奄美大島発・病院で聞けないことも「暮らしの保健室」で 離島の若き産婦人科医が語る

奄美大島の産婦人科医・小徳羅漢先生に聞く「離島診療と島でのお産」 #3 離島での「暮らしの保健室」の活動と島の未来について

産婦人科医:小徳 羅漢

「暮らしの保健室」開催のある日より。一番左が奄美大島の産婦人科医・小徳羅漢先生。  画像提供:小徳羅漢
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奄美大島で産婦人科医として多忙な日々を送る、小徳羅漢(ことく・らかん)先生。

前回では、実際に離島での診療から見えてくる問題などをお話しいただきました。

小徳先生は、3歳のお子さんを子育て中のパパでもあります。さらに来年には、第2子も誕生予定とのこと。

3回目では、離島での子育てや島でスタートさせた「暮らしの保健室」、離島の未来についてお伺いしました。

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小徳羅漢(ことく・らかん)
茨城県出身。2016年東京医科歯科大学医学部卒業後、鹿児島市の病院にて初期臨床研修を修了。2018年より「離島・へき地研修プログラム」2期生として長崎県上五島病院に所属。2019年4月〜6月にはオーストラリア・クイーンズランド州で研修を受ける。
2020年10月より鹿児島県奄美大島の県立大島病院にて産婦人科医として勤務。「暮らしの保健室」や「離島医療人物図鑑」の運営も行っている。

離島での「暮らしの保健室」

──小徳羅漢先生が島で現在されている活動や注目していることについて教えてください。

小徳羅漢先生(以下、小徳先生):研修医のとき、漫画「Dr.コトー診療所」のモデルとなった瀬戸健二郎先生がいる甑島(こしきしま)の診療所に1ヵ月間滞在していたのですが、そのとき島の様子を見ていて、イギリスの「社会的処方」に興味を持ちました。

世の中には、薬だけで治らない病気があります。明らかに寂しさが原因で飲酒している人に、いくら禁酒の薬を与えても治りません。イギリスでは、総合診療医がそうした人々をさまざまなサークルに誘って繫ぎます。これが社会的処方です。

日本では、2010年から「暮らしの保健室」という活動があります。これは、町の人々が、医療者に無料で話せる相談所です。北海道から九州まで、現在では50ヵ所以上に広まっていますが、離島ではまだあまりありませんでした。

道端でもできる気軽なものなので、これなら自分でも始められそうだなと。看板をデザインして発注。商店街のアーケードの一角でやってみました。チラシを作って、病院や商店街に置いてもらい、当日は無料でコーヒーを配って。だんだん仲間も増え、かれこれ1年ほど続けています。

小徳先生がデザインした「暮らしの保健室」看板。開催しているときはこの看板が目印に。  画像提供:小徳羅漢

小徳先生:「暮らしの保健室」は、島での認知度も今では上がってきていて。すごく嬉しいですね。

ここに来てくださる島の方たちは、病院で聞けないようなことを相談してくれています。例えば、「主治医と仲が悪くなっちゃった」とか。確かに、それは病院では話せないことですよね(笑)。明確な答えが出せなくても、まずは話を聞くのが僕らの役割です。来た方からは、「話しただけでも楽になった」とおっしゃっていただくことも多いです。

子どもの不登校の相談もあります。実際にその子を診るわけではないけれど、まずは来てくれたご両親の話を聞く。その中で、小児科に行ったほうがいいかなという所見があれば、病院受診を勧めることはあります。

「暮らしの保健室」では、薬が出せるわけではありませんが、チームには看護師、栄養士などいろんな人たちがいます。相談ごとに応じて、人から人へ繫ぐこともできます。

「暮らしの保健室」での1枚。  画像提供:小徳羅漢

ちなみに全国の「暮らしの保健室」には、年配の方が来ることが多いと言われていますが、奄美大島では若い方が多めですね。風船を配ってくれる「風船おじさん」が来てくれることもあり、それを目当てに親子で来てくれたり。

あとは、僕が産婦人科医ということも大きいのかなとも思っています。お母さんたちから、女性特有の悩みなどを相談されることも多いです。

「暮らしの保健室」ではコーヒーも一緒に。  画像提供:小徳羅漢

相談を受けることで島の問題点が見えてくる

──「暮らしの保健室」で相談を受ける中で、島の子育ての実態や医療の問題が見えてくることもありますか。

小徳先生:ありますね。今、奄美では開業医が減ってきています。医師の高齢化で、閉まってしまったところが多いんです。町医者がなくなると、いきなり県病院のような大きなところに行くことになります。そうなると、年齢を問わず、不調のときに気軽に受診しにくくなりますよね。

また、地域のお母さんたちの話を聞いていると、精神的につらそうな人も少なくないと感じました。

──それを解決する手段は、考えられるのでしょうか。小徳先生が取り組まれていることがあればそれも教えてください。

小徳先生:開業医を増やすことに関しては、1人ではなく、チームで開業するのが良いのではないかと考えています。

1人の医師に依存し、休みも取らず、命を削りながら開業するのは良くないし、そもそも医者としてもやりたくないですよね。もしそこに飛び込もうと思う人がいても、相当勇気がいることです。

離島医療の理想としては、総合診療医を含めた複数人が集まっている形がいいのではと思っています。子どももお年寄りも診られて、在宅医療もできる。そこに行政のサポートが入れば、なおありがたいですよね。

僕は奄美に限らず、島やへき地にそういう開業医が出てきてほしいと願っています。志を共にする4人くらいでやっていれば「来年から留学したい」と1人が言い出しても、快く送り出せる。そんな医療体制なら持続可能かなと思います。もしくは開業そのものを医者がやるのではなく、別に経営母体があればよりいいですよね。

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