奄美大島発・病院で聞けないことも「暮らしの保健室」で 離島の若き産婦人科医が語る

奄美大島の産婦人科医・小徳羅漢先生に聞く「離島診療と島でのお産」 #3 離島での「暮らしの保健室」の活動と島の未来について

産婦人科医:小徳 羅漢

島に産後ケア施設を作りたい

小徳先生:また、離島医療をやっている身としては、情報発信をすることも大切だと感じています。医者は、僕みたいにおしゃべりな人ばかりではなくて(笑)。

本当はとてもいい先生なのに、地域の人に無口で怖いと言われている先生もいて、本当はどんな思いで医療されているのかを僕らが代弁するだけでも、何かが変わると思うんです。発信することで、島に住む人たちのいい発見につながればいいですよね。

オンライン取材中の小徳先生。

小徳先生:地域のお母さんたちのケアに関してだと、産婦人科は産んだらおしまい、ということが多い。精神科医がいない離島だと、産後のお母さんの精神状態をきちんと見られる人がいないんです。僕の病院でも、助産師さんと産婦人科で頑張ってサポートに入りますが、正直、限界もあります。

今後やりたいことのひとつとして、産後うつになりそうなお母さんたちを救う、宿泊型の施設を作りたいと思っています。お子さんも一緒に泊まれる宿泊型の産後ケア施設があるだけで、お母さんたちの気持ちが大きく変わるのではないか、と。
産後のお母さんたちに産後ケア施設で回復してもらうことで、最悪のケースになることをどうしても避けたいんです。

先日(2023年12月)、奄美大島の名瀬徳洲会病院で、宿泊型の産後ケアができるようになりました。奄美市に住所のある産後1年未満の方は利用することができます。

僕はもっと奄美大島に産後ケア施設を作りたいと思っていて。行動には移していますので、2024年に何かいい報告ができるといいなと思っています。そのときは、またコクリコさんで紹介させてくださいね。

島全体での子育て

──先生のお子さんは離島生まれの3歳。島育ちですね。島での子育ては、本土で育った先生からすると大きな違いはありますか?

小徳先生:はい。奄美大島で生まれた3歳の子どもと、今、妻のお腹の中に2人目の子が育っています。3歳の娘は、東京に行っても大阪に行ってもすぐに「奄美に帰りたい」と言うんです(笑)。

小徳先生はご家族で海岸に行くことも多いといいます。  画像提供:小徳羅漢

小徳先生:奄美大島は、自然があって本当に美しい島。自分も妻も本土出身なので、両親に子育てを手伝ってもらうことはできません。なので、奄美の人たちが娘にとってのおじいちゃん、おばあちゃんです。それに、僕たち夫婦にとっても家族です。
 
きっと、自分と妻だけでポツンと島で孤立していたら、産後も子育ても何倍も大変だったんじゃないかなぁ……。きっと家族全員が崩壊していたと思いますね。

奄美には、地域全体で子育てをするひと昔前の日本が残っていて、本当にありがたいなと思って今、暮らしています。

「娘と奄美のアートフェスで壁いっぱいに絵の具でお絵かきをしたときの1枚です」(小徳先生)。  画像提供:小徳羅漢

僕は、お母さんたちが幸せに暮らす島は、島全体が幸せになると思っています。そのためには、周産期、産後ケア、育児のサポートは欠かせません。「お産がとれる総合診療医」として、いろいろな活動をしながら、これからも島のみなさんに寄り添っていきたいです。

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開業医が少なくなっているという離島の問題。それを、小徳先生が始めた「暮らしの保健室」でフォローしたり、繫ぎ役になっていることを頼もしく感じました。

妊婦さんや子育て中のお母さんたちが、幸せに暮らせる島を目指す小徳先生の活動を、これからも応援していきたいと思います。

取材・文/浅妻千映子

小徳羅漢先生の連載は全3回。
1回目を読む。
2回目を読む。

26 件
ことく らかん

小徳 羅漢

Kotoku Rakan
産婦人科医・総合診療医

産婦人科専門医・総合診療医。 1991年、茨城県生まれ。小学校高学年から神奈川県で暮らす。2016年、東京医科歯科大学(現・東京科学大学)卒業後、鹿児島市医師会病院で初期臨床研修。2018年は長崎県上五島病院、2019年には離島へき地医療の最先端といわれるオーストラリア・クイーンズランド州で研修。 2020年~現在は鹿児島県立大島病院に勤務。 病院勤務以外に、街中で医師らに無料相談ができる「暮らしの保健室」を開催。 2018年に結婚、2020年に夫婦で鹿児島県奄美市に移住。2児の父。趣味は温泉巡りと映画鑑賞、そして島巡り。 @rakankotoku

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産婦人科専門医・総合診療医。 1991年、茨城県生まれ。小学校高学年から神奈川県で暮らす。2016年、東京医科歯科大学(現・東京科学大学)卒業後、鹿児島市医師会病院で初期臨床研修。2018年は長崎県上五島病院、2019年には離島へき地医療の最先端といわれるオーストラリア・クイーンズランド州で研修。 2020年~現在は鹿児島県立大島病院に勤務。 病院勤務以外に、街中で医師らに無料相談ができる「暮らしの保健室」を開催。 2018年に結婚、2020年に夫婦で鹿児島県奄美市に移住。2児の父。趣味は温泉巡りと映画鑑賞、そして島巡り。 @rakankotoku

あさづま ちえこ

浅妻 千映子

料理研究家・ライター

料理研究家、フードライター。東京都出身。『dancyu』、『Figaro』、『Pen』、『サライ』等の雑誌やオンラインを中心に、主に食や料理人について執筆。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。身近な素材を中心に、短時間で作れる料理や、ちょっとおしゃれなおつまみレシピが得意。ワインスクール「アカデミー デュ ヴァン」でワイン&クッキングクラス担当。子育てのストレス解消は水泳。1児の母。 <主な著書> 『ほめられレシピ』主婦と生活社/『浅妻千映子キッチン』ぴあ/『パティシエ世界一』PHP文庫(辻口博啓シェフと共著)、『江戸前「握り」』光文社新書(荒木水都弘さんと共著/『東京広尾アロマフレスカの厨房から』光文社新書(原田慎二シェフと共著)など。また、毎年刊行されるレストランガイド『東京最高のレストラン』の選者の一人。

料理研究家、フードライター。東京都出身。『dancyu』、『Figaro』、『Pen』、『サライ』等の雑誌やオンラインを中心に、主に食や料理人について執筆。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。身近な素材を中心に、短時間で作れる料理や、ちょっとおしゃれなおつまみレシピが得意。ワインスクール「アカデミー デュ ヴァン」でワイン&クッキングクラス担当。子育てのストレス解消は水泳。1児の母。 <主な著書> 『ほめられレシピ』主婦と生活社/『浅妻千映子キッチン』ぴあ/『パティシエ世界一』PHP文庫(辻口博啓シェフと共著)、『江戸前「握り」』光文社新書(荒木水都弘さんと共著/『東京広尾アロマフレスカの厨房から』光文社新書(原田慎二シェフと共著)など。また、毎年刊行されるレストランガイド『東京最高のレストラン』の選者の一人。