「探究学舎」人気講師が「学校の常識を疑う」ことをすすめる深い理由 親も先生も「子どもの学びを支える仲間」になれる

【今こそ学力観のアップデートをするとき】好奇心の種をまく探究学舎の学び#5 学校への波及

探究学舎と三鷹市が共催する「探究カンファレンス in 三鷹」で熱心に対話する先生たち。  画像提供:探究学舎
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子どもたちの好奇心を刺激し、学びに熱中する「きっかけ」を提供する探究学舎の授業は、教育委員会の目にとまり、三鷹市内の公立小中学校へと広がりつつあります。

小学校教員を経て、探究学舎で講師を務めながら現在は非常勤講師として三鷹市内の学校で授業を行う森田太郎氏に、学校と探究学舎が連携する意義・効果についてうかがいます。

また、子どもが自らの興味・関心を広げ、いきいきと学ぶ環境を作るために学校、民間企業、家庭がそれぞれできること、大切になる視点なども教えてもらいました。

※全5回の第5回、#1を読む、#2を読む、#3を読む、#4を読む。

【探究学舎】
「探究学舎」は2005年に設立。独自に設計された「子どもが夢中になる授業」が評判を呼ぶ。以来、オリジナルの授業は80種類を超え、2023年の総受講者数は約1万人を数える。国語や理科など、学校の勉強を教えない独特のカリキュラムが注目を集め、「情熱大陸」(代表の宝槻泰伸氏出演)、「世界一受けたい授業」(カタチの秘密や科学実験を紹介)などメディア露出も急増中の話題の「塾」。

【探究学舎講師 森田太郎氏】
森田氏は2006年から都内の小学校に教諭として13年勤務したのちに、2019年に探究学舎講師へと転身。「海のいきもの」や「植物」の授業が評判。現在は公立小学校の非常勤講師でもある。「探究学舎講師」「公立小学校の非常勤講師」「4児の父親」という立場から、子どもの興味や関心を引き出すための考え方や行動について語っていただいた。

【好奇心の種をまく探究学舎の学び:第1回 第2回 第3回 第4回を読む】
※公開日までリンク無効

公立学校にも広がる探究学舎の学び

オンラインと通塾を組み合わせた「興味開発型授業」が話題の「探究学舎」。子どもや保護者からの支持は年々広がり、その流れは公立小中学校にも波及しています。

探究学舎は2022年度より、オフィス及び教室のある三鷹市と「授業づくりに関する連携協定」(以下、協定)を締結。小中学校の先生とともに、子どもたちの興味を引き出す授業開発を行っています(2021年度は小規模で研修などへの協力を実施)。

具体的には、希望する先生に、探究学舎が興味開発型の授業作りに必要な技術やノウハウを伝授。年間10回ほどの研修を通して、先生たちと意見交換しながら学校でも取り入れられる探究型の授業を作り出しています。

制作した授業を発表し、意見交換する「探究カンファレンス in 三鷹」は大いに盛り上がります。  画像提供:探究学舎

探究学舎の授業「探究スペシャル」に先生がスタッフとして参加するなど、研修には実践型の内容も多く含まれています。2022年度より、毎年30名ほどの先生が参加しています。

このプロジェクトのリーダーを務める森田氏は、協定の意義を次のように語ります。

「子どもたちがおもしろいと感じて主体的に学ぶ。こうした授業に変えていくためには、学校の先生が外の世界に出ていろいろな人と触れ合い、新しい要素を取り入れることがすごく大事です。そのための一つのきっかけになっているとは思いますね」(森田氏)

しかし、学校の先生がそうした時間を確保するのは、非常に難しいのも事実です。

「先生方はとにかく毎日忙しい。子どもたちの提出物や宿題の確認、資料作成、保護者への連絡、職員会議など、勤務中は授業以外のことでも埋め尽くされています。休憩が取れている先生はほとんどいないと思いますよ。授業準備などは、必然的に勤務時間外に行うことになります。

そんな状態では、外に学びに行きたくてもその時間が取れません。これは先生個人が悪いのではなく、そうならざるを得ないシステムの問題です。

ですから、僕たちが結んだ協定では、研修を勤務時間として扱うなど、少しでも先生方が参加しやすい制度になるように、教育委員会と協議しました。気軽に参加できる、とまではいきませんが、希望者が無理なく参加できることを大切にしています」(森田氏)

多忙な中を何とかやりくりして研修に参加した先生方には、大きな変化が表れています。

「教育委員会の方からも、研修を受けた先生の授業が変わってきた、という声を聞いていますし、もちろん僕も、先生たちを見ていて相当変わったなと実感します。

まず、授業作りの根本、スタート地点が変わりますよね。子どもたちが、自分から学びたいと思うにはどうしたらいいかを考えられるようになる。つまり、『学習者主体』の視点を持てるようになっていくんです。

それに、1年間の研修を終えたあとも、『今、こんな授業をしているんですけど見てください!』と気軽に探究学舎のオフィスを訪ねてくれる方もいます。先生は、普通に生活していると学校と家の往復で、その中でしか学ばない状況になりがちですから、新しい交流の場所になっていることにも意味があると感じています」(森田氏)

対立ではなくともに子どもを支える仲間に

探究学舎と学校では、授業作りの方法が大きく異なります。

費やせる時間数がまったく違います。探究学舎では、オンラインコースの授業(2ヵ月・8時間分)を、3ヵ月ほどかけて制作します。現場に行って取材したり、製作者が実際に体験したりして授業を作り上げていきます。

ですがもちろん、学校の先生にそんな時間はありません。それは僕が学校で教えていたからこそ知っていることです」(森田氏)

まずはそうした前提の違いを知ってもらうために、プロジェクトを開始する際、森田氏は探究学舎のスタッフに、実際に学校で先生の授業を見学することを提案しました。

「自分の目で見てみないと、先生がどういう一日を過ごしていて、どんな状況で授業をしているのかわかりませんからね。

スタッフは先生の過酷な状況に驚いていましたよ。『あんな毎日の中で授業作りをしているなんて、本当にすごい』とも言っていました。一緒に授業を制作する上では、お互いを知ることがとても大切ですから、スタッフが先生の大変さ、厳しさを実感できたのは非常に良かったと感じています。

その上で、今できることをともに考え実践していくことに意味があると考えています」(森田氏)

さらに、協定は探究学舎にとってもプラスの効果をもたらしたといいます。

「スタッフが学校現場を訪ねたことで、先生と子どもを取り巻く環境への理解を深めることができました。

その結果、学校の授業や学びを軽んじることがなくなりましたね。『学校の授業はつまらないけれど、探究学舎は楽しい』という認識があるスタッフもいたと思いますが、それも変わりました。

さらに、『今日の内容は学校にもきっと得意な先生がいるから、聞いてみたら喜んで教えてくれるかもしれないよ』と伝えるなど、広い視点を持って子どもたちに接することができるようになってきました。

目には見えませんが、子どもたちにも良い影響があると感じています」(森田氏)

探究学舎のオンラインあるいはリアル講座を受講すると、「学校でもこんな授業ならいいのに……」との考えに安易に至ってしまいますが、制作はもちろん、授業に関わる大人の人数など、さまざまな環境や条件が異なるため、単純な比較はできません。

相違を前提に、学校と対立するのではなく、ともに学びを支えていく仲間になる。こうした大人の態度が、子どもたちの安心感を生み出し、ワクワクする学びにつながっていくのです。

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