の事例を交えて紹介します。

※全5回の第4回、#1を読む、#2を読む、#3を読む。

【探究学舎】
「探究学舎」は2005年に設立。独自に設計された「子どもが夢中になる授業」が評判を呼ぶ。以来、オリジナルの授業は80種類を超え、2023年の総受講者数は約1万人を数える。国語や理科など、学校の勉強を教えない独特のカリキュラムが注目を集め、「情熱大陸」(代表の宝槻泰伸氏出演)、「世界一受けたい授業」(カタチの秘密や科学実験を紹介)などメディア露出も急増中の話題の「塾」。

【探究学舎講師 森田太郎氏】
森田氏は2006年から都内の小学校に教諭として13年勤務したのちに、2019年に探究学舎講師へと転身。「海のいきもの」や「植物」の授業が評判。現在は公立小学校の非常勤講師でもある。「探究学舎講師」「公立小学校の非常勤講師」「4児の父親」という立場から、子どもの興味や関心を引き出すための考え方や行動について語っていただいた。

【好奇心の種をまく探究学舎の学び:第1回 第2回 第3回 第5回を読む】
※公開日までリンク無効

子どもが安心して学べる「否定されない環境」

探究スペシャル1日目に授業がスタートした際、開口一番に講師の森田太郎氏が子どもたちに語りかけたのは、次のような内容でした。

「ここではトイレに行く、水を飲むときに私の許可を取る必要はありません。みんな家で『トイレに行っていい?』なんて断らないでしょ? 自由に行ってください。そのほかも、自分が聞きたいと思ったら聞く。思ったことは自由に行動に移してください」(森田氏)

この言葉どおり、子どもたちは授業中も思い思いの姿勢で自由に発言していました。みんなが常に声をあげているので、講師が説明している間もしんと静かな状態、にはほぼなりません。その上、「今はしゃべってはいけないよ」などと注意されたり、静止されたりすることもありません。

むしろ、子どもたちの声を講師が上手に取り上げ、それを活用する形で授業を盛り上げていきます。自分の発言に反応してもらえることがうれしいので、子どもたちはますます積極的に参加。たとえ間違っていたとしても、「それおもしろいね」「いい視点だ!」などとコメントしてもらえるため、子どもたちは躊躇せず思ったことを口にできます。

子どもにマイクを向けることも多い探究スペシャル。  写真:川崎ちづる

これはこの場が子どもたちにとって、自分の振る舞いや発言が否定されることのない、安全な場所になっているという証なのでしょう。だからこそ、安心して学びに没頭することができ、「知りたい」「やってみたい」というエネルギーをさらに高めていく。そんな「好循環」が生まれているのです。

学校では「あまり発言しない」と話すライターの娘も、自ら個人でのチャレンジに名乗りを上げるなど、終始積極的な態度で参加。後日、「できるかわからないけれど挑戦してみたいという気持ちが自然に湧いてきた」とそのときの想いを語っています。

元素10個をどれだけ早く言えるかには、ライターの娘も自ら立候補して挑戦しました。  写真:川崎ちづる

興味がどんどん広がっていく!

さて、探究スペシャル受講後、娘には次のような変化が見られました。

・自ら元素カルタを作って家族や友だちと楽しむ
・「元素の歌」を覚えようとする
・遊びに来た祖父母に探究スペシャルで学んだことを一生懸命説明する


また、街の看板に元素記号を見つけると、「あっ、H2Oだ」と反応。その後、分子構造ブロックで学んだことを思い出し、「白と赤のブロックだね」と振り返っていました。これまでもその看板の前を何度も通りかかっていましたが、元素編に参加したことで初めて存在に気がついたようです。

娘が街の看板に元素記号を見つけたように、探究スペシャルで分子結合について学んだ子どもたちは、自身の生活と学びをつなげているはずです。  写真:川崎ちづる

少し前まで元素という言葉さえ知らなかった娘も、2日間ですっかり元素が身近なものになりました。その好奇心は元素だけに留まらず、ほかの分野にも広がっていきます。自発的に「探究スペシャル」のWEBサイトを確認し、「次は天気実験編を絶対受ける!」と宣言するまでに変化しました。

その後も、自分の中の「知りたい」「やってみたい」という気持ちをこれまでよりも敏感に感じ取れるようになっている、といった変化を感じています。そして、興味を持てることが増え、いろいろなことを学んでみたいという意欲が高まっているようにも見えます。

このように、一つの講座を受けたことで新しい分野に興味や関心が広がっていく子も多い、と探究学舎講師の森田氏は語ります。

「探究学舎の授業がきっかけになって、いろいろなことに興味を持てるようになった、というのはよく聞きますね。

そうやってさまざまなテーマと出合っていくと、『これだ!』と思うものが見つかるんです。そして、一度深く探究できたら、また世界が変わっていきます。興味を深めるにはどうしたらいいのか、自分なりの楽しみ方、やり方が見つかってくるんです。だから、その分野に限らずほかのことも同じように探究できるようになります。

最初は生き物が好きだったけど、次は歴史が好きになって、医学、文化……といった具合に次々と幅が広がっていきます。そうすると、何でもおもしろがれちゃうんですよね」(森田氏)

こうしてさまざまな興味を深めた延長線上に、将来の仕事などにもつながる「専門性」が見えてきます。

『専門性』って、興味や関心の集合体だと思うんです。

宇宙飛行士を考えてみてください。元々、宇宙に興味はあったのでしょうが、それだけを勉強して極めてきたというよりも、もっと多様なバックグラウンドを持っている人が多いですよね。医者やエンジニア、最近では国際開発を専門にしていた人もいます。

さまざまなことに興味を持てるからこそ、そこで多様な知識を得ることが可能になる。そして、知識の点と点を線として結びつけることで、新しいものを生み出すことができる。そういう意味でも、いろいろなことに興味を持てるマインドセットは大切です。そのための初めの一歩を、探究学舎で提供していければと考えています」(森田氏)

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