『SDGsで考える「おむつの未来」』というテーマでお送りしてきた連載も、今回で最終回。
保育園の「使用済みおむつ持ち帰り問題」(#1)から、便利な「おむつサブスク最新事情」(#2)、そして、紙おむつが抱えるゴミ問題を解決すべく立ち上がった「水平リサイクル」(#3)の取り組みについてなど、さまざまな角度から紙おむつの未来を考えてきました。
子どもが一人でトイレに行けるようになったら、紙おむつからは卒業です。でも、乳幼児用の紙おむつは使わなくなっても、軽い尿漏れ用や介護用紙おむつなど、形を変えてまたお世話になるときがくるかもしれません。
紙おむつの水平リサイクルが進んだ未来では、わたしたちの生活はどう変わるのでしょうか。前回から引き続き、ユニ・チャーム株式会社、大王製紙株式会社の2社にインタビューします。
※全4回の4回目。1回目、2回目、3回目は、こちら。
技術開発には使用済みのおむつが必要
前回(#3)でも触れたとおり、ユニ・チャームと大王製紙は、紙おむつの水平リサイクルを目指して日々奮闘しています。
大王製紙は2023年7月から、紙おむつ等の吸収体製品に使用するフラッフパルプの生産を計画しています。
「社内で『フラッフパルプを作ろう』という動きと、『紙おむつのリサイクルを始めよう』という動きがありました。このふたつの取り組みが合わさって、今回『水平リサイクルを目指していこう』ということになったのです」(大王製紙・企画技術開発部・竹内寅成さん)
2022年6月には、紙おむつ水平リサイクルの共同研究を発表。世界的にも例が少ない紙おむつのリサイクルシステムを国内ではじめて構築した、トータルケア・システム株式会社(福岡県)から技術提供を受けることを決めました。
トータルケア・システム社は、紙おむつリサイクル業界では名の知れた先駆者。医療機関・福祉施設や一般家庭から排出される年間5,000トンを超える使用済み紙おむつを、建築用資材などに生まれ変わらせています。
「まずはトータルケア・システム社の技術でパルプを取り出していただきます。そこから、大王製紙が『フラッフパルプ』へと生まれ変わらせる研究をはじめています」(大王製紙・竹内さん)
使用済み紙おむつのリサイクル推進に向けては、地方自治体や病院、福祉施設といった排出事業者の協力が必須だと、竹内さんは語ります。
「リサイクルの第一段階は、病院や家庭から、使用済みおむつを集めることです。それを処理施設へ運び、分解し、それぞれの加工工場へ行くという流れになります。
今までの使用済みおむつの主な廃棄フローは、病院や家庭から処理場へ運搬、焼却という流れでしたので、この流れを含めて構築していきたいと思っています」(大王製紙・竹内さん)
自治体とのタッグで実証実験を開始
「使用済み紙おむつの商品化を進めるなかで、自治体での実証実験が不可欠だということに気がついた」と、ユニ・チャームの織田さんも話します。
ユニ・チャームは2016年、鹿児島県志布志市や曽於郡大崎町と共同で、使用済み紙おむつの最適な収集方法とそのリサイクル技術の構築に向けた実証試験を開始しています。
でも、どうしてこれらの市や町と取り組むことになったのでしょうか。
「こちらの市と町は、もともとゴミを27品目に分類して回収していて、自治体と住民の方々が、環境問題に対する意識が高かったためです。
これらの自治体は焼却施設を持たず、埋め立て処分場を共同で持つ状態でした。ですから『このままではいつか最終処分場がいっぱいになってしまう』という危機感がありました」(ユニ・チャーム・織田さん)
志布志市では、1998年からごみの分別回収を開始し、その結果、76%の資源化に成功します。一方で、資源化できなかった埋め立てごみのうちの1/5は、使用済み紙おむつでした。
市にとっても「紙おむつのリサイクル」は急務だった、ということです。
現在ユニ・チャームは、「そおリサイクルセンター(大崎町)」と紙おむつの完全水平リサイクルを目指して、最終の技術検証中。鹿児島県内の高齢者施設では、リサイクルパルプを使用した紙おむつを使用してもらい、品質に問題ないことが確認できている段階だといいます。
「紙おむつの回収量を増やし、リサイクル商品として発売できるところまでいきたい」と、織田さん。目標としては、2030年までに全国10ヵ所以上の自治体で水平リサイクルの実現ができることです。
「そのためにも、志布志市や大崎町での検証は重要です。ゆくゆくはこれらの市や町で確立したリサイクルモデルが、全国に拡大していくことを目指しています」(ユニ・チャーム・織田さん)