『劇団四季』で活躍する子どもたち 子役からの将来を導く指導方法とは? 

子どもの居場所 ルポルタージュ #5~後編~ 子役を指導する遠藤剛さん

ジャーナリスト:なかの かおり

コロナ禍の子どもの暮らしの取材・研究を重ねるジャーナリスト・なかのかおりさんによる、子どもの居場所についてのルポルタージュ連載。

第5弾は、『劇団四季』で活躍する子役に着目。前編では、『劇団四季』のミュージカル「バケモノの子」で主人公の少年時代を演じる小学5年生の照井航ノ介さんのインタビューを紹介しました。

後編では、『劇団四季』の俳優出身で、現在は子役を指導する遠藤剛(えんどう・つよし)さんが、子役をどのように指導し、支えているのかや、子どもたちの進路についてのお話を紹介します。

(全2回の後編。前編を読む

どんな子にもチャンスはある

『劇団四季』の作品に、俳優として出演していた遠藤剛さん。10年ほど前、子役が多い演目の開幕の際に、子役の指導者が必要ということで、遠藤さんが手を挙げました。それ以来、子役指導を主に担当しています。

「教員志望の学生だったころ、『劇団四季』の舞台を観て憧れました。大学卒業後、四季の研究生になり、その後『ライオンキング』に出演しました。子役指導になってからは、『劇団四季』のマインドや基礎を子役に伝え、サポートする役割をしています」(遠藤さん)

『劇団四季』の舞台に出る子役の中には、歌や演技の経験がない子もいます。他の演目でも子役は出演していますが、『バケモノの子』の子役はセリフも歌も多く、難しそうです。前編でインタビューをした照井航ノ介さんは『バケモノの子』が初めての舞台で、遠藤さんは基本からしっかり照井さんと向き合いました。

『劇団四季』「バケモノの子」で主人公の子ども時代を演じる照井航ノ介さん(右)。  写真提供:劇団四季(撮影・阿部章仁)
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「自分が華やかに活躍していたタイプではないから、子役にはいろんなことにチャレンジさせたいと思っています。恵まれている子だけが、活躍できる世界ではなくて『劇団四季』は、どんな子にもチャンスがあるのが良いところです。

子役のオーディションをする際、誰にでも可能性がある。技術面での上手や下手はありますが、個性が大事。審査員が、『この子がこの役をやったら、どうなるだろう』、『舞台に立つところを見たい』と思う子が、合格することもあります。技術だけで決まるわけではありません。

舞台が初めての子は、レッスンも大変ですが、全身で応えてくれます。稽古初日には、『開幕に向けてよろしくね、心して稽古を』と伝えます。

子どもたちはずっと成長し続けて、その役を卒業するときには、それぞれの役を育ててくれています。公演のラストには、よくがんばったねと送り出します。私も、子役と一緒に成長していきます。舞台のたびに新しい課題を提示すると、どの子も成長します。意識せずに、レベルを維持するのは難しいからです」(遠藤さん)

厳しさも、温かさも併せ持つ指導者

真剣に指導をして、子役を成長させつつ、ひとりひとりを大事に支える遠藤さん。筆者が主人公の子ども時代を演じる照井さんと、遠藤さんの写真を撮影するとき、2人の信頼関係が伝わってきました。照井さんが遠藤さんにハグしたり、ぴったりくっついたり。

主人公の子ども時代を演じる照井航ノ介さんと子役指導の遠藤剛さん。  撮影:なかのかおり

「最初は、指導者と生徒という関係です。信頼関係ができたところで、『本音を言っていいよ』と伝えるようにしています。私は、一番、厳しい人と言われるべきです。でも困ったときには頼れる、甘えやすい関係も大事です。子役がわからないことがあれば、こっそり伝えるとか。

蓮/九太役は、大人に対してものおじせず、ぶつかっていく場面からスタートします。一幕で心を開いて、解放するところまで表現する。そうした役に、飛び込める環境を作ることを心がけました」(遠藤さん)

こうしたサポートだけでなく、稽古・本番のスケジュールや、感染予防などにも気を配ります。

「ロングランですと、ひとつの役に、4~5人の子がいます。学校生活との両立が図れるように、調整もします。

コロナ禍以降は、少人数で稽古し、稽古場の換気や消毒など、衛生面も気をつけています。マスクをして稽古するため、子役の素顔が舞台稽古まで見えないのは、ちょっと寂しいです。呼吸法や開口訓練などもマスクをしたまましています」(遠藤さん)

『劇団四季』の舞台でスポットライトを浴びる、選ばれた子役といっても、まだ小学生です。遠藤さんのような心を開ける大人がいて、心身をサポートされていることに、ほっとする思いがありました。

「体の小さな子役が、舞台の真ん中で、全身でがんばっていることにも、お客様は感動するのだと思います。子どもは、その年齢で出てくるものが違います。その成長段階でしか見られない、個性がある。例えば、小学6年生の深み、4年生のストレートなドキッとするセリフ。

照井くんも、今の彼だから出せるもの、演じられる魅力があり、それは1年後にはもう変わってしまいます。つけられた演出の中で、彼らの表現したいように導いてあげることは、やりがいがあります。自由に伸びやかに、役を生きるサポートにゴールはなく、常に発見があります」(遠藤さん)

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