「好きなことがない」子どもなんていない! テレビで話題の塾講師が教える「子どもの好奇心の火のつけ方」「親にできること」

【今こそ学力観のアップデートをするとき】好奇心の種をまく探究学舎の学び#1 子どもが安心して学べる環境を

興味の芽を育てることができれば、子どもは誰でも学びに夢中になります。  写真:アフロ

未来はより一層、先の読めない時代です。

それゆえに、これまでのように暗記や反復で決まった答えを導く学力ではなく、いろいろなことに興味を持ち、積極的にチャレンジする力を身につけてほしい。そう考える親が増えています。

でも、実際はなかなか興味分野が見つからなかったり、すぐに飽きてしまったり、うまくいかないことも多いようです。子どもの興味や関心は、どうしたら伸びていくのでしょうか。

本連載では、オンラインと通塾を組み合わせた「興味開発型授業」が話題の塾、「探究学舎」で講師を務める森田太郎氏にインタビュー。森田氏は、都内の小学校に教諭として10年以上勤務したのちに、探究学舎講師へと転身し、現在は公立小学校の非常勤講師でもあります。

そんな森田氏に、子どもの興味・関心を育てるために必要な環境づくりや家庭でのサポート、親の姿勢などについてうかがいます。また、連載第2回以降では、実際に探究学舎の授業にライター親子が参加した様子をレポート。なぜ子どもたちがそれほど学びに夢中になるのか、参加後どう変化するのかなどに迫ります。

※全5回の第1回

【探究学舎】
「探究学舎」は2005年に設立。独自に設計された「子どもが夢中になる授業」が評判を呼ぶ。以来、オリジナルの授業は80種類を超え、2023年の総受講者数は約1万人を数える。国語や理科など、学校の勉強を教えない独特のカリキュラムが注目を集め、「情熱大陸」(代表の宝槻泰伸氏出演)、「世界一受けたい授業」(カタチの秘密や科学実験を紹介)などメディア露出も急増中の話題の「塾」。

【探究学舎講師 森田太郎氏】
森田氏は2006年から都内の小学校に教諭として13年勤務したのちに、2019年に探究学舎講師へと転身。「海のいきもの」や「植物」の授業が評判。現在は公立小学校の非常勤講師でもある。「探究学舎講師」「公立小学校の非常勤講師」「4児の父親」という立場から、子どもの興味や関心を引き出すための考え方や行動について語っていただいた。

【好奇心の種をまく探究学舎の学び:第2回 第3回 第4回 第5回を読む】
※公開日までリンク無効

「好きなことが見つからない」ワケは子どもが忙しすぎるから

子どもの好きなことが見つからない、長続きしない……。こうした親の悩みに対し、森田氏はご自身の教育現場での経験を踏まえて次のように話します。

好きなことがない子どもは、僕の感覚からすると100%いないですね。なのに、なぜ大人にはそう見えてしまうのか。理由は、“忙しすぎるから”だと思います。

今の子どもたちは、学校に加えていろいろな習い事をしていますよね。中学受験をする子なら、小学校3~4年生から塾にも通い始めます。こうした時間がない生活の中では、『これが好き』とか『おもしろそう』という感覚が自由に生まれにくくなってしまいます。

それに、興味を深めていくためには、それなりに時間がかかるんですよ。例えば昆虫が好きな子の場合、何回も虫取りに行って自宅で飼う。図鑑をじっくり読み、昆虫展に行ってみるなど、いろいろな方法で昆虫のことを知り、自分の中の関心を温める時間が必要です。

だけど、現状では実際に好きなことを見つけたとしても、時間が取れません。『熱中する』ところまで行きつかないんです。これまで学校や探究学舎の授業で、『この子はすごく興味がありそうだな』と感じても、忙しそうだと夢中になる前にフェードアウトしてしまうことが多かったですね」(森田氏)

最近では、無気力な子が増えているともいわれますが、それも子どもの忙しさに関係していると森田氏は指摘します。

「平日は学校の宿題と塾、週末は習いごと、といった具合に常に追われていると、子どもだってどこかで力を抜きたくなりますよ。そうした場所が、『学校』になる場合もあります。それを先生が見たら、『やる気がない』『無気力』だと感じてしまうんでしょう。でも、本来やる気はあるんです。一部分だけを見て子どもを判断しようとすると、本当の姿を見誤ってしまいます」(森田氏)

興味がなくなったわけでも無気力になったわけでもなく、多忙な環境が子どもを追い詰めていたのです。

「夢中」の裏には親の伴走あり

では、子どもの興味や関心の芽を摘まないために、親にできることはあるのでしょうか。

「最初にお話ししたように、好きなことは誰にでもあります。それがはっきりしてくるのが、幼児期から小学校2~3年生くらいまでの間です。生き物にハマる子もいればスポーツ好きな子もいるし、絵を描くのが好きな子など、内容はさまざまです。

その時期に大切になるのが、『家庭の中で子どもの心の安全が担保されている』ことです。好きなことを自由にやらせてもらえる、話をしたときに親が前向きな反応を返してくれる。こうした環境ならば、子どもは安心してやりたいことを続けますし、興味のあることについても素直に話します。

でも、『そんなことばかりやっていないで宿題しなさい』と否定されてばかりなら、子どもはだんだんと話さなくなります。防衛本能が働き、どうせわかってもらえないなら言わないほうがマシ、となるわけです」(森田氏)

子どもの「好き」や「やりたい」の内容にかかわらず、親は肯定して寄り添っていくことが基本です。さらに、「好き」から「熱中」に移行するには、もう1段階必要だといいます。

「子どもの好奇心は、熱しやすく冷めやすいものです。大人、特に親がその子の『やりたい』に伴走しないと、興味・関心の火はすぐに消えてしまいます」(森田氏)

「伴走」という言葉に、ドキッとした方もいるのではないでしょうか。普段の生活では忙しくて子どもの様子をじっくり見る時間がない……。そんな保護者に向けて、森田氏はこう付け加えます。

「伴走といっても、それほど難しく考える必要はないんですよ。楽しそうだから一緒にやってみよう、行きたがっていた場所に連れていこう、という程度で十分です。

好奇心の火を勢いよく燃やすためには、子どもが行きたい場所に連れていってあげられるのがベストですが、親も仕事や家事で忙しいですから、頻繁に遠方へ外出することは難しいかもしれません。でも、ほかにもできることはたくさんあるんです。

子どもが何か作品をつくったときに、それをよく見て『どうやってつくったの?』『すごいじゃん』と反応する、好きなことについて『ねえねえ、聞いて!』と言ってきたら、きちんと耳を傾ける。子どもが一番承認してほしいのは親ですから、親が興味をもってくれたらうれしくて、『もっとやってみよう』という気持ちが加速します」(森田氏)

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